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2F/当番ノート

お直しカフェ-お直しをする人の溜り場をつくる試み (8)じてんしゃ雑貨店千輪店主、長谷川勝之

当番ノート 第35期

こんにちは!今日は新宿ルミネのカフェバイザシーから。ここもは、某カフェカンパニーさんによって運営されている、ある意味東京のお手本的カフェをチェーン化したお店。まだ、夕方だというのに、ターゲットそのままだろう20~30代女子(OLではなさそう)が集まってきている。すごい。カフェカンパニーの系列店はどこもいわゆるカフェ飯も充実していて、(いわゆる男性に比べ)経済感覚のすぐれた女子が、(経費でなく)自腹で友達と時間を過ごすのに持ってこいである。駅中ないしは駅近のお店、ご飯とドリンク1500円で1.5時間から2時間、近況報告などをしあうそれ。

毎回締め切り直前になって、最寄り駅や会社、取引先の近くに駆け込む私も悪いが、チェーンのお店とお直しの相性の悪さったらない・・・。プロのインテリアデザイナーに発注された施工された店内、グラフィックデザイナーの作ったメニュー表やPOP、年間を通じてブレなく継続的に提供できるメニューなどに囲まれていると、いかにもサービスを購入している気になるし、そこに自分の関与の余地はなく、来店してあげる、消費してあげる、ありがたいだろうという気にならないでもない。店員さんに対しても、自分が想定しうる行動だけに従事してくればいいなという、そこにいてもいなくてもいい人だなという気持ちになる、というか気持ちすら湧かず無関心の状態。ただ、赤ちゃんとか、彼らにとっての異分子が来店すると話はまた別。途端に人間らしいおどけ顔や笑顔のアドリブが飛び出すから、赤ちゃんや子どもはやっぱりすごいし社会の宝感ある(ちょうど今、ものすごいかわいいとんがり帽子をかぶった赤ちゃんが横に来た嬉しい)

さて今回は、そういうチェーン店のあれこれとは一線を介した、すみだの町の自転車屋さん(正確には、じてんしゃ雑貨店)千輪さんの店主の言葉を紹介したい。千輪さんは、自転車を売らない自転車屋さん(正確には、じてんしゃ雑貨店)で以下は、千輪さんのHPからの抜粋。

「千輪は自転車を新しく買うのではなく、お持ちの自転車を永く大切に乗って頂けるように お手伝いしたいと考えています。 自転車の寿命は、修理(なお)せなくなるまで。 今まで何気なく乗っていた自転車に お気に入りの可愛い小物を一つ取り付けて見ませんか? 不思議と愛着が、湧いてきます」

自分の住む街に千輪さんがいてよかったなと、自転車で困ったことがあるたびに思う。千輪さんの自転車お直しについて、それではどうぞ!

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(話し手:千輪店主 長谷川勝之さん、編集:筆者)

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これは今何をしているかというと、ある女性からのオーダーで、彼氏に誕生日のプレゼント何がいいかと聞いたら「千輪さんで自転車を綺麗にしてほしい」と。オーバーホールという、いわゆる自転車を全部分解して洗浄してさびを落として、油とかグリスを塗ってピカピカにして最後組み立てるというのをやっています。こういうのはプロショップ、いわゆるプロ向けのお店ではやるけど、街の自転車屋さんはやらないかな。ありがたいお仕事ですね。まさか、お誕生日にお掃除とは、新車を買うのではなくて。おしゃれな自転車だし、自転車がお好きな方だと思います。

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前の大手自転車屋さんに入って、12年間いました。最初は本当に自転車好きが集まっていた会社だと思うんですけど、東証1部上場したりして自転車屋というよりは企業みたいに。自転車が好きでというよりは、働きに来ているというか人が増えてきた。後輩とか見てると自転車そんな好きじゃないとか、そうかさびしいなあと。16年とか前に入った頃はまだ東京に3店舗とかしかない頃で。その前の会社は全然違う会社だったんですけど、3ヶ月で辞めて、やっぱり自転車が好きだから自転車の会社で働こうと思って。大学が大阪だったので、大阪で大きい自転車屋さんだった前の会社に就職して、東京に飛ばされて、最初の配属が多磨ニュータウンのお店。ニュータウンだからすげー人来るんですよ。自転車ってこんなに売れるの、って。1日に80台とか、下手したら100台とか売ってた。土日とか1日15人とか販売員がいて、まぁ大変でしたね。こんなに自転車は売れるんだなと思って、自転車好きだから楽しいなと思っていましたけどね。そんな日が続きました。

