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2F/当番ノート

染色 その2

当番ノート 第31期

染色を始めたころ、科学染料ではない植物性の染料は動物性の布(絹やウール)と相性がよいということを知り、では布ではなく、皮は同じ方法で染められるのか、染めたらどうなるだろうとずっと気になっていました。皮は紛れもなく動物性なのですから、草木染めと相性はよいはず。思いつくとやってみたくてウズウズするのですが、染めるための皮がないし。。。ということでしばらくお預けになっていたのですが。。。
ふと皮製のリュックを持っていたことを思い出しました。一昔前の女の子用ランドセルのような光沢のある真っ赤に飽きてきていたので、これを染め直してみたらどうかと。
sac_rouge
この赤い色は皮を染めてあるわけではなく、表面に塗装をしてあるらしいことがわかりました。この塗装をどうやって落とそうかと考え、ふと漂白剤に浸ければいいんじゃないかと思いました。ちゃんと調べた方法ではなく思いつきだし、リュックをダメにしてしまう可能性もあるのですが、やってみたくなるといてもたってもいられなくなり、まず一部分で試してみることにしました。肩紐を半日ほど漂白剤に浸け、歯ブラシで表面をこするとちょっと怖いくらい表面の塗装がズルっと剥がれました。そこで調子に乗って本体も漂白剤に浸けました。
 
 
 
sac_mouille
写真は数日かけて漂白剤で表面の塗装を全て落としたものです。まだ濡れている状態です。皮の色は元の赤い色がほんの少し残って、動物的な生々しい感じになりました。ぬるま湯で何度も洗い、漂白剤のヌルヌルを落としました。
それにしても皮はこんなに変わってしまったのに、チャックの布部分は最初よりほんの少し色が抜けてオレンジ色になっただけだし、ステッチの色の赤は全く褪せず。不思議です。
 
 
 
sac_avant_teinture
完全に乾くと一段明るい色になりました。光沢は全くなくなり、固いスウェードのようなガサガサした手触りになりました。
 
 
 
ficelle
漂白剤に浸け過ぎて傷んだのか、肩紐がボロボロになってしまったので切り取ってそれを試し染めに使うことにしました。果たして布と同じ方法で染まるのかどうか。
 
 

 
真っ白の布とは違い、地色のある皮を染めるので、今まで染めた材料の中でもとくにはっきり色の出る玉葱の皮とターメリックを試してみることに決めました。
まず染め液の準備からです。
oignon_dans_la_marmite
玉葱の皮をお湯でグツグツ煮ます。
 
 
 
bouteille_oignon
玉葱の皮よりずっと色の濃い紅茶色の染め液がとれました。左右色が違いますが、両方玉葱の皮でとったエキスです。右が一番出汁、左は二番出汁なのです。

ターメリックの染め液は沸騰した湯に料理用のターメリックを入れてかき混ぜて作りました。
 
 
 
染める手順は布のときと同じにしました。
肩紐を何本かに切り、それぞれ玉葱の皮、ターメリックの染め液に浸けます。
ficelles_mouilles
布と違うのは、上の写真のように染め液に漬けたあと、皮が黒っぽくなって一見染まっているのかどうかわからなくなってしまうところです。完全に乾燥するまでただ濡れて変色しただけなのかどうかが、わからないのです。
左二本が染め液から出したところ、右の一本は染めていない乾いた皮です。
 
 
 
ficelles_teintes
完全に乾かすとはっきり色が区別できるようになり、ちゃんと染まっていることがわかりました!
上の写真は左から二本染色なし、玉葱の皮染め+明礬の色止め、玉葱の皮+木酢酸鉄、ターメリック染め+明礬、ターメリック+木酢酸鉄です。
(ターメリックは染め液の温度が高すぎて革が縮んでしまいました。)
 
 
 
ターメリックと明礬の組み合わせでできた黄色が一番気に入ったので、リュック本体はその組み合わせで染めました。
sac_ jaune
上が染めて乾燥させたリュック本体です。染めているときはターメリックの匂いが台所中に充満していましたが、乾かしてしまうとそれほど気になりません。元の赤いリュックからは想像もつかないくらい違う色になりました。ガサガサした風合いも、色むらも残ったのですが、それが元の既成品の雰囲気とはまったく違って気に入りました。
皮もいろんな液につけられてずいぶんくたびれていると思うので、これからオイルをすりこんで手入れするつもりです。

皮は布と同じ方法で染色できることがわかったので、いずれ肩紐も皮を同じ色に染めて付け替えたいと思っています。

きた えまこ

きた えまこ

絵本を描いたり、落書きしたり、工作したりしています。ひょんなことから人生二度目のパリ暮らし中。

Reviewed by
松渕さいこ

「こんなものが作りたいけど、この方法で果たしてできるかな?」
と思いつくことがあったとする。

もしかしたら上手くいくかもしれない。
でも、いかないかも。

手を動かす前に一度立ち止まってしまうと、再び動き出すのは思う以上に腰が重い。
だからその思いつきがいくら素敵でも実現しないことが多いと思っている。
想像だけでお腹いっぱいの気持ちになってしまうのだ。
面倒くさがりの私はその思いつきを箱にしまってしまうことが、ままある。
本当はなにも「じぶんが」知っていることなど、なかったりするのに。

えまこさんにとって、染色を巡るいろんな実験は道草にほかならない。

第一回目のコラムで、はっきりと道草が好きなえまこさんを知ることができるけれど
私が最初に受け取ったイメージ以上にえまこさんは筋金入りの道草者(プロ)だと思う。
好奇心の塊であるだけじゃなく、実践して楽しめるひとなのだもの。
単に誘われるまま歩くだけじゃない道草には、本当に心愉しく豊かな種が転がっているのだなと思った。

元の色を脱ぎ去り、ターメリックで二つとない色に染まった鞄に新しい紐を付けてあげて。
そうして分かっていくひとつひとつの「本当のこと」は、道草のたしかな収穫物だ。
収穫を目的としてない、ただ気持ちの向くまま手を動かし結果として手に入るもの。

きっと当人であるえまこさんは「楽しいからやるだけだよ」と軽やかに答えるかもしれないけれど
私は彼女にまた、憧れの気持ちを抱いている。

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