コッ

第11期(2013年10月-11月)

 
 
 
コーヒーに睡眠薬とかして飲んだみたいなさ
 
やったことないけど、そんな感じなんだよ
 
カーテンの中みたいな
 
君といるとずっとそんな感じがするんだよ
 
 
君はなんだか知らないけど、
 
いっつもポッケに小銭入れててさ、
 
それみっともない感じがするからやめなよ
 
と、私が言っても
 
子どもっぽいよ と言っても聞き入れてはくれない
 
そうだ、私の言うことを聞いてくれたことなんて一度もなかった
 
 
日本全国の「あたしたち付き合ってんのかなあ」を集めたら、
 
発電所いらないんじゃないかって、くだらないことを思う
 
 
 
君のこと思い出そうとするとさ、
 
顔より匂いよりまず、
 
あの小銭のジャラジャラした音を思い出すんだよ
 
 
 
木枯らしが吹いてる
 
 
冷たい風がわたしの左半身に当たり続けている
  
風のあたっているところから、
 
体温が下がるのと一緒に すこしずつ私が透明になっていくような気がする
 
子どものころからそんなふうに思っていた
 
この調子だとあと10分もすれば私は透明人間になる
 
どうにか抵抗するとすれば、なるべく風から離れるために
 
右手をピンと水平に伸ばすことくらいだろう
 
そしたら中指の先が最後まで残るな
 
 
もし、
 
路地にピアノが置いてあったらさ、
 
最後に残った中指の先で
 
どの鍵盤を打とうか
 
私は、もう私というより
 
ただの中指だ。
 
 
でも私、鍵盤のどれがドか
 
レか
 
ミか、わからない
 
 
そしたらピアノの
 
楽譜を置くあたりの
 
本当になんでもないところを
 
爪で コッ っと叩いてみよう
 
そういう音の方が、私の場合かえって個性が出るかもしれない。
 
コッ コッ コッ
 
と、リズムを取ったりして
 
 
いつのまにかすぐ隣で君が私の演奏を聴いていて
 
私は嬉しくなって
 
はしゃいだように続けます
 
ココッ コッ コッ
 
そうしているうちに私の指も 冷めきって
 
私はかんぜんに透明人間になった
 
透明人間になるだけならまだしも、
 
ッ ッ ッ
 
鳴らしても鳴らしても何も鳴らない
 
 
私、いなくなったんだって
 
 
そこで初めて気がつきました
 
 
そういえば
 
目なんかもとっくになかったわけで、
 
なぜ隣にいるのが君だとわかったんだっけ
 
コッ コッ コッ コッ
 
いま聴こえてきたこのリズムは、
 
誰のものだろう。
 
君のだったらいいなと、心から思った
 
私の真似してくれてたらさ
 
もしそうならもう他になにもいりません
 
 
よく聴くと、
 
コッ コッ コッ コッ
 
の合間に、
 
ジャラジャラと小銭の音がするような
 
そんな気がした
 
私は嬉しくて泣き出してしまいそう
 
といっても、
 
目がとっくに無いのと同じで
 
耳もないじゃないか
 
 
私はいないんだよ
 
 
いないのに心はこうしてここにあって
 
 
音のひとつも立てられないけど、
 
 
騒がしいくらいに君を
 
 
おもっていますよコッコッコッ
 
 
 
 
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