第4期(2012年8月-9月)

 
 
昨日さ、

ん?

先が細くなってる花瓶があってさ。

うん。

ちょうどなんだろ、悪い博士が緑色の液体混ぜてすごい細菌兵器みたいのを作る時に使うようなやつね。

んー。うん。

写メあるかな? ないか。どうしよ。

まあ、なんとなくわかるよ。

ほんと分かってる? 伝わってるかね?

わかるって。上が細くて、下が丸く膨らんでるやつでしょ?

そうそう、それにね水を入れていくのね。

うん。

そしたらさ……………
 
 
私たちは夏休みだというのに、特にやるべきことが思いつかず、

それでも夏がもたらす浮ついた気分は持ち合わせたまま、

ファミリーレストランの4人がけのテーブル席で話をしている。

ヒマな女子高生ふたり、晴れた日の午後。

店内は外の光を取り込んでいてとても明るい

私たちのすぐ隣の席に座っている五十代くらいの女の人は、アイスコーヒーを飲んでいて、

ぼんやりとしているようだけど、

私たちの会話をなんとなく聞いているようだった。

それでも私は、夢中でってわけでもないけど話を続ける。
 
 
そしたらさ、もちろんゆっくり水が中に溜まっていくわけじゃん。

うん。

私も溢れないように、けっこうしっかり見張ってるんだよ。

えらいじゃん。

えらいでしょ。ありがとう。でね、下の丸くなってるところは満杯になったんだよ。

うん。

それでも私は水を入れ続けるのね。

うん。

そしたらさ、先は細くなってるから、急にすごい勢いで水は溜まっていくわけ。

そりゃそうだね。

そんなこと分かってるつもりなんだけど、その勢いにやられて水、溢れちゃったんだよ。

あら。

うん。

ん? なにそれ?

いや、なにってこともないんだけど、そんなふうにして私たちの青春は儚く終わっていくのかなーって、思ったんだよ。

おー。

なんか切なくない?

んー。

あれ? ピンとこない?

いや、言いたいことは分かる…。気もする。

でしょ。

ヒマなんだね。
 
…うん。

そろそろ行く?

どこに?

とりあえず、外。

あー。そうだね。
 
 
私たちは伝票を持って立ち上がった。

隣の席のおばさんのアイスコーヒーは、

時間が経ってしまっていて、

氷が溶けて薄まってとても不味そうだ。

コースターも敷いていないので、テーブルの上に水が溜まっている。

溢れてるわけでもないのに、コップの下に水が溜まっちゃうこともあるんだなあと、

そんなことを考えて外に出た。
 
 
べつにどうってこともない晴れた日の午後。

私たちは自転車に乗って、

がんばってもいないのに、汗をかきながら夏のアスファルトの上を漕いで進む。
 
 
 
暑いアスファルトに落ちた一滴の彼女の汗は、

またたくまに蒸発して、

消えていった。