長期滞在者
バーカウンターのなかにいると、常連さんから一見さんまで、日々、否応がなしに、さまざなな人と接することなる。 すると、お酒の注文の仕方や飲み方、好みのカクテル、どんな人を連れてくるのか、などの店内の立ち振舞が、その人の趣味嗜好だったり、人間性を知るためのヒントだと気づく。自分のなかだけの法則が見つかる。 例えば、バーカウンターに一人で座って、スコッチなどで通なウィスキーを、ストレートで飲むような女性…
当番ノート 第31期
“世界中のすべての時計を二秒ずつ早めなさい。誰にも気付かれないように。 ー オノ・ヨーコ” 鹿児島でよく訪れる食堂の扉に、いつからか書かれていた言葉だ。 誰の言葉なのだろうかと気になってはいたけれど、誰に聞く訳でもなくしばらく時間が経った。 今回、アパートメントに寄稿するにあたって、何を書くべきかとても悩んでいた。 名古屋から鹿児島へ向かう車中で、あれこれ考えたりもしたがて…
当番ノート 第31期
夕日を追いかけていた。読み方も知らない町で、僕は夕暮れと夜に境目がないことを知った。黄金色に染まったコンクリート塀の間をひとりで進む。子どもの頃の話だ。アスファルトの匂い、長く伸びた影、湿り気を帯びた暑さ。僕はどこまで行けるだろうか。答えを探していた。見知らぬ風景に身を置くことに感じる不安と期待。夕暮れと夜のようにふたつの感情にも境目はなかった。 どうやって帰ったのだろうか。記憶がすっぽりと抜け落…
Native Language
当番ノート 第31期
へんな人。見方によっては近寄りがたいが、噛めば噛むほどに味わいぶかいスルメのように、話せば話すほどのめり込んでしまう人のこと。 そして、独特の価値観を持ちながら、暮らし、働いてるへんな人が、考えるへんな人。 そんな「考えるへんな人」を知ったり、会ったりすると、「こんな人もいるんだ」と、世の中の選択肢みたいなもんが広がるような気がしてて、そういう人の存在は貴重だなぁと。 ということで、2~3月の当番…
当番ノート 第31期
その頃わたしは冷暖房のない部屋に住んでいた。2月なんかに1日中家で仕事をしたりすると、どんなに分厚いフリースにくるまっても、ブランケットを何重に巻きつけても、日が翳りはじめる頃には、身体が芯まで冷えた。 銭湯を楽しむようになったのは、たぶんその部屋に住んでいたときからだと思う。東京は北千住の、下町の商店街からひとつ路地を入ったところにあるその家は、5畳の広さしかない1Kだったけれど、東向きの気持ち…
日本のヤバい女の子
【2月のヤバい女の子/執着とヤバい女の子】 ●橋立小女郎 ――――― 《橋立小女郎》 天橋立の近くに一匹の狐が住みついていた。頭が良く、意地が悪く、毎日のように通りかかった旅人や漁師を騙すので、皆手を焼いていた。 素行の悪さを隠すように可愛らしい娘に化けて現れる狐をいつしか人々は「橋立小女郎」と呼ぶようになった。 ある日、一人の漁師が浜で舟を出そうとしていると、松林から突然見たことのない娘が現れ、…
当番ノート 第31期
東京の下北沢でクラリスブックスという古書店を営んでいる。 店をオープンして3年が経った。月並みな言い方だが、ほんとに、月日が経つのが、早い。 私は現在42歳だが、店をオープンした時期に、私より一回り年上の人から、40代はほんとに早いよ、あっという間だよ、と言われたのを思い出す。 業種は全然違うが、その方も私と同じくらいの年齢の時にお店を立ち上げたようで、なるほどそういうものかな~、とぼんやりと心の…
長期滞在者
「不幸中の幸い」って、実際によく起きることだと思う。生きていると、そりゃあ悪いことも起きるし、嫌なことも多いんだけれど、今、この段階でわかってよかったということは、やっぱりある。大抵は、どこかに予感があるわけだし、そういうサインは見逃さないようにしないとな、と自戒を込めて思う。 新しい一年のはじめの月は、忙しいやら、大変やら、ほんとうにドタバタした。仕事でも、私生活でも、ジェットコースターのようだ…
当番ノート 第30期
連載をしておいて何だけれど、合計9回の記事を書くにあたって、これだけは書かねばと思っていたことは初回の肯定についての記事で推敲を重ねて、だいたい書けたような気がしている。 それ以降はずっと伸び伸びした気持ちで書いてきた。 時々もらう、アパートメント読んでますよ!という言葉に何度嬉しくなっただろう。 服を作ることを通して、いろんなものに捻じ曲げられていないあるがままの相手を肯定するということ。 これ…
当番ノート 第30期
皆様こんにちは。HALです。いかがお過ごしでしょうか。いよいよ今回が最後の投稿となります。これまで読んでいただいた方、そしてコメントを寄せていただいた方、本当にありがとうございました。そしてアパートメント関係者の方、手厚いサポート御礼申し上げます。 最近、少し長めの文章を書くことからしばらく離れていたので、自分の頭を整理する上でも、そしてそれを活字で表現するということにおいてもすごくいい機会でした…
当番ノート 第30期
今日で最終回。 あっという間の2ヶ月でした。 毎週日曜担当ということで書かせていただきました。 この2ヶ月、私の担当した日には、 クリスマス、正月、そして今日はなんと母の誕生日。 なんだかめでたい日ばかり入っていたように思います。 さて、最終回。 何を書こうかなと思ったけど、何回考えてもこれしか出てこなかったので、つなぐひとらしくこれを書いていこうと思います。 ご縁と別れ。 ご縁というのは、とても…