長期滞在者
世界が素晴らしいと思えないときがある。 人生にはいろいろなことがあるから、それは別に不自然なことではないと思う。 ただ自分を少し見つめ直すだけだ。 ぼんやりとした私は生活の営みを通してぐいぐいと現実に引き戻される。 だから私は家にいるとほっとするのだ。 8月1日(水) 洗濯物を取り込んでいたら羽虫が入ってきて天井に張り付いてしまった。私は椅子に乗っても天井に手が届かないので、部屋にいた昴君を無理や…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
インドの友人、ソナルの家族は彼女の婚約者、前夫との長女、ミャンマーから養子に迎えられた次女、叔母さんの4人家族。そこに住み込みの若いメイドさんふたりとシッターの中年女性、心優しいけれどやや天然なドライバーが加わると8人家族。今回はソナルの叔母さん、ディディのことをお話しよう。 ディディ(インドで年長の女性を慕って呼ぶときの「お姉さん」という意味合いの言葉)は、陽気で優しく、60代とは到底思えないよ…
お直しカフェ
私はカフェが好きだ。北千住のBUoY(ブイ)というアートセンターの中にあるカフェで月に数回店番をしている。ひょんな繋がりから人生3度目となるカフェ開業、構想や内装施工からに立ち会った思い入れのある店だ。元銭湯とボーリング場という廃墟同然だった場所を最低限の手直しで劇場やカフェにした、ヘンテコな場所。 私が店番をしていて好きなのは、一日中その場所のことを考え、整えながら、誰かがやって来たらその一角を…
長期滞在者
大学の後輩が某航空会社で CAをやっていて、 ブリュッセルに来るというので、 20数年ぶりに会って食事をした。 当時から人付き合いの苦手だったぼくは その後輩ともあまり話したことはなかったのだけど、 会ってみると意外と覚えていることもあるもので、 危惧していたほど会話に困ることはなかった。 西洋舞踊専攻のコースに在籍していたぼくたちは、 それぞれ踊ることはあまりなくなっているけど、 やはりその大学…
長期滞在者
体調の浮き沈みは、病気になってから日常的なものになっているけれど、8月中旬ごろから水棲ゾンビのような状態でいます。 まともな精神状態をキープするのって、どうしてこんなに難しいんだろう。仕事に行く、食事を作るなど、生活の基盤となる様々なことがままならない状態が続くと、人ってこんなに心が荒むんだって、この身をもって実感している。人と建設的なコミュニケーションをとる余裕もないし、ましてや、溢れ出す思考を…
長期滞在者
小説を読みながら、音楽を聞きながら、映画を見ながら、「まるで自分のための作品のようだ」と感じる瞬間がある。 特に孤独を感じているような時、そんな作品に出合うと、固く閉ざされていた扉が開いたような気持ちになる。見つけたのは自分なのに、世界のほうが見つけてくれたような気持ちになる。 スペインのブロガー、マイク・ライトウッドさんが書いた小説『ぼくを燃やす炎』は、多くのLGBTにとってそんな気持ちを与えて…
ギャラリー・カラバコ
この鍵が届くようになって3回目。 今日も満月の夜だ。 真上から照らされて、わたしには影がない。 影は、わたしをどこかに結びつける役割をしていたのかもしれない、と思う。 ギャラリーの扉を開く。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 — 「鏡」 絵: 古林希望 文: カマウチヒデキ ーーーー 共通のタイトルだけを手がかりに2人の作家が絵と小説を別々に制作し、掛け合わせていく企画「ギャラリー・カラ…
長期滞在者
このアパートメントでの連載でlynch.の曲で言葉を巡らせるのは2回目である。 2016年1月16日に公開した「EVOKE」。 この文章を書き上げた時、私はとても怖かった。公開まで怯えていた。 果たしてこの想いが伝わるだろうか? たった1人にだけ、事前に読んでもらった。 「どう思う?」と尋ねる私に友人の彼はすぐにこう言った。 「大丈夫ですよ。これは伝わりますよ」と。 そうして公開した記事は、多く…
長期滞在者
夜、港に近い工業地帯を自転車走行中、地べたに羽を広げて貼りついていたアオスジアゲハの真上を轢いてしまった。 ライトで視界に入ったときにはもう避けられなかった。 むごいことをしてしまったと、引き返してみたら、蝶形に広がったゴムカスの上に青い紙くずがへばりついていただけだった。 ・・・・・・ アオスジアゲハが好きだ。 ジャコウアゲハ等クロアゲハ系も好きだが、なぜかよく見かけるし、しかも死に際によく会う…
長期滞在者
街を舞い飛ぶビニール袋は、予期しないときに突然現れる。 初夏の真っ青な駅前広場で、緑の文字が書かれた白いビニール袋が、ふわふわと舞い降りてくる。その気配に気づいて、スマートフォンを取りだしてカメラを起動する頃には、もう、地面にぺしゃりと潰れており、ふたたび動きだしそうな様子はまったくない。ビニール袋をすかしてコンクリートの地面にうつる透明な影が、今でも目に見えるような気がしてしまう。 地下鉄に通じ…
長期滞在者
東京から遠く離れたところで、活動の拠点を置いている写真の作家さんが近々地元に作品の発表の場を自分たちで立ち上げようと準備していると聞きました。 写真ギャラリーが今までなかった地域にその土地に根を下ろして、自分の表現の実践と思考を深めていく、ならびにその地域の人々と結びついていく場を持つというのはとても意義深いと思います。 地方都市において、写真展といえば、地元のアマチュアカメラ愛好家の人たちの、お…
Mais ou Menos
Hi, お元気ですか? 今月の往復書簡ですが、わたしとパートナーの間のお手紙ではなく、わたしから普段読んでくださっている方々へのお便りという形にさせてください。突然のことで、驚かせてしまったらすみません。 近況報告からですが、わたし(Maysa)とパートナー (ぴちゃん)は、相変わらず日々、必死に生きています。健康維持が、ここ最近のわたしたちのテーマになっているのですが、生きていると、予想していな…