ネイルをしても、不完全なのがいやだった

第40期(2018年8月-9月)

「今回はどうしますか?」
ネイリストさんの問いに「最近、緑系が気になっててー、でも紫もいいなとか」なんて答える。
こちらを見て頷いた後、ネイリストさんは真剣な眼差しでわたしの手元を見て、前回のわたしのネイルを落とし始めた。

ネイルサロンは「本当に移り気だね」なんて言われないところがいい。
美容院では、やってみたい髪型がコロコロ変わるわたしに、担当さんが毎回呆れて笑う。

そんなことを思っているうちにわたしの前回のネイルはすっかり落ちて、なにやら細かくケアをしてくれている。
「雑誌も見ますか?いつもの赤もいいけど、今年の秋はマスタードが流行ってるんですよね」

ネイルサロンはお金がかかるし、ずっと今までマニキュアやセルフジェルネイルでせっせと爪に色を乗せていた。
最初はベーシックできれいなピンクベージュが多かったけれど、どうもしっくりこない。
やがて、赤寄りの紫や、赤を塗るようになった。

はっきりとした色は、ベージュ系のように肌になじむ色より、塗りムラや欠けた部分が目立つ。
きれいに維持するのは難しかった。
トップコートを塗ったり、工夫もしてみたけれど、どうしても生活の中で崩れてしまう。
塗った時は完璧だった美しい赤は、些細なことで、むしろわたしのストレスになるのだった。

そんなときに、以前に一度だけ行ったことのあるサロンを思い出した。
最初は、プロの手で完璧に美しい赤を塗ってもらいたくて、赤にしてもらった。
艶やかな仕上がりと、お風呂に入っても何をしても欠けたりしない美しさにうっとりした。

自分の中に、完璧なものが欲しかった。

わたしは気分がコロコロ変わるし、明日何をしているか自分でもわからない。
自分が嫌いだ、と手元を見つめることがあっても、美しい爪が目に入れば気分も多少マシかもしれない。
だから、ネイルサロンに通うようになった。

「前は赤以外考えられないって言ってましたよね、ずいぶん色々な色塗りましたね」
ネイリストさんが言う。
気づけば、お店に入ってきた時にわたしが話していた色と全く違うブラウン系のネイルアートをしてもらっていた。
変わりやすいわたしは、美容院だろうがネイルサロンだろうが、いつまでたってもそのままなのだった。

不完全なのがいやだった。
不完全な自分がいやだった。
だからいつも北極星みたいな、変わらない何かを探しているのに。

「ありがとうございました!またお待ちしてますね」
それでもネイルサロンの帰り、浮き足立って爪を眺める。

変わりたがりなところが変えられない。
それは不完全なのかもしれないけれど、わたしにとっての完全でもあるのかもしれない。

早くも次回のネイルはどうしようかと考える、能天気な生き方も、悪くない。
imcomplete
(BGM:Perfect/Ed Sheeran)