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3F/長期滞在者&more

匂いについて

長期滞在者

どうでもいいことを書くけれど、僕は冬でも夏でも保温水筒に毎日熱いジャスミン茶を入れて出かける。前はそれが烏龍茶だったり緑茶だったりした時期もあるが、結局一番飽きないという理由で、最近もう何年もジャスミン茶である。Amazonの定期配達便にジャスミンの茶葉を登録しているくらいだ。
昔働いていたカンテ・グランデのメニューにジャスミン茶の説明として「毎日飲むと体からいい匂いがしてくるそうです」と書いてあった。長年飲んでいる僕の体はいい匂いなどしないから、あれは嘘だったのだろうか。それとも飲む習慣をやめた途端に僕の体から汚臭がしてくるのであろうか(まさかジャスミン茶がこれをキワキワで防いでくれているとは! 笑)。

こういう嘘か本当かわからない話は他にもあって、何かで読んだ記憶があるのだが、ジャスミンの花の香り成分は、良い匂いではあるのだが、実はヒトの糞便の匂いと一部共通する成分が入っており、むしろそれがジャスミン茶を飲めばリラックスできる理由なのだ云々。
よく考えてごらん、他人のはさすがにアレだけど、自分が排便するときの匂いというのは、正直ちょっと、自分の心を落ち着ける部分もあるでしょう?(とその記事は言うのだ)

これ本当なのかな、と、とりあえず手っ取り早くChat GPTに聞いてみたのである。
彼はとても丁寧に返答をくれたのだが、まぁ要約するならば「んなわけねーだろ」であった。
ええ、そうなの? 昔読んだ時にはなんとなく納得したんだけどな。他人のは嫌だよさすがに。でも自分のは、こんなことわざわざ書くのも何だけど、嫌いではないよ(AIにはわかるまい)。
で、もうちょっと根気よく調べた結果、スカトールという香り成分がジャスミンにも糞便にも含まれているという記事を見つけた。
ほらやっぱり。
スカトールって、ネーミングがあまりにド直球。160km/hずこーん。スカトール! 小林製薬もびっくりだ。

本題とは外れることを言うけれど、Chat GPTってめっちゃテキトーなやつですね。しれっと嘘を言う。嘘を指摘すると丁寧に謝ってきてまた嘘を言う。あれ、せめともうちょっと精度高めてくれないとね。
戸川純って誰? って聞いてみたらヒット曲「学生街の喫茶店」「さよならエレジー」とか言いよるねん。40年彼女のファンやってるけど初めて聞いたわ。世の中知らんことがまだまだいっぱいやな。まぁそんなことはいいとして。


と、こんな繊細な(?)ことを書いてていうのも何なのだが、おそらく僕は匂いというものに、人より鈍感なのだと思われる。職場で下水が詰まって悪臭が発生して「あれ、臭くない?」と皆が言い出しても、僕は最後にそれに気づく感じ。ああ、そういえば、くらいに。
実際に機能的に鈍いのか、もしかして匂いに対する許容度が広いのか、それはわからない。
また昔の職場の話になるけれど、カンテの厨房で、バイト仲間の親御さんが送ってきてくれた滋賀名産「鮒鮨(ふなずし)」を開封して、その強烈な発酵臭に皆がたじろぐ中、「あれ、おいしいですよ、皆食べないんですか?」と嬉々として箸を伸ばしていたのは僕だけだった、ということがある。
もうちょっと極端ではない例を探すならば、カンテのメニューにラプサン・スーチョンという、茶葉を燻して強い香りを付けた中国茶があり、「正露丸みたい」と敬遠する人が多い中、僕は社販でそれを安く買いこむくらいに愛飲していた。というかそもそも正露丸の匂いも嫌いじゃないしね。
これを「許容度が広い」ととるか、鈍いだけやろ、と考えるか。
「鮒鮨」や「ラプサン・スーチョン」を楽しくいただける、というのは人生の幸運であろうけれど、微細なガス臭や焦げ臭に気づかず逃げ遅れて死んだりするかもしれないし、もし単に「鈍い」のであれば生死にもかかわる問題であるから困ったものである。

正露丸の話が出てきたのでまた脱線するけれど、子供の頃、腹を壊すと祖父が正露丸を飲めという。今でこそ正露丸の匂いは嫌いではないが、まぁ子供の頃はやはり「くっさー」と思っていたはずだ。瓶に書いてある容量通りに正露丸を飲もうとすると「そんな量で効きゃせんわ。6個飲め、6個」と、必ず6個飲まされる。何の根拠で6個なのかは知らないが、祖父にとって正露丸は6個飲むもの、なのだった(正しい用量は今調べると大人4錠、子供は3錠とある)。
祖父のことは大好きだったけれど、今考えると「薬は倍量飲まねば効かない」という間違った教えは、のちの僕に悪い影響を及ぼした。「薬というものは多めに飲まねば効かないのだ」と刷り込まれた僕は、大人になっても平気で規定用量を超えた薬を飲むようになり、頭痛持ちで「頭痛薬をラムネのように摂取する」僕を見て職場の若い男の子がビビっていた、というのを後から聞いた。ラムネのように、はさすがに大袈裟だが、常に机にロキソニンの入った缶を置いて頻繁に飲んでいたのは事実である。
結局長年の間違った習慣で胃を荒らした僕は医者に怒られ「死にたいのか」と脅された。
僕に薬を倍量飲ませた祖父は93歳まで生きたので話はとてもややこしいのだが。
それにしても、皆さん、薬の用法は遵守されますように。

