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《画家と7人の肖像》BIGMAMA 金井政人

画家と7人の肖像

一生縮まらない距離がある。

本来なら年を重ねるごとに砕けていく感情が、彼の前では反比例になる。
歳を重ねるごとに明確になる距離感。私の人生の中で、これほど特異な対象はいないだろう。

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Photo by Kazuki Hiro

7人の肖像を描くにあたり、方々に企画概要を伝え、承諾を得る過程には毎回心臓が握り潰される勇気を伴った。そうしてようやく6名がテーブルに着いた頃、最後の席に招いたのがBIGMAMA 金井政人氏だった。齢1つしか違わないはずの彼は、私にとって世界一緊張する対象であると言っても過言ではない。

2010年。デザイン学校を卒業してからすぐにフリーランスの道を選んで1年あまり、大きなキャリアも無く、カフェのウェイターをしながら絵画制作を支え、のらりくらり過ごしていた。同年4月、西荻窪にある小さなカフェで開催したグループ展に彼が足を運ばなければ、今の私は居ないだろう。BIGMAMAとのコラボレーションが私の作品を全国に広め、何より私の意識を大きく変えた。彼らのコンセプトアルバム【Roclassick】に収録されている『虹を食べたアイリス』に添えた作品は、今日までの精神的支柱であり、私が画家を続けるにあたり重要な作品となった。
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それを当時わかるはずもなかった。未来に向かって次々に生み出していく作品が、必ず過去作を超えていくと単純に信じていたからだ。自分にとっての「大作」というのは、完成した瞬間にわかるものではない。あれから7年、数百もの作品を生み出し続けたからこそ、実感するものだった。
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打ち合わせの席にて私は、彼の肖像画を制作するにあたり『虹を食べたアイリス』の対のような作品を描きたいと提案した。展示会場では並べて配置するビジョンもある。金井氏はその題材として、BIGAMAMAの7th Album 【Fabula Fibula】収録曲 『ファビュラ・フィビュラ』を挙げた。『ファビュラ・フィビュラ』の歌詞に登場する人物の価値観は、『虹を食べたアイリス』の歌詞の主観の延長線上にあった。まぁ、歌詞を書いてる人物が同じなのだから当たり前のことだが、連作をイメージするにあたり、とてもスムーズな心理変化を描くことができる。それぞれの歌詞のリンクを前文に置いたので、ぜひ読み比べてほしい。

「甘い甘い飴玉に 他人の不幸は蜜の味」

『ファビュラ・フィビュラ』の歌詞に出てくるこのフレーズをイメージの方向性として定めた。
闇の中、飴玉が宝石のように盛られたゴブレットを高らかに掲げ、しかし感情論は通じない無表情な男の姿。

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Photo by Kazuki Hiro

手に入れたいという刹那の衝動で大胆に欲しいものを盗み取った後、自戒の念に押し潰されて腹を裂き、返却して孤独に墜ちてしまうのが『虹を食べたアイリス』。 正直者にもはや意味を見出せず、優しい人を演じることにも疲れ、勇者だの賢者だのそんな肩書きなどどうでもよく、悪魔に魂を売ってでも彼が定めた「勝者」になることに腹を決めたのが『ファビュラ・フィビュラ』。どちらも孤独だ。ただ、孤独の在り方が違う。

フランス語の「Gobelet」に関係する単語で、「丸飲みする」という意味の「Gober」がある。嘘も本当も全て自分の闇の中に飲み込むブラックホールのようなイメージだ。地球と宇宙の間、人間の世界と「そうでなくなった者」との狭間で、甘い飴玉と地上じゅうに満ちている「蜜」を吸い上げ、糧にしていく。

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彼らの曲に『Royalize』という曲がある。2014年に発売された【Roclassick2】収録曲だ。私はこの曲にも作品を添えた。この絵も私にとって特別なものだった。当時アルバム収録曲に描いた作品群の中で一番好きだった。何よりその歌詞と、当時の私の願いのシンクロ率が高かったのも大きいかもしれない。

「二人浮かべた王国は 空高く漂う」

当時、そのフレーズにすべてのイメージをまとめた。憧憬の具現化は、雲の上に浮かぶ城。肖像画の孤独な彼も同じ雲の上に居るとしよう。そしてその目線の先、遠景に見えるものが『Royalize』だ。それは、パラレルワールド。そういう甘美な世界に憧れる自分もいたかもしれないが、現実は違うんだと。もっと、殺伐としているんだと。

2009年に発売された4thシングル『ダイヤモンドリング(2035/09/02)』を取り入れ、ブラックホールと皆既月食のダブル・ミーニングで構図を組む。運命的な関係性を信じる詞と、孤独を恐れない詞の二律背反にいる32歳の彼の姿を描くことにした。