学生の頃の自転車は、乗ってたっていってもホームセンターで買った9,800円のママチャリ。きっかけは、大学の友達に滋賀の子がいて、琵琶湖1周しようって。自分は(大阪の)枚方に住んでるからまず山を越えて京都通って滋賀まで行って、そこからさらに琵琶湖1周で200キロぐらい走った。でも琵琶湖の1番上、1番北に行った時に(道路標識に)金沢200キロって書いてて、俺実家石川で「あ、200キロか、もうちょっと頑張ったらいけるじゃん」って。その夏、お金ないし帰省しなきゃいけないから、じゃあ自転車で帰ろうって。大阪から15時間位で行けたのよね、当時は若くて体力も有り余ってたので、今では信じられないんだけど。早朝3時位から走り続けて夜にはついてたので、15時間ぐらいかな。そこから自転車ってすごいなって思った。9,800円で買った自転車だけどこいつ結構走るな。そこから自転車好きなんだなって。自転車すごいな、楽しいなって。こげばいろんな景色見れるし。じゃあ今度は友達がいるから千葉まで行ってみようとか、それも行けたし、そういうことやってたからシティーサイクルとかママチャリでも、これだけ走れるんだってわかってる。9800円の自転車でも走れるんだって。

特に前の会社は、ママチャリ(の取り扱い)が多いから最高だろうと。スポーツバイクは会社に入るまでは何もわからなかったので、ここでの仕事は俺には合ってるだろうと思って入った。転機となったのは、2010年。大学で中国語を勉強して留学もしてたので、せっかくだからそれを生かしたいなと。会社が中国に進出すると小耳に挟んだので、社長に行きますと言って申し込んでたら、実現して2010年に中国出展するというときの立ち上げ要員で、2010年から3年ぐらい、北京の店舗に配属になった。で、中国には工場もあるので、工場も見て、工場の人たちともやりとりして、管理とか品質管理が悪い場合はちょっと中国語で交渉に行ったりとか。実際、工場を見ていくと自転車ってやっぱすごいパーツがあって、たくさんの人が手作業で組み立てを行っている。それをやっぱり見て、うん、自転車1台作るのすごい大変だなと感じることがあった。

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中国現地で当時は本当にまだ格差があって、お金持っている人はいっぱい持ってるけど普通の人はない。ママチャリもやっぱり高い。特に自社で売ってるものは、日本向けの商品だから現地の普通向けの商品よりは高い。それをでも、わざわざ買いに来て下さるお客様がいらっしゃって、盗難とか怖いから、すごいがっちりした鍵を一緒に買ってくれた。こんなの日本につけてる人いないよっていうぐらい、バイクとかに使うような、絶対切れないだろうなっていうようなのを一緒に買っていく。自転車の3分の1位の値段がする鍵を買っていくのよね。そういうのを見て、中国からたまに日本に戻ってたときに日本の状況見ると、まぁ日本の現状と中国の差がありすぎて。日本は当時、放置自転車が放置自転車がピークで。(今はだいぶ減ったんですこれでも。自治体も頑張って駐輪場を増やしたりとか)他の人は意識しないと気づけないけど、(自分は自転車の製造から販売まで)色んな側面を見て、自転車が好きで会社に入って自転車売ってたけど、なんかできないかな。自転車かわいそうだなと。
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ちなみに、自転車の工場というのはほぼ中国にあります。自転車はほぼ中国製です。もともと台湾が有名で、台湾よりもさらに大陸の方が安いからと中国大陸になった。日本のブランドの自転車も、ヨーロッパのブランドの自転車もほぼ中国製です。特に安いラインは。あまり話すとイメージが壊れるので架空の話ですが。例えば、大きな工場があってそこがOEM的に日本のブランドのもヨーロッパのブランドの両方作ってるような、もしかしたら工場は一緒かもしれない。
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もともと、そんなに修理をするつもりはなかった。じてんしゃ雑貨店という名前で、自転車の小物を扱うお店としてやっている。日本の自転車屋さんのイメージって、大体自転車本体があって、あと補修の例えばスタンドとかハンドルとかサドルとか、壊れたら取り換えるものがありますよね。でもそういうものって、シルバーとか黒とか色がない。つまらないから、それじゃあ自転車ってほんとに乗れればいい的な感じにしかならない。でも自分は、自転車がほんとに好きだったから、昔からかわいいものとかあれば調べて買いに行ったりするほどだった。普通の人はなかなかこういうものに触れられないから、自転車のかわいいもの、自転車屋さんにはないものを集めて、まさに雑貨屋さんっぽい感じにしたいなと思って。
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そういうのお店にしたらそもそも自分が楽しいしのと、どちらかと言うと自転車に興味がない人来て欲しい。自転車マニアじゃなくて。自転車って男性が乗るイメージがやっぱり強い。速い自転車とか、変速機がどうとか、こっちは完全に趣味の世界で、また何かジャンルが違う。スポーツバイクに乗る人は、基本自転車が好きだから、大体の人が大切にしますよね。けど、そこまで自転車に対して執着がない、乗れれば良いやという人たちに向けてお店をやっている。千輪(チリン)という名前もそうだけど、ベルひとつ自分のお気に入りをつけるだけで、だいぶ気持ちが変わって、その自転車に対して愛着が湧くことを伝えたい。自転車は大量生産になってから本当にベルがちゃちんですよ。鳴ればいいだけのような、耐久性もなく、デザインもシルバーとか全く可愛げのないそれをつけてるだけ。それが壊れちゃった時に、「あーこんなかわいいベルがあるんだね」ってつけてもらえたら、それでちょっと変わるかなって。
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引っ越してからも来てくれる方多いですね、わざわざ。この黄色い自転車は、元々この辺に住んでいて今は蔵前に引っ越されたお客さまのもの。実はだいぶ痛みがあって、タイヤ、サドル、ハンドルのグリップとか結構パーツを変えるから、(自転車ごと)買い替えようか迷ったけど、迷ったけど千輪に来ましたって。ありがとうございます。計算せずにお客さんは注文していったんですけど、15,000円位かな。たぶん、お客さんにまだ伝えてないんですけど、費用は20,000とか30,000とかかかると思ってると思います。だから買い換えると迷ってたっていう、毎回のパターンで、そんな値段でいいんですかって。
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買った方が安いっていうのを変えたくて安くしてます。ショップとかで方頼むと、これだと30,000コースかな。でも僕が考えてるのは、お店の考え方で、まず値段を設定するときに自転車を買わなくてもよかった金額。僕がいつも考えてるのは、いかに自転車を買い替えずに修理してカスタムして満足してもらえるか、そこに焦点を当てているので、値段はたぶん、うん、お値段以上、ニトリじゃないけど。

