裏山をのぼる

第42期(2018年12月-2019年1月)

「日本人とはなしてるはずなのに、外国人の観光客とはなしてるみたいだよ~~!」

…また言われてしまった。今朝、家の近くにある鮮魚市場で食べた海鮮丼のぷりっぷりのいくら(噛みごたえと甘み!)について力説していたら、コーヒー屋のオーナーに笑われてしまった。まだまだこの町の住民感が足りないらしい。。

 ここ一か月くらい、ずっとこの町にいる。ずっとといっても仕事がある日は片道1時間くらいかけて都心へ通う日々だ。仕事の後に飲んでいて、23時前くらいには「やばい、終電がっ!」と焦りだす私を仲間たちは笑う。「不便じゃないの?もっと近くに住めばいいじゃん。」と言われれば、確かにそうかもとおもう。だって、そんな遠くに住む理由はない。でも、ここに住みたいと思っちゃったんだよなあ。。

 何も知らずに引っ越してきたこの町も、住んでいるとだんだん様子が分かってくる。私の家から歩いて3分のところには、自然公園があった。その自然公園は公園というよりかは山というかんじで、結構ワイルドな道なみ。先日、友達とその山に登ることになった。木の匂い、山の風。気持ちいいね~とのんびり言っていられたのははじめだけ。すぐに汗をかきはじめ、ヒーヒー言いながら登りきった。山頂のちょっとした公園で昼寝をしたあとに、さあ帰ろうと選んだ道は、細いくねくね曲がり道。歩き幅しかないその細道は、曲がり角のせいで先が見えず、左右は背の高い木に囲まれている。あれ、もしかしてこの先にトンネルがある?と思ってしまうその感じは、まさに「千と千尋の神隠し」オープニングの、あのワクワクとちょっとの不安への道!そして私たちはその道の先にトンネルではなく、オレンジ色の灯りをともした雰囲気のあるお屋敷を発見してしまう。入り口にはメニュー表。ウズラ一羽760円、スズメ二羽900円。不思議なメニューが並ぶ。せっかくだからとなかで働いているお母さんに声をかけてみたものの「予約の人しか入れないのよ~。ほら、予約してくれた分だけ鳥を仕入れるから。」と断られる。お母さんが予約の人数分の野鳥をハンティングしている様子が脳裏に浮かぶ。もしくは野鳥の養殖なるものがあるのか?野鳥保護法ってあったよね…違法?いろいろと疑問は浮かぶものの、また、ここに戻ってくることを決心したのであった。

 後日、予約を入れてその野鳥屋さんに向かうことに。本当に到着できるのだろうか、もしかしたらジブリ映画みたいに幻だったのかも。。。なんて思いながら、汗をかきかき山を登ったその先に、私たちは再びその店をみつけることができた。店に入ると料亭さながらの広い玄関。創業90年だという木造づくりのその店の大きな窓からは隙間風がピューピューと入ってきた。案内されて囲炉裏の前に座ると、過去にタイムトリップしたような安心感。極めつけは働いているお母ちゃんたちだ。70歳くらいだと思われるその店の店員さんたちは、絶対にオーディションで選んでるでしょと思ってしまうくらい、昔ながらのよきお母ちゃんタイプキャストばっかり。「頭が痛いときにも、この場所にくるとスッと元気になっちゃうのよね。」煮物を持ってきてくれたお母ちゃんがいう。そういう場所なのだ。たらふく飲んで食べてすっかり気持ちよくなった私を、ふと、友人が呼ぶ。壁に飾ってある映画のフィルムを発見したらしい。それは、千と千尋の最初のドライブシーンのフィルム。背景にこの店の名前が映っていた。

 店を出るとすっかり真っ暗に。お母ちゃんは「星をみながら歩けば大丈夫よ」と懐中電灯も持たずに出発する私たちを見送った。木々の中に入っていくその一歩目からあまりの暗さに怖気づく私たちを、後ろから呼ぶ声。同じく野鳥屋さんで食事をしていたハイキンググループ(全員ヘッドライト装備済み)が、下まで一緒に歩いてくれることになった。細い道を一列にならんで歩くのは、小学校の集団登校以来だ。あたりは真っ暗だけど、歩くべき道筋はヘッドライトで照らされている。夜の山中、頭上には星。ああ、この町に引っ越してきてよかったなとおもう。

 予約をして山を登らないと食事ができないなんて、便利か不便でいったら、とても不便。30分歩かないと辿り着かないコーヒー屋や、友達に会うために1時間電車に乗らなきゃいけないことも、不便。でもなぜだろう、不便であることがうれしい。不便だけどやりたいことは、本当にやりたいことだから。

旅人生活は出会いを軽やかに受け入れる軽さを教えてくれたけど、この町の生活は何かをするための重さを教えてくれているのかもしれない。

時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。ミヒャエル・エンデ 「モモ」

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過ぎていく時間を慈しむ喜び。

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