鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
しょぼい喫茶店で開催していた「場の詩プロジェクト」という企画。場で起こるコミュニケーションの言葉に遊びや制限を加えることで、その場のしゃべり言葉の中に詩的なものがあらわれるのを期待する……という他力本願なプロジェクトで、シリーズ化してVol.13まで作った。 その中で、思いついてから実行するまでにいちばん尻込みしたのが、「敬語禁止カフェ」だった。 趣旨は単純、というかタイトルそのまんまで、その日は…
長期滞在者
自粛生活で変化する家。 これまでは住人みんなが揃うなんてめずらしかったのに、今では当たり前の光景になった。新しい習慣ができて面白いと思えることもあれば、もやもやすることもある。季節ももやもやしている。 これを書いている2020年6月2日(火)、アメリカの多くの企業がBlackout Tuesdayという取り組みを掲げている。これは昨今起きた悲惨な事件を受けて、レイシズムや不正に対する抗議活動を賛同…
お直しカフェ
前回に引き続き、エプロンお直しの話。カフェのユニフォームとして2年以上使い続けてきたエプロン。コーヒーをハンドドリップで淹れる、ちょうど胸やお腹のあたりにシミがいくつもついて、クリーニング屋さんにも「これ以上シミ抜きすると生地が痛んじゃうな」と言われ諦めていたもの。2着目は一転、プロにお願いしてみようと思い立ち、長く気になっていた染め屋さんを訪ねた。 伺ったのは、京都市の中心部にある馬場染工業。場…
長期滞在者
Fruit. 「フリュイ」と読む.果物を意味する男性名詞. 初夏は果物の本領発揮.情熱的にフルーツを愛する者としては、とにかく嬉しい.最良の食べごろを逃すまいという気概を持って、私はすっかりフルーツハンターと化す. 5月のレモンは爽やかで甘みがあって、手に取らずにはいられない.今年は勢いあまって50個ほど瀬戸内の無農薬レモンを仕入れた. ウィークエンドシトロンを作ったり、蜂蜜や塩に漬けたり、レモン…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
しょぼい喫茶店に立っていたころ、ときどき「どんな場を作りたいと思っていますか」とか「どういう場づくりを心がけていますか」とかたずねられることがあった。いざそう聞かれると困ってしまう。「作りたい場」のすがたというものが、わたしにはとにかくなかった。 お客さんとして訪れてくださった方の中には、そう言うと意外に思われる方もいるかもしれない。「くじらさんの作る場が好きです」と伝えてくれたお客さんもいること…
かさねのせかい はざまのものたち
長期滞在者
私の「貴世子」という名前は、「絶対に世界の“世”の字を入れる!」と、父がこだわってつけた名前だということは聞いていた。その話をするときの父の顔はいつも楽しそうで明るくて、どこか嬉しそうだった。 海外を旅することが大好きだった父は、私に世界で活躍することを望んでいた。けれども、私は音楽が好きになり、ラジオDJとなり、日本のラジオ番組で仕事をした。 私が世界との関係を強く意識したのは、30歳を過ぎたと…
長期滞在者
5月3日 ゴールデンウィークの予定は真っ白だ。例年と同じく今年も神戸の実家に帰省する予定だったが、おとなしく家にいる。三密空間の極みである夜行バスで寝られない時間を過ごし、身体の痛みに耐えられなくなる一歩手前でサービスエリアに着き、一息ついてトイレで歯を磨いて、発車するまで5分ほど夜の風に当りながらベンチでボーっと過ごすこともできない。朝にバスターミナルに着くと、身体痛いし、中途半端に最後の最後で…
長期滞在者
きっとあなたも、そちらのあなたもそうでしょう?御多分に漏れず僕もそう。いろいろ大変なことになってる。 ・・・・・・ のんきに構えている事態ではなくなって、しかしのんきに見えるかもしれないことに、実は新しくカメラを買った。新しく、といっても9年も前に発売された老兵を中古でだが。 本当はのんきにカメラを買い足すような状況ではないのだが、話は逆で、この状況で写真を続けるために何が必要かを考えて、不要なも…
長期滞在者
この数ヶ月間で確実に生活のルーティーンが変わってしまった。 当たり前のように仕事場に向かい、休みもせいぜい2ヶ月に一度くらい、という生活が20年あまり続いていた。2011年の震災の後だって、ほぼ毎日仕事場に足を運んでいたのだ。zoomをはじめとするオンラインミーティングが急速に普及して、ギャラリーの仕事であってもいつの間にか店頭に出てやるべきものと自宅でやったほうが効率が良い仕事に切り分けるように…
Mais ou Menos
Pちゃん Hi! 気付けば、もう5月も半ば。2020年も、ものすごいスピードで過ぎている気がします。暖かい日が多くなって、きっとすぐに夏も本番。 コロナの影響はまだまだ長引きそうだね。この先、自分たちはどんな社会を生きることになるんだろう…。これからの生き方、消費のしかた、人との関わり方、働き方、すべてが変わっていくのかな。怖いような不安なような。その一方で、フレキシブルに生き方を変えていけばいい…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
「しょぼい喫茶店」での勤務は、基本ワン・オペレーションである。飲みものやケーキは店にあるものを提供するが、食事は自分で工面していいことになっていた。なので、メニューの考案から食材の買い出し、下ごしらえから盛りつけまで、すべて日替わりの店員たちが自力で行う。わたしも月替わりで夕食メニューを作っていた。 メニューを考えるにあたって、ルールをいくつか決めた。まず、多少量を少なめにするかわりに、アルバイト…