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3F/長期滞在者&more

「あなたが見つけた花を、やさしさを、大切な人に届けてあげてくださいね。」【Foorin「パプリカ」(2018年8月15日リリース)】

長期滞在者

2020年の3月がこんなことになろうとは。
そんな気持ちで過ごしているのは私も同じだ。

世界保健機関(WHO)が世界でのパンデミックを宣言した、新型コロナウイルスの影響による日々は、毎日気持ちが追いつかないくらい驚くようなことが連続していて、とまどいながらも、ただひたすらに、良くなる未来を願うばかりだ。

フリーランスで仕事をしてきた自分にとって「生活」を営むための問題は多々起きている。自分のことを考えなければいけない時期であることは充分わかっているのだが、それでもどうしたって、家族、友人、仲間、大切な人のことが気がかりでたまらない。

2020年2月27日。
この国の首相は新型コロナウイルスの感染対策として、全国全ての公立小学校、中学校、高等学校に対して、3月2日から春休みまでの休校を要請した。
このニュースを見たときに真っ先に頭に浮かんだのは、2月に授業を担当した小学6年生の生徒たちのことだった。

子どもたちの3学期が突然終わった、2020年2月28日。
私の手元に、授業の感想を綴った小学6先生の生徒たち、一人ひとりからの手紙が届いた。
その手紙の中の、ある男の子からの言葉が私の胸に深く染み込んできた。

「ぼくたちとは初めて会ったのに、ずっと笑顔で接してくれました。そんなことができるのは、武村さんが大人らしくしているのではなく、武村さんが自分らしくしているからだと思います。ぼくも武村さんのように自分らしく生きていきたいです。これからも自分らしくがんばってください。」

「教える」という仕事をするとき、私はその人のための知識となるように、学んで良かったと思ってもらえるように、様々な内容を用意する。資料を用意したり、調べたり、少し情報量が多すぎかな? と思うくらいの準備をして挑む。

けれども、彼の手紙を読んだときに、気づかされた。
多くの情報よりも、自分の生き方を見せていくほうが、どれだけこれからの道を進む上での力になるかと。
そのことを、私はこの小学6年生の男の子の言葉から学んだ。

同時に、初めて会った大人に対して、こんなふうに感じられる子どもたちの豊かでまっすぐな感性に改めて気づかされた。

生徒たちの手紙に返事を送りたかった。
しかし、卒業してしまった彼らには、直接手紙を届けることができない。
もしも私の名前を覚えていてくれたら、いつかたどり着いてくれるかもしれないという思いと共に、私からの返信をここに綴る。

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みなさんへ
お手紙ありがとうございます。
みなさんからの言葉、とても嬉しかったです。

あなたは今、どう過ごしていますか?
あのとき、給食を一緒に食べながら「卒業式はいつ?」なんて話をしていたから、突然3学期が終わってしまったことで、あなたがどんな思いをしているのか、私はすごく気がかりでたまりません。

私がみなさんに授業をしたとき、みなさんに贈る言葉として、
「平和」という言葉について話しました。

平和があるからこそ、夢を叶えることができる。
平和があるからこそ、今日みなさんに会うことができました。

そんなお話をしました。

私が授業をしたあと、卒業に向けての特別授業や行事などが次々と中止になり、
みなさんが悲しい思いをしていると聞きました。

私は考えてしまいました。
全ての土台となる平和があるからこそ、できることがあるということを伝えた直後に、そのことを実感させてしまうような状況になってしまって、みなさんがどう思っているのか、とても心配です。

叶うのなら、今すぐみなさんに会って、今どんなことを思っているのか。
あのときの授業のように、ホットカーペットの上にみんなで座って語り合いたいです。

私が担当した授業は、みなさんが将来の仕事について考える時間でしたね。
私は、ラジオDJがどんな仕事をしているかお話しました。
その中で「ラジオの曲紹介に挑戦してみよう!」ということで、「パプリカ」を聴きながら、イントロ10秒の曲紹介にチャレンジしていただきました。
そのときの、みなさんの必死な顔、上手くいったときのほっとした笑顔、緊張したけど楽しかった! と言ってくれたことをとてもよく覚えています。

そして、世界の難民のお話をしたときに、この世界と平和について、一緒に考えてくれたこと。
みなさんの真剣な表情とまっすぐな瞳を、私はしっかり覚えています。

友だちや先生、6年間を過ごした学校との突然の別れは、
あなたにどんな記憶を残したのでしょうか?

悲しかった。寂しかった。どうしてこんなことになってしまったのだろう?
自分の中の心にある感情を、言葉で表現することはできないという思いを抱えている人もたくさんいるのではないだろうかと思います。

みなさんより、少し長く生きている私には、これまでたくさんの悲しいことがありました。
つらいこと、納得のいかないこと、たくさんたくさんありました。
けれどもそのことが、人生にとって大切なことを、私に教えてくれました。
自分が悲しい経験をしたことによって、私はつらい思いをしている人の気持ちがわかるようになりました。

「今、この人の心はとても痛いだろうな」と気づいてあげること。
それができる人が、多ければ多いほど、この世界はやさしくなると思います。

きっとみなさんは、私よりも、大人になったときにもっともっと人にやさしくできる大人になるのではないかと思います。

世界というのは変化をしながら進みます。
だから、これからもびっくりするようなことは、起きると思います。
みなさんは、今、突然の変化を経験しました。
それは、きっと、これからあなたが生きていく上で、変化に強い大人へと導いてくれるのではないかと思います。

どうか今のあなたが感じるまっすぐな心のままに、
やさしさと強さを兼ねそなえた大人になって欲しいと私は思っています。

授業でみんなで聴いた「パプリカ」はこれからもあなたの生活の中で聴く機会があるかと思います。

この曲を聴いたときに思い出してください。
楽しかったあの瞬間を。
平穏だったあの時間を。
みんなで笑ったあの日を。

なんだか上手く笑えないなという気持ちになったときにはこの曲を聴いてみてください。
そして、この曲を聴いたときに、「そういえば、小学生のときに、変わったラジオDJの人が来て、にこにこいろいろなことを話してくれたな」と、あなたにとって、思わず笑ってしまうような記憶になっていればと思います。

離れていても、心はいつも一緒です。
みなさんの未来が、一人ひとりの心に花が咲くような喜びと幸せでいっぱいの、笑顔あふれる日々であることを、心から祈っています。
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「国ってそう簡単に終わらないのよ。」
毎日のように起きるテロや爆弾の攻撃に不安な生活をしているイラクが出身国である、私のアラビア語の先生が教えてくれた言葉を思い出す。

そう、人も、国も、世界も、簡単には終わらない。
助け合うことで築き上げることができる未来は必ずある。

季節が春へと移りゆくある日。
私は、ベランダの鉢植えに新しく花を植えた。

毎日水をやり、少しずつ育っていく花たちを見ながら、
私は大切な人とまた一緒に笑い合えることを、
今、何よりも心の希望としている。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜10秒”に乗せて)
季節は春です。いつも歩いている道に、今日は小さな花が咲いているかもしれませんよ。
あなたが見つけた花を、やさしさを、大切な人に届けてあげてくださいね。

Foorin「パプリカ」




武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、イベント司会、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会広報委員として、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

武村さんが子供たちに送った手紙の返事を、まるで自分に送られた手紙かのように読んでしまった。世界で、身近なところで、先の見えない問題が起こった時、大量に芽生える感情がある。何かが欠けてしまわないと気づかないことが山ほどあって、なんだかなぁと自分でも思ってしまうけれど、なんだかなぁで終わらないように、少しでもこれからの足しになるようにと思わずにはいられない。

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