鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
「ポエムイズマネー」の日には、白紙をたくさん持っていく。それからカラーペン、マスキングテープ、そして、前の晩につくったたっぷりのマドレーヌ。看板にはこう書く。 「詩を書くとあなたの詩でマドレーヌを買えるよ!」 ここは、「マドレーヌがもらえる」でも、「マドレーヌと交換できる」でもなく、かたくなに「買える」だ。だって、今日はポエムイズマネーだから。今晩だけは、詩を書くことがお金のかわりになる夜なんだか…
Mais ou Menos
まちゃんへ 今日は病院の日やね。まちゃんがコロナにかからへんかいつも心配しています。 その分自分も持って帰らんようにしんとと、気をつけてる。 少し前にまちゃんの目眩がひどくなって少し寝たきりみたいな状態になったときは、本当に心配した。 今少し落ち着いているみたいやから安心してるけど、春やからホルモンバランスが乱れやすいんやろうか? 自分のほうは、薬効いてて、前より随分動けるようになってると思う。ク…
スケッチブック
色々なことが取りやめや延期になってようやく、日常を広げて考えられる感覚がある。地球の裏の友達と、数年ぶりのやりとりが再開している。「そっちは大丈夫?」「そっちの様子はどう?」なんて、いままでにない共通言語で会話をしている。 怖いんだよね。と布団の向こうで声がした。これから、たくさんの人が亡くなって、大事な人が死ぬかもしれないのが怖いんだよね。 SNSを1ヶ月閉じていても平気だったのが、いつのまにか…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
人生における運命の出会いというのは、何回か訪れるのかもしれない。それは恋愛に限らず、その出会いがどんな風に実を結ぶかも重要じゃない。出会った地点を振り返ったときにそこから新たに迷子になったような気がする出来事を、私は運命と呼びたい。 彼の企画する音楽イベントに初めて居合わせた日のことが忘れられない。その日は、その後数年にわたって続くこととなるイベントの初回だった。「上海の夜」。それがサックス奏者で…
長期滞在者
日常に少しずつ忍び寄る感染症の恐怖。 何気ない日用品が買えなかったり、たくさんのニュースが流れてきて、とても強い風を毎日全身で受け止めているような気がする。 実家に帰ることもだんだんためらわれてきたし、海外にいる友人たちの様子も気になるけれど、まずはじっと家で耐えて過ごそう。 台風がきちんと過ぎ去るように、この事態もきっと収束していくはずだから。 それにしても・・・今月は寒暖差が激しすぎて、体がく…
お直しカフェ
28歳のクリスマスに上司と社長に呼び出されて、年明け1月いっぱいで会社をやめてほしいと言われた。1ヶ月と少しの猶予があったので労働基準法的な問題はなかったと思う。「使い捨てられたと感じます」と発するのが、その時できた精一杯だった。娘の単身東京暮らしをずっと心配していた家族にはまさか言えず、帰省して心ここにあらずなお正月を過ごし、初詣で神様にだけご報告して何とか頑張りますとお伝えした。 *** 先月…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
「しょぼい喫茶店」と書かれたドアの鍵を開けたら、まずはじめにごはんを作る。わたしがここで働くのは十八時から二十一時半、お酒を飲むお客さんもいるけれど、メニューはごはん一種類だけ。サイズがちょっと小さめになっても、高校生でも払える値段で。カウンターだけの小さな店とはいえ、ひとりで働くにはそれがちょうどいいところだった。 カウンターの中からは入り口が見えないけれど、お客さんがやってくるとドアの音でわか…
長期滞在者
今月はとにかくよく走っていた。 といっても仕事や余暇を鬼のように充実させていた訳でなく、文字通りよくランニングをしていた。 特に大会に出る予定は無いし、時間を測って走ることもしないし、距離を伸ばしていくこともしないが、走って汗だくで家に戻ってシャワーを浴びた後の爽快さを味わいたいがため、また寝る前にふくらはぎの筋肉痛の気持ちよさを味わいたいがため走っていた。 実家の近くに住吉川という川があった。上…
長期滞在者
ある日突然飛蚊症が暴れ出した。 かなり前から少量、小さいのがチラチラしてはいたのだが、ある日を境に暴力的に増えたのでびっくりした。とくに右目の下方に常に塊があるので、普通に道を歩いていても右後ろから何か黒いものに追跡されているような気になる。部屋の中でついと視線を上げると、床からゴキブリが壁を駆け上がったかのような影が見える。はっきりいって相当のストレスである。 飛蚊症が大量出現したその日の夜、夜…
長期滞在者
コロナウイルスの騒動で、3月に入ってからのギャラリーはどこもお客さまの数が減っているようです。すでにお受けしているお仕事が少し残っているのですが、新規のお仕事が減っており、平日はとても静かなものです。 ぼくたちの方針としては、政府から全業種営業停止の命令が出ない限りは淡々とギャラリーを開け続けます。今のところ、展示キャンセルの申し出もなく、少し静かだけど、いつも通りを続けていこうと思っています。 …
長期滞在者
2020年の3月がこんなことになろうとは。そんな気持ちで過ごしているのは私も同じだ。 世界保健機関(WHO)が世界でのパンデミックを宣言した、新型コロナウイルスの影響による日々は、毎日気持ちが追いつかないくらい驚くようなことが連続していて、とまどいながらも、ただひたすらに、良くなる未来を願うばかりだ。 フリーランスで仕事をしてきた自分にとって「生活」を営むための問題は多々起きている。自分のことを考…
Mais ou Menos
ぴちゃん 今日もお疲れ様です。ここ数日、家のことがあまりできなくてごめんね。体調がここまで悪いと感じたのは、成長ホルモンをはじめてから、初めてだと思う。久々に、あ、死ぬかもって思ってしまったよ。こういうときに、頼れる相手がいること、心からありがたい。 2月後半ごろから、フェミニズム関連の本をたくさん読んでいます。勉強不足だと感じることがすごく多かったから。読み始めたら、他にもたくさん読みたいと思う…