くしゃみ

第11期(2013年10月-11月)

 
 
 
はずれた
 
 
ちっこいゴミ箱の少しむこうに、丸めたティッシュが転がる
 
自分が好きで出したやつだけど
 
そりゃエッチな気分はおさまったけど、 なんかしらけた
 
きたねえからそのままにしよう
 
ほおっておこう
 
 
 
今日、タワレコにいった
 
日本のロックバンドのコーナーで
 
試聴してる髪の長い女の子がいた
 
可愛かった。 黒髪でさ、
 
遠くからわりとずっと見てたんだけどその子がね
 
なんか悲しい顔してた
 
オレそれ見てすげーエッチしたくなってたのね
 
 
そんでその子が聴き終わって帰ってったから
 
オレもおんなじの聴こうと思って 彼女の居たとこにいったけど
 
なんか、何曲かあって選ばなきゃならなかったから
 
テキトーに二番目か三番目のやつにした
 
(こーゆーとき一番上の曲はなんか違う気がするんだよ)
 
そしたら泣いてるみたいな声の男が歌ってて、
 
なにがいいんだかさっぱりわからなかった
 
 
 
あの子の名前はサユリというらしい
 
オレが勝手に決めた
 
もう会わないんだし、オレん中だけの遊びだからいいだろ
 
こんな遊びばっかりしてる、ひまだし
 
 
エスカレーターを降りる
 
エスカレーターってくるくる回りながら降りるよなあ
 
まあ階段もそうか
 
負のスパイラルみたいで格好いい
 
 
あれ、まだいるじゃん
 
 
例のあの子が、まだオレの少し前にいて
 
つむじが見えるぜ
 
あの子のつむじに下りエスカレーター取りつけて
 
どんどん降りて行ったらどこまでいけるかな
 
地下30階とかで君に会えるだろうか
 
オレ つむじんとこの匂い 好きだからさ、
 
地下までずっとたのしいだろうな
  
 
 
タワレコ出たらさ、
 
外すげー寒いのな
 
オレTシャツ着てるし バカみたいじゃん
 
 
ここでオレはくしゃみすんのね
 
すっげー気持ちいい感じの大げさなやつ
 
その音で さっきのあの子が振り返るんだ
 
でもそれは なぜかあの子にしか聞こえない魔法のくしゃみで
 
てゆーかむしろ、オレとあの子は オレとあの子の音しか聞こえなくなる
 
それで彼女にも、連れションみたいに移っちゃって
 
彼女もくしゃみするんだ
 
それで彼女の唾が地面に落ちて、
 
ちょうどその落下地点にはオレの唾が落ちてて、まざっちゃう
 
 
 
オレその時に思うんだよ
 
夏じゃなくてよかったって
 
だって夏だったら地面がフライパンみたいに熱くて,すぐに蒸発しちゃうだろ
 
彼女の唾が落ちて来たときに,もうオレのが飛んでなくなっちゃってたら
 
笑うこともできない
 
 
 
新宿駅の東南口でさ、
 
そのことを知っているのは二人だけだった
 
 
 
なんだか一人で幸せな気分になった
 
でも もちろんこんなのオレが一人で頭の中で遊んでるだけだからさ、

すっげーむなしくなった
 
でも、さっきまでの幸福感は やっかいなことにまだオレの中にいる
 
 
 
なんかおかしくなって笑けてきた
 
 
でもあれ、なんかこれけっこうマジなやつ?
 
みんながいうところの 愛してる みたいのってさ、
 
いまのオレのこの感じとは違うのかな
 
そりゃ違うか、こんなん言ったら怒られるよな
 
 
でもさ、
 
 
すげーエッチしたいけどしたくないみたいな
 
オレの感じだとそうなっちゃうんだよなあ
 
なんかわかんないけど、そーいう感じなんだよ
 
それでもいいんかな?
 
いいよな別に
 
オレ、君とエッチしたくないけどエッチしたい!って告白したほうがさ
 
オレ 君のこと愛してます!
 
なんて言うよりよっぽどちゃんと伝えられる気がするんだもん
 
 
 
オレと彼女は向かい合って
 
まざった唾を眺めている
 
会話なんていらなかった。
 
 
寒いけどさ、
 
秋なんてケチくさいこと言わずに
 
いっそ冬になっちまえばいい、いますぐ!
 
そしたら 二人の唾は凍ってさ
 
もしかしたらずっとこのままずっとここに居られるかもしんないよ
 
 
 
ああちくしょう
 
それなのにもうあの子の顔も思い出せなくなってきた
 
自分で付けたのに、名前もわからないし
 
あーもう
 
 
 
でもオレは、もう彼女のことは考えないことにした。
 
だってさ、
 
オレが彼女のこと考えてたら、
 
彼女がどっか知らないとこで くしゃみしちゃうかもしれない
 
そんで他のヤツのきたねえ唾なんかと まじったりしたら最低だ
 
 
 
 
もう寝よう 
 
 
 
今日の夕方のはなし
 
 
 
 
 
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