当番ノート 第25期
花粉が飛んでいる もちろん黄色い粉が舞っているのを見てとることはできないけれど, ぼーっとする頭が花粉のことを嫌でも認識させる。 ぐずぐずの鼻 散らかった部屋 今夜,彼に会いに行く いつもの電車に乗って,あの駅で降りて,バスロータリーを抜けていく そういう風に思い浮かべていくと,あっという間に彼の部屋の扉に行き着く 彼のことが好きで,あの街も好きになった 私は午前中を,彼のことだけを考えて過ごした…
当番ノート 第25期
インタビューアーの仕事の醍醐味は、相手が考えていなかったことを引き出すことだと思う。「それを聞いてきたのはあなたが初めて」と言ってもらえた瞬間、私の心臓は興奮に踊る。 誰かの話を聞かせてもらうというのは、動いている人にしばしの時間止まってもらう行為でもある。止まってくれたその時間の中で相手が何か新しい、もしくは懐かしい発見をしたり、自分の中に言葉を見つける瞬間だったりに立ち会えると、私はほっとする…
当番ノート 第25期
鈍色の低く垂れ込めた雲から銀の糸が降ってくる。幾筋も注ぐ雨は土を濡らし、青々とした独特の匂いを放った。 「ペトリコール」 僕は知らずのうちにつぶやいていた。雨が降りだして土を叩き始めた頃合いの匂いを、そう呼ぶらしい。 開け放していた窓からは細かく霧のような水滴が吹き込み、真白のカーテンをしっとりと濡らした。書きかけの書類は窓際の机に放置していたため、瞬く間に洋墨が滲んでゆく。 やれやれ、…
当番ノート 第25期
世界中を飛び回り、ダンスを通じて多くの人に笑顔を与えている友人がいる。同じアメリカでも違う土地をベースに暮らす彼女とは、約束せずともタイミングよくいつもどこかで会える。太陽のようなパワーとエネルギーに溢れた彼女は、いつも誰とでもまっすぐ真剣に向き合っている。子供だろうが大人だろうが、彼女はいつも本気だ。無論、私に対しても同様に。先日、ダンスをしているという少年と彼女が話をしていた際、ダンスを突き詰…
当番ノート 第25期
三重に移住して4年目にさしかかり三重でこのまま住むのかそれとも、という思いが巡るようになってきた。それまで穏やかな凪の浜辺にざわざわと波が立ち出すそんな感じがしたのだ。三重のことは取材や生活する中でわかってきたのに故郷の静岡のことって全然知らないし撮影をしたいな。三十路手前の焦りからか純粋に写真のことに取り組みたいと動き出す気持ちを抑えながらデスクに向かっていた。窓先にある梅の枝の蕾をぼんやり眺め…
当番ノート 第25期
どうしてみんな、あんなに思ってること言ったり態度に出したりするんだろう と、帰り道 チラチラひかるコンクリートを見ながら考える ため息と舌打ちの真ん中が 私の口の中で憂鬱そうにしている 雨は、人並みに嫌いだ でもきょうはずぶ濡れで帰ってもいいかなと思う夜だった でもさっき、やんだ そういうことばかりだ、わたしの人生は わたしはわたしのすべてがつまらないと思うことがある …
長期滞在者
先月、ペンタコンシックスというカメラのことを少し書いたけれども、ビオメターという名の標準レンズの他にも広角レンズのフレクトゴン、魚眼レンズのゾディアックというのを当時所有していた。 中判カメラに使える魚眼レンズというのは珍しかったので、このゾディアック30mmF3.5は特に愛用した。 いや、「珍しかったので」というのはいいわけであって、実は「ゾディアック」という名前が好きなのだった。 ゾディアック…
当番ノート 第25期
寿司屋に行こうと言い出したのは先輩のほうだった。ブラジル人が生魚を好きなことに少し驚いた。サンパウロは多様な民族の中でもとくに日系人が多く、日本食も存在感がある。夜は軽く済ませるというブラジルにおいて、軽く寿司でもつまもうと考える人は多いらしく、平日の中日だと言うのに店はほぼ満席だった。 海苔の代わりにスモークサーモンで巻かれた巻寿司を綺麗な箸使いでつまみ上げながら、ブラジル人の先輩は自分の仕事の…
長期滞在者
寄席の世界では「つどまり」といって、お客様が一桁だとその日の出し物は打ち切りとなるのだそうです。 「つ」というのは、ひとつ、ふたつ、、、ここのつ、の「つ」で10人に満たないと、やらないということを高座に上がっている芸人さんから聞きましたが、本当にそういうしきたりがあるのかは、よくわかりません。 というのも、あの時の新宿末廣亭はお客様が5、6人しかいなかったのですから。 その日は、とにかく家にいても…
当番ノート 第25期
土砂降りかと思いきや急に雪が降ったり、観測史上に残る夏の日のような気温を記録したり、ニューヨークは人や街だけでなく、天気までもが忙しい。さらに、ここまで来たら逃げ切れると思っていた花粉症がこっちにもあることを知り、落胆の色を隠せないでいる。しかし、もう見れないかと思っていた桜はニューヨークでも見れることが分かり、春の訪れに胸躍らせている。花見ができる。私の心も、この街と同様に、忙しい。 こうしてパ…
当番ノート 第25期
涯ての国というものがあるとするならば、そこは電車に乗れば行けるのだろうか。 ときどきそんな風に取り留めのない思考に耽る。 かの有名なジョヴァンニは、汽車に乗った友人に何処までも一緒に行こうと約束したけれどもその約束はかなわず、星天を見上げ涙を流すだけだった。 そもそもそこにレールが敷かれているならば、それが途切れる場処にたどり着く筈だ。 水平線に終わりは無いし、宇宙は途方にくれるほど…
Mais ou Menos
まちゃんへ まちゃんと離れて生活してもう4ヶ月経った。年末に帰って、先月まちゃんが遊びに来てくれて、2回しか会ってないけど、FaceTimeしたりできるので、まちゃんが遠くにいても寂しさはマシ。 こっちで1人で生活してみて、結果的にはすごくよかったと思う。料理をしたり、生活をする力がついた。あと、2人がそれぞれ先のことを考えて、今自分にできることを一所懸命やっていることを俯瞰して見れるようになった…