長期滞在者
アート・ブラッセルというアートフェアが4月24日から27日まで開催されたのだが、 そこに、日本の堀尾貞治さんとその仲間4人が現場芸術集団「空気」として参加した。 彼らのアテンドのような形で仕込みや客の通訳なども少し手伝うことになり、 仕込みを含めた会期中、毎日会場に足を運んだ。 今回の展示は「Art Vending Machine」と銘打たれたもので、 アントワープにあるアクセル・ヴェルヴォールト…
長期滞在者
台所がおかゆでいっぱいになり、家じゅうがおかゆでいっぱいになり、それから、となりの家がおかゆでいっぱいになり、家のまえの道も、おかゆでいっぱいになりましたが、おなべは、まだ、ぐつぐつ、ぐつぐつにています。まるで、世界中を、おかゆでおなかいっぱいにしてしまいたいと、思っているようでした。 『おいしいおかゆ』より 熱があって学校を午前中で早退した日のこと。食欲がない私に母がお粥を作ってくれるという。め…
長期滞在者
先日、電車の中でとても印象に残る出来事があった。まだ小学校に入学したてのとても体の小さな女の子と、同じように小柄なその母が、電車の中でわたしの横に座った。女の子は終始泣いていて、学校に行きたくないと、ずっとぐずぐずしていた。母は大分高齢で、困り顔で優しくあやすように女の子を励ましていた。 母は次の駅で降りるそうで、学校までの残りの道のりは、女の子ひとり。仕事だから仕方ないと言いながら、母は何度も何…
長期滞在者
路上でぺたんこになった小動物を見つけた。ぺたんこすぎて何なのかもわからない。 子猫にしては尾骨が太すぎ長すぎだし、頭が小さすぎる気がする。そもそも轢かれて伸びてしまっているので生前のバランスがすでによくわからないのだが、猫でないならイタチの類ではないかと思う。死後かなり経つらしく、骨煎餅のようにカラカラに乾燥している。 少し前にも平らになった亀を見つけたばかりである。材質からして亀以外にないはずだ…
長期滞在者
この二週間で立て続けに3度渋谷に行きました。 今のぼくは殆ど渋谷の街に用事も関心もなく、滅多に訪れることのない場所になってしまいましたが、かつてはよく渋谷の街を歩いていました。銀座線のホームから東急百貨店のエスカレーターで地上に降り、そのままセンター街を雑踏を避けるようにアミダクジ状に移動しながら、スペイン坂を登り、パルコギャラリーで展覧会を観る、あるいは東急ハンズでちょっとした展示のための細かな…
長期滞在者
今月は、量子力学のお話です。 量子力学は、知れば知るほど理不尽で、つかみどころがありません。 その、もやもやとした納得のいかなさを、少しだけでも共有できたら、という試みです。 しばらくお付き合いくださいませ。 義務教育で習う「力学」は、すべて「古典力学」です。 ニュートンの発見した単純明快な法則、慣性の法則、作用反作用の法則、万有引力などによって、様々なものの動きを説明できます。どの方向に、どのく…
長期滞在者
月に10日(80時間)作陶する契約で通っている仕事場が、 電車とバスで行くと2時間以上かかるので、 道具やら何やら担いで行くのも億劫過ぎという理由で、 やっと車をゲットした。自動4輪初所有。 通勤のこともあるが、陶芸をやっていると、 土を買ったりできた作品を運んだりするのに どうしたって車があったほうが便利だ。 というか、陶芸家で車を持っていないなんていうのは、 ほぼありえないことのような気がする…
長期滞在者
焦がれるほどに待ち望んだものなのに 手にいれたとたん「こんなはずはない」と疑ってしまうのはなぜだろう ただ、素直に受け容れればよいことを「こわい」と感じてしまう こんなはずじゃあない もっと何か試練がやってくるのに気づいていないのではないか 乗り越えるべき壁が見えていないのではないか また中途半端に見失ってしまうのではないか 心のずっと深いところに湧き出して満ち満ちてくる気持ちにいつも無理矢理穴を…
長期滞在者
本屋を開いたんだ。本は新聞みたいなもんだ。読んだらその時のことを思い出せる。そして骨董屋も始めた。何年もの間大切にされた古いものには、お話があふれている。持っていた人みんなの日記だ。わしにとっても大切なものだ。 『マッチ箱日記』より 私はものをため込むタイプの人間だ。保育園の時の絵、5歳の誕生日に友達からもらった小さな箱、小学生の時友達と公園で集めた桜の花びらを瓶に詰めたと思われるもの、通信表はも…
長期滞在者
わたしはとても単純だから、春の気配がし始めるとなぜがそわそわする。大した理由なんてないけれど、春がくる、たったそれだけで気持ちが色めき立つ。恋し始めの少年みたいな、照れくさくて、思わず小石を蹴りたくなるような、洋服の裾をもじもじと直すような。 春は何かと変化が多い。聴く音楽も変わるし、食べたいもの、出かけたい場所、やりたいこともどんどん変わる。親元を離れたのも春だし、パートナーとの出会いも春、…
長期滞在者
暖かくなって、男の子達が、久しぶりに神社の裏手で話し込んでいる。小さな神社の裏に、小さな茶色いベンチが置いてあって、彼らはそこで尽きない話をしている。大体三人ときどき二人、親には聴かれたくない本音の話しのようである。きょうは、おれら二人とも酔っ払ってしまうと、どちらも止めることができないやろなどと、お酒を飲んだ時の危機について話し合っている。ここ二年ぐらい、夕ぐれまでの時間にやって来て、だらだらと…
長期滞在者
2015.3.3-3.8 ギャラリー・マゴット(大阪・四ツ橋) カマウチヒデキ写真展『風景について 2 』より抜粋。 ・・・・・・ 一つの展示が終わったら、ああ自由の身だ、とか思う。 終わった展示の内容に引きずられることなく、何を撮ってもいいのだ。 何かしらの「まとまり」に対する整合性とか、全部ご破算になるのだ。 自由なのだ。 そして、その「自由」が一番やっかいで手強い相手なのだ。 なのだ。なのだ…