当番ノート 第36期
「あなたは神を信じますか?」 一昔前、そのようにいきなり路上でガイジンさんに聞かれたものだった。 ガイジンさんと言うことで、何故かたじろいでしまう由緒正しい日本人な私である。 ちゃんと日本語で話しかけてくれているにも関わらず、 「アナタハカミヲシンジマスカ?」という音の連なりにしか聞こえてこず、意味を解すことが出来なかった。 たぶんガイジンさんに対する怯みもあるけれど、 信仰、宗教というものを自動…
当番ノート 第36期
1997年の2月、初めて帆船で航海しました。 大阪から鹿児島まで、四国の南側、太平洋を超える一週間ほどの航海でした。 全部で25人ほどの乗船客がいました。 6,7人の3チームに分かれて、チームごとに様々な作業をして船を動かしていきます。 ぼくのチーム(船ではワッチと呼ばれていました)は、 高校生男子、大学生女子、20代男子(ぼく)、30代女子、40代男子、60代男女各ひとり、とものすごく年齢のバラ…
当番ノート 第36期
photo by rika minoda 2015/9 in domeki-river mashiko-cho tochigi pref. 私が生まれ育った家の玄関の小上がりに、サンタクロースが抱えていそうな白い大きな袋が二つ三つ置かれるのは、 毎年決まって元旦の朝だった。 父が郵便局で働いていたので、 地域の家々に年賀状を届けに行く配達の人たちの拠点になっていたのだ。 配達の人たちは、「失礼しま…
長期滞在者
見慣れた光景が普段と違う表情になるのを見るのが好きだ。たとえば年末年始の東京の都心部はきわめて無表情になり、わたしはその数日間だけ、無条件に東京のことが大好きだと言えるようになる。 12月も29日くらいになると、街や電車には目立って人が少なくなり、いつもはたくさんの人の波にもまれて辟易する通勤なんかも、すいすいと楽にこなせるようになる。日々の東京を染める殺伐とした空気がふっとゆるみ、妙に手持ちぶさ…
長期滞在者
瀬戸内海にあるうさぎの島に、また行ってきた。 別にうさぎを飼ったことがあるわけでもないし、数ある動物の中でとくにうさぎが好きというわけでもない。なのにもう三回目の上陸である。 何年か前に行ったときは島内にうさぎ300匹とか言ってたのに、今年のインフォメーションでは700匹だという。たしかに以前はあまり出会わなかった山の上の方でもひょこひょこ餌をねだりに出てくるから、増えてるのは確かなようだ。増減の…
当番ノート 第36期
ふと、携帯に残っている服飾の学生時代からの写真をざっと見返してみた。 たいがいそれらはどれも微笑ましい。 スマートフォンで写真を撮るというのは基本的には良い思い出を残すためにするし、思い出したくないことと関連するものは後から消してしまえるからというのもあるだろう。 楽しかったこと、感謝していること、心動かされたことをたくさん思い出せる。 ものを作る純粋な喜びを知ることができた。 学生…
長期滞在者
「判断基準が外にある不安をどうにかしたいよね。もっと素直に生きて。」 そう言った彼のことを、知り合ってからの長い間、わたしは“判断基準”にしていた。 彼の好きなものを、わたしも好きになりたかった。 今なら分かるけれど、それは、彼に好かれたいとか、同じものを共有したいという動機とは、多分違った。 知り合った頃に彼が教えてくれた生き方や、表現は、自分にとっても必要なものではないかと感じたからだ。 その…
当番ノート 第36期
生姜の入ったお茶の美味しい季節。すでに新年に入ってから今日で18日が経過。日に日に寒さが深まりながら、でも日も長くなってきて春が近付いてきてもいるのを鼻にツーンとくる冷気とともに感じています。 自然の中で、朝早く起きて瞑想や座禅をして、カフェイン・アルコール・五葷を避けたピュアな菜食料理をいただいて、のんびりゆっくり過ごした中で、徐々に自分の意識が透明になっていったように感じてとても幸せだった。 …
長期滞在者
展示スペースの中に入る手前に、もうひとつの小さな展示空間として「リコメンドウォール」というスペースを設けています。小伝馬町の移転後に新たに設けたスペースで、小さな棚と4.8mの壁を使って、毎月一人の作家さんを特集するというコンセプトです。 このスペースの良い点は、コンパクトなスペースゆえに、低予算でありながら、良質な作品を長期間にわたり展示することで、確実に作品のこと、作家さんのことをお伝えするこ…
当番ノート 第36期
昨年末、連日にわたるラジオの通販番組の「カニいかがですか?」攻撃に私は曝されていた。 曰く、「お送りするのは、氷の重さは除く正味のカニの重さです」とか、 曰く、「年々水揚げ量が減り、ご用意するのが大変なんです」とか、 曰く、「水揚げ量が減っているので、近年ますます高値になっているんです」とか、 曰く、「そんな貴重なカニを3キロに加えて、もう1キログラムおつけします」とか、 曰く、「これだけのお値段…
当番ノート 第36期
1995年の1月にフリーランスになって1年半ほどが経っていました。 仕事は順調でしたが、少しずつ追い詰められているような気持ちになっていました。 しかも、何に追い詰められているのかもわからずに。 ずっと同じことをやり続けることが苦手で、いつも新しい何かを作り続けていたい。 舞台という非日常な時間のなかでずっと暮らしていきたい。 そんな気持ちもあって舞台照明家になりましたが、人生の全てを夢の時間で暮…
長期滞在者
「音楽がわからなくなってしまうよ。」 極限まで落ちた。 身体が動かない。起き上がれない。朝も昼も夜も眠りの中にいるような状態。 「本当に自分を見失ってしまったら、音楽がわからなくなってしまうよ。」 それはいつも、最後の最後で、私を救う言葉だ。 飛び出した。ここにいたら自分が全てダメになってしまう。 そうだ、前から気になっていたバンドのライブを観に行こう。 その会場は、自分が通っていた大学の近くだっ…