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Photo by Kazuki Hiro

作品は発信された瞬間に作家の「念」から解き放たれ、数え切れないほどの反応と解釈に晒され、私の元に新しい価値として戻ってくる。生み出したばかりのこの作品は、今は単に「BIGMAMA 金井政人氏の肖像」として発信された。例えば、彼を知らない異なる国の人にはどう映るんだろうか。 描かれた本人も、自分の肖像画が生み出された瞬間に持った感情と、数十年後に向き合った時の感情はきっと異なるだろう。同じ時代に生きている人物を描く企画を立ち上げた、数ある理由の一つ。
それらを、生きている間に見守ることができるかもしれない。彼らの分身に、新しく価値を付与できるかもしれない。

この先、私はこの“発掘者”に恥じぬ画家人生を過ごさねばならないと思っている。また、様々にみっともない失敗をやらかしても、決して歩みを止めてはならない。お互い順調に健康に生きていれば、熟成された感慨で今日の作品を振り返るだろう。「未熟者だった」と笑うか、「あの頃が絶頂だった」と懐かしむか。どちらにせよ、私が彼の前で背筋を正されるのは間違いない。そういう存在が同世代にいてくれるのは、私の人生にとって素晴らしいことだ。

では彼に、この肖像画をおくろう。

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Painter: Maika Kobayashi
Material: Acrylic color/ Wooden panel / KENT paper

Model: BIGMAMA Vo&Gt Masato Kanai
Photographer: Kazuki Hiro
Corporation: PAKUTASO
Flyer design:Tsubasa Motohashi

※ コラム中に書かれている歌詞の解釈は、あくまで私個人が感じたものであり、アーティスト御本人の意図との齟齬もあるかと思います。あくまで、彼らの音楽のファンの一人が歌詞と向き合った上での解釈・感想として、ご了承ください。

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BIGAMAMAが現メンバーになって10周年となる今年、 初の日本武道館公演を10月に行う。同時期にイギリスへ発つ私は、その記念すべき場にいることが出来ない。本当に心から残念でならない。絶対同じ空間で最高のライブを味わうべきだった。それでも私は私で、戦わなければならないのだ。
みなさんにはこの機会を決して逃して欲しくない。彼らの大きなターニングポイントに立ち会うべく、必ず日本武道館へ。

BIGMAMA in BUDOKAN
2017.10.15 (sun) 日本武道館
16:30 / START 17:30 (end:20:30予定)
チケット前売 ¥5,000 / 限定タオル付き チケット¥6,500 *座席抽選

重要 : 一般発売日 2017年09月17日(日)~
e+
ぴあ
ローソンチケット

今日このコラムでBIGMAMAを知ったあなたも、
久しぶりに聴いてみようというあなたも、
ずっと好きなあなたも。いいタイミングでベストアルバムが出ています。

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Best Album「BESTMAMA」
2017年9月6日発売
RX-RECORDS/UK.PROJECT
RX-135,136 / ¥3,000+税 / 全40曲収録(CD 2枚組)

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Album 「Roclassick」 CD+DVD盤
2010年10月6日発売
RX-RECORDS/UK.PROJECT
RX-039 / 3,024円(税224円)

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Album 「Roclassick2」
2014年4月16日発売
RX-RECORDS/UK.PROJECT
RX-088 / 2,160円(税160円)

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ミラー付きケース
ミラーだけじゃない、ICカードやSIMカードも収納可能
SuicaやPASMOなどの交通ICカードや、電子マネーカードをピッタリ収納可能。 自動改札や買い物もスマートにできます。電磁波干渉防止シートも付いているので、自動改札でのエラーを防ぐ優れもの。 おまけにSIMカード入れも、ケース裏面についているので、SIMフリーのiPhoneをお持ちの方は、ちょっとした海外旅行にも便利です。ミラーは特殊ポリカーボネート製を使用しています。【対応機種】iPhone7・iPhone6/6s・iPhoneSE/5/5s

スマーフォトンケースは以下の機種に対応しています。
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小林 舞香

小林 舞香

画家・イラストレーター。アクリル絵の具を使用し、手描きによる精密な写実画を特徴とした絵画を中心に作品を展開している。2009年よりフリーでの活動をスタートし、翌年に初のNY個展を開催。木製パネルに貼られたケント紙に絵の具で描く以外にも、壁画や舞台美術、ファッションデザイン、グラフィックデザインなど手法・表現は多岐に渡る。個展やイベントをベースにオリジナル作品を発表しながら、企業とのコラボレーションでイラストレーターとしての活動の幅も広げている。2017年11月ロンドン個展、12月にアムステルダム個展を控えているが、今回のコラムでは2018年4月に開催される銀座での個展に向けた制作を綴っていく。

Reviewed by
黒井 岬

突き動かされるように心血を注いで作ったものが、思わぬものと自分を出会わせてくれる。想像もしていなかった遠い場所へ、自分を連れて行ってくれる。これを生み出したのは確かに自分だが、その輪郭を更新するかのように、新たな意味を持って目の前に立ち現れることが幾度となくある。それに背中を押されるまでもなく、次へ進むけれど。