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2F/当番ノート

落書きの山

当番ノート 第31期

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絵本を描いています、というと、「まずおはなしを考えて、それに合った絵を描いていくんですよね?」と尋ねられることがありますが、私はそういう順序では描いていません。

落書きからちょっとしたストーリーやおはなしのワンシーンが浮かんだら、そこからすこしずつ膨らませて絵本にしていきます。ストーリーより絵のほうが先なのです。
絵本をつくり始めたころはあまり深く考えず、いきあたりばったりで描き始めて、最後に辻褄があわなくなってしまったり、ページの途中で主人公の進んで行く方向が逆になるという矛盾が起こったりしたので、今では描き始める前に雛形を作るようにしています。絵本の形になってページをめくっていったときに、どんなふうに見えるか、ページの真ん中の折り目が絵のどのあたりにくるか、雛形を作るとわかりやすいのです。ただ、あまり下書きや準備作業が長いと途中で飽きてしまったり、面倒くさくなってしまったりするので要注意なのですが。

「じゃあ、どうやってこんな絵やストーリーを思いつくの?」と聞かれることもあるのですが、こればかりは私にもよくわかりません。自分の中からでてくるものなので、自分の一部分なのだとは思いますが。。。いつもしている落書き(絵だけでなく、文字で書いたものもあります)は必ずとっておくようにしています。ノートに描くこともありますが、広告の裏や何かの切れ端、色を塗ったものから走り書きのようなものまで、箱に落書きの山をどっさりためこんでいるのです。バラバラの落書きをつなぎあわせ、膨らませて一つにしたものが絵本になる、という具合です。

絵本というと、無条件に子供向けだと思われることもあるのですが、私は子供向けと意識してつくっていはいません。子供向けにつくる、ということがどういうことかあまりよくわからないし、そもそも子供と大人の違いってなんだろう?絵本は子供だけのものではないと思っていますし。

描くときに、これを読んだ人がどう思うだろうか?ということは、実のところほとんど考えていません。自分が描いていて楽しいと思えて、結果的にそれを見た人にもなんだか前向きな、楽しい気分になって、さらに何かインスピレーションをもたらすようなところまでいければ、とても嬉しい。

ウサギばっかり描いてみたり。。。

ウサギばっかり描いてみたり。。。

猫ばっかり描いてみたり。。。

猫ばっかり描いてみたり。。。

使う予定はないけれど、いろんなフォントをつくってみたり。。。

使う予定はないけれど、いろんなフォントをつくってみたり。。。

色見本帳をつくってみたり。。。

色見本帳をつくってみたり。。。

きた えまこ

きた えまこ

絵本を描いたり、落書きしたり、工作したりしています。ひょんなことから人生二度目のパリ暮らし中。

Reviewed by
松渕さいこ

物語はコントロールできない。
産みの親であろうがそれは変わらない。
親と子の関係とちょうど同じように、時には野となれ山となれ、だ。

えまこさんとえまこさんの絵たちとの関係や絵本の成り立ちも、どうやらそうらしい。
あらゆる紙、あらゆる切れ端に命が吹き込まれた山のような落書きたち。
それらは落書きと呼ぶのには、ずいぶんはっきりとキャラクターの際立っているものなのだけれど
私から見ればえまこさんは、ほどよく力の抜けた方法で落書きたちの行方を見守っている。

物語は朝、目を覚ました瞬間に夜の間の夢を反芻するように浮かぶこともあれば、さぁここから、というところでふっと先が見えなくなってしまうこともある。
ハッピーエンドにしたい、と願っていても「彼にとっての幸せ」は作者の意図とおなじと限らない。
生まれた瞬間から手を離れてしまっているものと物語を進めていく。

こども向けのお話、なんてあるものか。
えまこさんの言葉どおり絵本を読むうえでこどもと大人に理解の境目はない。
飛び込んでくるイメージの違いや、感じられる匂いに違いはあるかもしれないけれど優劣は存在しない。
だからこそ、絵本のもつエネルギーは強大。
理解やストーリーを強要しない余白が、絵本の一番大きな魔力だと思う。

彼女自身もまた、山のようなうさぎや猫たちのなかに含まれているんだろう。
私も落書きのなかのうさぎになって、えまこさんの絵本のなかで行方のわからないお話と戯れたいな。

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