長期滞在者
私の「貴世子」という名前は、「絶対に世界の“世”の字を入れる!」と、父がこだわってつけた名前だということは聞いていた。その話をするときの父の顔はいつも楽しそうで明るくて、どこか嬉しそうだった。 海外を旅することが大好きだった父は、私に世界で活躍することを望んでいた。けれども、私は音楽が好きになり、ラジオDJとなり、日本のラジオ番組で仕事をした。 私が世界との関係を強く意識したのは、30歳を過ぎたと…
長期滞在者
5月3日 ゴールデンウィークの予定は真っ白だ。例年と同じく今年も神戸の実家に帰省する予定だったが、おとなしく家にいる。三密空間の極みである夜行バスで寝られない時間を過ごし、身体の痛みに耐えられなくなる一歩手前でサービスエリアに着き、一息ついてトイレで歯を磨いて、発車するまで5分ほど夜の風に当りながらベンチでボーっと過ごすこともできない。朝にバスターミナルに着くと、身体痛いし、中途半端に最後の最後で…
長期滞在者
きっとあなたも、そちらのあなたもそうでしょう?御多分に漏れず僕もそう。いろいろ大変なことになってる。 ・・・・・・ のんきに構えている事態ではなくなって、しかしのんきに見えるかもしれないことに、実は新しくカメラを買った。新しく、といっても9年も前に発売された老兵を中古でだが。 本当はのんきにカメラを買い足すような状況ではないのだが、話は逆で、この状況で写真を続けるために何が必要かを考えて、不要なも…
長期滞在者
この数ヶ月間で確実に生活のルーティーンが変わってしまった。 当たり前のように仕事場に向かい、休みもせいぜい2ヶ月に一度くらい、という生活が20年あまり続いていた。2011年の震災の後だって、ほぼ毎日仕事場に足を運んでいたのだ。zoomをはじめとするオンラインミーティングが急速に普及して、ギャラリーの仕事であってもいつの間にか店頭に出てやるべきものと自宅でやったほうが効率が良い仕事に切り分けるように…
Mais ou Menos
Pちゃん Hi! 気付けば、もう5月も半ば。2020年も、ものすごいスピードで過ぎている気がします。暖かい日が多くなって、きっとすぐに夏も本番。 コロナの影響はまだまだ長引きそうだね。この先、自分たちはどんな社会を生きることになるんだろう…。これからの生き方、消費のしかた、人との関わり方、働き方、すべてが変わっていくのかな。怖いような不安なような。その一方で、フレキシブルに生き方を変えていけばいい…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
「しょぼい喫茶店」での勤務は、基本ワン・オペレーションである。飲みものやケーキは店にあるものを提供するが、食事は自分で工面していいことになっていた。なので、メニューの考案から食材の買い出し、下ごしらえから盛りつけまで、すべて日替わりの店員たちが自力で行う。わたしも月替わりで夕食メニューを作っていた。 メニューを考えるにあたって、ルールをいくつか決めた。まず、多少量を少なめにするかわりに、アルバイト…
Do farmers in the dark
こんばんは。今回も文章を書きました。毎回何かの嫌がらせみたいな文章を載せていて申し訳ないと思っています。でもなんとなくそれをやめられないんだ。だからもし読んでくれる人がいたら、なんかのきっかけで人の心を持ち、文字がタイピングできるようになった魚類、サンマだと思うんだけども、そのサンマが、一生懸命がんばってパソコンに打ち込んだ文章だと思って読んで欲しい。それが本当なら奇跡だと思う。実際には薄汚れた歯…
スケッチブック
4月1日(水) 友達からメッセージ。「こんな状況になって、あなたの感性にも変化がありそう。最近何を感じてる?」個人的には、ここのところずっと止まりたかった。「世界が不安で繋がっている」と彼女は言った。「fearよりもcareで繋がりたいね」と、返事を書いた。書くのは簡単。でも誰かをちゃんとcareするのは難しい。 今日は雨。庭の花の写真を撮った。もう8年もこの日は命日。思い出させて辛くなるだけなら…
長期滞在者
仕事もせず、通信制の大学の課題以外には「やらなければならないこと」がない日々。一見穏やかな日々に見えるし、私も別にそこまでストレスがあるとは思わない。けれど初めてのことを私(というより私達)は体験しているわけで、正直なところ感染症にかかる以外にも何か異変が生じるんじゃないかと思っている。 少しずつ体には現れていると思う。筋力の低下、睡眠の質の低下。情報収集の仕方や、体の動かし方も変わってきているよ…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
この回で『それをエンジェルと呼んだ、彼女たち』は最終回を迎える。この連載では人と出会った記憶を起点に、彼女・彼らを思い出すようにして書いてきた。それは思いを重ねることだった。自分はその人の何を書いているんだろう、という問いは重ねるほどに膨らんでいった。 胸を痛めたり、熱くしたり、透き通らせるような出会いを思い出すとき、特別に思えたその瞬間を一言一句記録する代わりに色として書き写した。ちょうど旅先で…
長期滞在者
“jardin“ 男性名詞.「ジャルダン」と読む. 時代とともにiardinになったりjardinに戻ったりするが、iもjも同じようなものと考えて良いし、13世紀以降、ほぼその姿は変わっていない. 学生の頃から枯山水や生花(せいか)は好きだったけれども、草花生い茂る「庭」に興味を持ったのは、つい最近だ.新型肺炎の影響で外出自粛が続き、マンションの庭を散歩するのが日課になった. 去年の暮れ、引っ越し…
お直しカフェ
私の働くカフェも休業している。これは最後に店番をしたとき、知らない間にカウンターの傍から撮ってもらっていた写真。この日は春からの新しいスタッフの面接もたくさんあって、忙しかったけど楽しかったなあ。全部、ひと昔前のできごとみたいだ。 気を取り直して。 お店のエプロンをお直しするために持ち帰ってきた。使い続けているうちにコーヒー滲みなどが目立つようになったからだ。「新しく黒いエプロンを買おうか」と言う…