長期滞在者
東京に戻ってきて、すぐに熊本で地震が起きた。それから、気持ちが落ち着かない。自分の心の中にある断層がずれているような、足元が落ち着かない感じ。ぐらぐら、ぐらぐら。落ち着きどころが見つからない。実際、ずっとめまいがするような、船酔いの感覚が続いている。外の世界はこんなに綺麗なのに、こころの中は不安でいっぱいだ。 熊本の地震が起きる、ほんのすこし前に東京が震源の地震が起きたとき、心臓が口から飛び出して…
長期滞在者
もう何度目かもわからない睡眠を終え、私は目を覚まします。しかし、そこは、見慣れたいつもの場所ではありません。窓の外からは犬と猿の吠える声がして、リアカーから溢れるばかりに積まれた豆や果物を売る物売りの口上がそれに重なる。身体は鈍く反応し、重心はちぐはぐで、バサバサ煩い巨大な扇風機が、私のことなどおかまいないしに部屋にたまった熱風をかき混ぜている。そのようにして、異郷の地で朝が始まります。 いまだ朦…
長期滞在者
この部屋の居心地が良くて、帰ってきてしまった。 当番ノート、第24期として、2015年12月から2016年1月にアパートメントに滞在した。 その日々は、私にとって、これまでの自分の生き方を振り返る大切な時間となった。 そして、数多くの新しい出会いが生まれた。 私はそれが本当に嬉しくて。 あなたともっともっと、好きな音楽の話をしていたい。 私は心の底から願ったんだ。 絶え間なく流れ続ける毎日の中で、…
長期滞在者
時間というものについて、いろいろ考えるようになった。 現在という一点があり、それは常に先につらなる未来の時間を食いつぶしながら進行していく。 過去は進んだ航路から置き去られて後ろへ消えていく。 ・・・と、つい歴史年表のような直線的な時間進行をイメージしてしまうが、もしかしたら過去は一直線に過去になるのではなく、過ぎた途端に散らばって拡散してしまうのかもしれず、現時点からどれくらい過去か、というスケ…
長期滞在者
デジタル一眼レフを数台持っているけれど、最近写真を撮るのはもっぱらスマートフォンです。日々の仕事の記録写真も、授業などの講義に使うための写真も、時々依頼される雑誌の記事に添える小さな写真原稿のための写真に至るまで、これ1台ですませるようになってしまいました。このコラムのために掲載している図版も同じです。スマートフォンの軽いデータでほとんど十分なのです。 理由はいろいろあって、その方が簡単だからだろ…
長期滞在者
くんちゃんは あいている とを みていました。 とのまえまで きたとき、 とつぜん くんちゃんのあしが はやくなりました。そして あいている とぐちから さっと そとへ とびだしてしまいました。 (『くんちゃんのはじめてのがっこう』より) 4月になった。桜並木を通るたび、私は空を仰ぐ。入学式まで花は持つだろうか。明日は雨の予報だが、散ってしまわないだろうか。そして入学式。残っていた雨も上がった。私…
長期滞在者
ぼくはビビりだ。“超”がつくほどのビビり。そんでもって、妙に探りを入れるというか、考え過ぎてしまうというか、被害妄想が激しいようで、なにをしていても、なにもしていなくても、相手に笑われているような感覚に陥ってしまうことがある。例えば、街を歩けば、田舎出身のぼくは「田舎者だ」「なんかへんなやつがいる」と嘲笑されているんじゃないか、なんて無駄なことに気を遣ってしまうことが日常茶飯事だ。 おそらくこれっ…
長期滞在者
4月です。まずは前回の記事の訂正から。 ダミアン・ジャレの経歴をさらっと紹介したときに、 彼がP.A.R.T.S.と言うコンテンポラリーダンスの学校出身、 と書きましたが、違いました。 ぼくがローザスというカンパニーで仕事していたちょうどその頃、 ダミアンはP.A.R.T.S.の学生と交流があったり、 その周辺での企画に関わったりしていた頃に顔を合わせていたので、 ぼくが勘違いしていたようです。 …
長期滞在者
数年ぶりの引越しがもう数日後に控えているのに、わたしは心の準備がろくにできないままでいる。引越しはたくさんしてきた方だと思うし、わりと慣れっこのはずなんだけれど、今回はあまりにも実感が湧かなすぎて、変な感じがしている。数日後には、数年ぶりの東京。目が覚めたら、もう比叡山が視界に見えないのかとか、電車の車窓から琵琶湖が見えないのかとか、感傷的にはなりたくないのに少し気持ちがしゅんとしてしまう。後ろ…
長期滞在者
「帰る」というのは不思議な言葉だな、と思います。例えば宇宙空間から地球上を観察していれば、私たちはただ時に移動し、時に同じところに留まっているだけのように見えるでしょう。そうした無数のストップ&ゴーを、しかし私たちは「どこかに行き、どこかに帰ってくる」と認識します。言葉は多分あまり関係ないですね(「帰る」はおそらく人間に限定されない、動物としての「私たち」が共有する概念と思われます)。長年住み慣れ…
長期滞在者
先月、ペンタコンシックスというカメラのことを少し書いたけれども、ビオメターという名の標準レンズの他にも広角レンズのフレクトゴン、魚眼レンズのゾディアックというのを当時所有していた。 中判カメラに使える魚眼レンズというのは珍しかったので、このゾディアック30mmF3.5は特に愛用した。 いや、「珍しかったので」というのはいいわけであって、実は「ゾディアック」という名前が好きなのだった。 ゾディアック…
長期滞在者
寄席の世界では「つどまり」といって、お客様が一桁だとその日の出し物は打ち切りとなるのだそうです。 「つ」というのは、ひとつ、ふたつ、、、ここのつ、の「つ」で10人に満たないと、やらないということを高座に上がっている芸人さんから聞きましたが、本当にそういうしきたりがあるのかは、よくわかりません。 というのも、あの時の新宿末廣亭はお客様が5、6人しかいなかったのですから。 その日は、とにかく家にいても…