千輪は他のお店とあまり比べられないけど、とりあえず安くしたいので、例えば僕の店は自転車を売ってないので在庫のコストがない。あと、場所もここを選んだのも、店舗の家賃を安く、固定費をどれだけ抑えられるか。長く続けられるか。家族もいるし、いつも必死ですよね。
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最初は雑貨屋さんだったんで、もっとすっきりしてたんだけど、(依頼が)増えてったのと、やっぱり修理しないとなって。当初は、ちょっとブレーキ直してとかその程度をやるつもりだったのに、だんだん本格化してった。一番最初のお客さんが印象的で、マウンテンバイクのたぶん30万円ぐらいのがいきなりやってきて、「うわぁすげー、確かにこういうの直すところこの辺にないよな」って。そういうのも受けてると、だんだんあそこは、これもやってくれるあれもやってくれるって。この辺はスポーツバイクを直すお店もないし、レトロな自転車とか普通のお店は嫌がるので。めんどくさいし部品もないし。僕の場合は、最悪ヤフオクとか探してなんとかする。直せるものは直す、ってやってったらこんな感じになってった。
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やっぱり直してる姿を見てもらいたいんですよね、特に今の子供たちに。「あ、タイヤが外れてるー」とか、それこそハンドルがはずれてる状態とか見ることがないと思うので、そういうのを見てもらって、自転車って直すんだなって、そういうのを目にしてもらいたい。

僕は修理専門店にはなりたくない。なりたいのはやっぱり修理するだけじゃなくて、修理してプラス愛着を持ってもらう店にしたい。「修理してよかった、直った!」だけじゃなくて、そこからまた、「自転車せっかく直ったし、ちょっと可愛くしてこうかな」とか、まさに雑貨屋さんで(雑貨を)買ったときの高揚する気持ちを自転車にも見つけてくれたらな、とか。いつか自転車が使い捨てじゃなくなったときに、自転車屋さんをやりたいなと思っています。また自転車を売りたいなと思ったら、ね。

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おまけ
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『この自転車は(お客さんが)いらないやつとか引き取ってる訳です。「乗らなくなったから」「でも乗れますね、引き取ります」って。「じゃあレンタサイクルとか、代車とかで使います」ってやってると増えてった。』今は、里親制度と称して、カフェやゲストハウスに長期の貸し出しも行っているそう。詳しくは、下記チリンさんのブログまで!

【千輪で保護している自転車たちをレンタサイクルとして走らせてくれる 里親(ゲストハウスやカフェなど)を募集】

はしもと さゆり

はしもと さゆり

お直しデザイナー。企画と広報、ときどきカフェ店員。落ちているものとお直し、マッサージとマイケルジャクソンが好き。

Reviewed by
キタムラ レオナ

自転車ほど、ただの移動手段か自分の相棒か、はっきり分かれる乗り物は無いかもしれない。

"乗れればいい"という状態から、どのように"愛着のある"自転車へ変わっていくのか。

それを手助けするお店が、じてんしゃ雑貨店千輪(チリン)だ。

どのような経験を経て、「自転車を売らない自転車屋さん」を立ち上げようと思ったのか?

そして、お客さんが、買い替えるよりも修理を選ぶような修理価格をどうやって実現しているのか?

子どもたちに、直す姿を見て、自転車は直すものだということを知ってほしいという、
これまでのお直しの連載を振り返りたくなるような長谷川さんの話。

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