鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
敬語禁止カフェをやった頃から、不快なことがおもしろいと思うようになった。 敬語を禁止されると、もともと持っていたコミュニケーションの形式をあきらめ、場当たりで対処するしかない。そうすると不安で、おろおろしたり、時に気まずくなったりする。そのすがたが、見ているとなんとも魅力的だった。わたしはそれがとても好きで、よくお客さんたちに底意地の悪さをなじられたが、そう言うお客さんのほうだって、お互いが言いま…
長期滞在者
今後仕事で新潟に行くことが増えそうなので、下見を兼ねて、三密を避けながら、土、日を使って新潟を散策した。 振り返ると、仕事以外で新潟に来るのは10年ちょっとぶり。その時は、苗場で毎年開催されているフジロックフェスティバルにアルバイトとして参加した。 大学2年の頃、たまたまフジロックでのバイト募集の広告を見かけて、急いで面接を受けに行き、働けることになった。 後から日程を確認すると、大学の試験と被っ…
長期滞在者
子供の頃見ていたものを大人になって久しぶりに見ると、あれ、こんなに小さかったっけ、と思うことがよくある。幼少の記憶だと、自分の体が大きくなっても記憶の中のそれは当時のスケール感のままである。自分の体が成長した縮尺を、成長後の記憶に反映できていないのだ。 小学生の頃、田舎で見たガガンボ(あの、蚊みたいな形のでかいやつ)がものすごく大きくて、感覚的には体長20cm以上あったような記憶があるのだが、調べ…
長期滞在者
2020年6月4日。練馬放送にて、毎週土曜午前11時30分から放送しているラジオ番組「Voice of Heart」の収録が再開した。前回の収録が4月1日。15歳の頃から音楽に乗ってマイクの前でしゃべるということをやってきて、この30年ほど、2ヶ月以上マイクの前で番組をやってこなかったことは初めてだった。 新型コロナウイルスの影響、そしてその間に父を亡くし、苦しいこと悲しいことが続く中でも、自分の…
Mais ou Menos
まちゃんへ 最近暑い日が増えてちょっとバテてしまう日もあるね。 体調を崩さないように、夏に向けて気をつけていきたい。 昨日は自分が思っていることをまちゃんに話せてよかったです。 言わないで我慢してたんやけど、やっぱり我慢していると、それが積み重なって結局イライラしてしまうんやったら、もっと早めに話したらよかったと思いました。 でも、なかなか言うのが面倒だったり、言うのも悪いかなと思ったりしていまし…
スケッチブック
愛でる時間は、たっぷりあった。考える時間は、細切れだった。 5月1日(金) 晴れ 布団の中で考えていた。言葉や文章を柔らかくしておくこと。輪郭をガチガチに固めてしまうと、閉じ込められた中身はそこからどこにも行くことができない。中身が本質を捉えている、輪郭がその本質を囲っている、その上で、解釈のスペースは空けておく。余白と余韻を含んだ文章、言葉を目指したい。 躍動感。昨日、動画で見たピカソの、まるで…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
しょぼい喫茶店で開催していた「場の詩プロジェクト」という企画。場で起こるコミュニケーションの言葉に遊びや制限を加えることで、その場のしゃべり言葉の中に詩的なものがあらわれるのを期待する……という他力本願なプロジェクトで、シリーズ化してVol.13まで作った。 その中で、思いついてから実行するまでにいちばん尻込みしたのが、「敬語禁止カフェ」だった。 趣旨は単純、というかタイトルそのまんまで、その日は…
長期滞在者
自粛生活で変化する家。 これまでは住人みんなが揃うなんてめずらしかったのに、今では当たり前の光景になった。新しい習慣ができて面白いと思えることもあれば、もやもやすることもある。季節ももやもやしている。 これを書いている2020年6月2日(火)、アメリカの多くの企業がBlackout Tuesdayという取り組みを掲げている。これは昨今起きた悲惨な事件を受けて、レイシズムや不正に対する抗議活動を賛同…
お直しカフェ
前回に引き続き、エプロンお直しの話。カフェのユニフォームとして2年以上使い続けてきたエプロン。コーヒーをハンドドリップで淹れる、ちょうど胸やお腹のあたりにシミがいくつもついて、クリーニング屋さんにも「これ以上シミ抜きすると生地が痛んじゃうな」と言われ諦めていたもの。2着目は一転、プロにお願いしてみようと思い立ち、長く気になっていた染め屋さんを訪ねた。 伺ったのは、京都市の中心部にある馬場染工業。場…
長期滞在者
Fruit. 「フリュイ」と読む.果物を意味する男性名詞. 初夏は果物の本領発揮.情熱的にフルーツを愛する者としては、とにかく嬉しい.最良の食べごろを逃すまいという気概を持って、私はすっかりフルーツハンターと化す. 5月のレモンは爽やかで甘みがあって、手に取らずにはいられない.今年は勢いあまって50個ほど瀬戸内の無農薬レモンを仕入れた. ウィークエンドシトロンを作ったり、蜂蜜や塩に漬けたり、レモン…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
しょぼい喫茶店に立っていたころ、ときどき「どんな場を作りたいと思っていますか」とか「どういう場づくりを心がけていますか」とかたずねられることがあった。いざそう聞かれると困ってしまう。「作りたい場」のすがたというものが、わたしにはとにかくなかった。 お客さんとして訪れてくださった方の中には、そう言うと意外に思われる方もいるかもしれない。「くじらさんの作る場が好きです」と伝えてくれたお客さんもいること…
かさねのせかい はざまのものたち