匂いの話に戻ろう。
匂いの強いお茶といえば代表格はさっき書いたラプサン・スーチョンだけれど、ほかに苦手な人が多い印象なのがプーアール茶だ。
お茶というのは茶の葉を発酵させる度合いで種類が決まる。発酵が始まる前に殺青(加熱して発酵を止めてしまうこと)するのが緑茶、少し発酵させてから殺青するのが烏龍茶、発酵をそのまま進めたのが紅茶なのだけれど、いったん加熱して発酵を止めた烏龍茶系の茶葉に麹菌を加えて別種の発酵を足すのがプーアール茶である。発酵ダブルパンチで真っ黒けなのである。なので黒茶ともいわれる。
僕はこれも美味しいと思うのだが、足された発酵による匂いにカビ的な臭さを感じて苦手にする人も多い。
そのプーアールを煮出してミルクとバターと塩を入れて出す「チベタン茶」というメニューがカンテにあったなぁ、そういえば。
名の通り、チベットの山岳地帯で寒い中、暖をとるためのお茶であり、現地の環境で飲めばきっと美味いのだと想像できる。しかし、日本の気候で普通に飲むと、いろんな許容度の広い僕であっても、うん、まぁ・・・決して美味しくはなかったな。

というわけで、今回は匂いについての色々をつらつら書いているのだが(まとまりなくてすみません)、僕ら写真を撮る人間にとっては、やはり匂いというと暗室の匂いである。
酢酸と定着液の混じった何とも不思議な匂い。職場でも家でも、二十代の頃からずっと嗅いできた匂いだ。十何年か前にまず職場から暗室が消え、去年とうとう自宅の暗室も無くしてしまった。
ノスタルジーで語るのは嫌いだけれど、やはりあの「匂い」が写真制作から消えてしまったのは少し寂しい。
年に何度かでもいいからレンタル暗室を使ってプリント作業を続けてみたいと暗室を閉めた当初は思っていたが、あれからまたびっくりするような感材の値上げで、日常的な写真に使うには現実的な値段ではなくなってしまった。

いろんなことを忘れてしまう年齢に突入したけれど、匂いというものはなかなか忘れない仕組みになっているのか(危険察知機能を備えているだけに?)、なんか暗室の匂いというのはこれからも忘れないような気がするなぁ。


カマウチヒデキ

カマウチヒデキ

写真を撮る人。200字小説を書く人。自転車が好きな人。

Reviewed by
藤田莉江

さあ、今月の記事はどんなかしら、と、レビューのためひと足早く皆様より記事をひらく。

それをたまたまジャスミン茶を片手に、だったので笑ってしまった。気が合いますね。

今回は匂いにまつわる話。
まさに飲みながらリアルに想像するのはちょっと遠慮させていただきましたが、言われてみると?確かに?と、思わなくもない同性質の香りがあるような気がしてきました。

匂いというのは人工的なものから自然のものまで、確かに記憶とよく結びついているし、おばあちゃん家のにおいとか、夕立前のにおいとか、歯医者さんのにおいとか、そう、暗室のにおいとか。
魂レベルで記憶され、死ぬまで忘れられないにおいがあります。
なのに、においというものを「取っておく」ということはできず、香りをつけるためのものも、変質してゆくものだったりします。
香水とか芳香剤とか。
なかなか不安定なもので、固定できないものなんでしょうね。

と、話しつつ。においの話ですぐ思い出すのは、関西の方なら誰でも知っているであろうご長寿番組、「探偵ナイトスクープ」の有名な依頼に、「亡くなったお父さんのにおいが残る枕などのにおいが薄れてきてしまい、寂しいからそれを技術でなんとかして人工的に作って!」というような依頼の回がありました。
多分ネットのどこかには動画が残っていると思います。結果はというと、これをほんとに技術でなんとかしちゃうのですが、なんとも泣ける話で自分もおすすめなので気になる方は探してみてください。

体臭、というほどではなくてもひとにはそれぞれ多少のにおいがあって、亡くなったりしたらもうその匂いってものも当然なくなってしまって。
自分も母親のにおいというのは覚えているつもりですし、帰省した時に母の布団を借りたりするといつもの何倍もよく眠れたような気がしたりします。心細いと嗅ぎたくなります。
大好きなおばあちゃんの家の匂いを、ふと嗅ぎたいときにかげたらいいなと思います。

なかなかそういったことは難しいのでしょうけど、いつかそうやって、香りを写真のようにぱっと機械に取り込んで、そしてそれをいつでもどこでも再現するような事も簡単にできる日が来るのでしょうか?
もしも自分が暗室を手放した遠い未来にそんなことができたとしたら、わたしもきっと暗室のにおいは忘れてなくても何度も何度も嗅ぐんだろうなと思います。

話が途中からどえらく脱線してしまいました。毎度お馴染みレビューじゃないレビュー。
そんなわけで、匂いにまつわるお話の今回なのです。

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