はじめての帰宅

第42期(2018年12月-2019年1月)

二か月ぶりに日本に帰国すると、あたりは秋になっていた。

パリコレで踊って世界のスーパーモデル達のスーパースタイルに唖然としたり、オランジュリー美術館のモネの絵の前で踊るという長年の夢が叶ったり、スイスのアルプスの山で霧の世界をみたり、イタリアでハチャメチャにおいしいローストビーフを食べたり、とにかくド派手なツアーライフからの帰国。ツアーから帰国して自分の部屋に帰るのはこれが初めてだ。わちゃわちゃとまだ騒がしい旅の思い出がからだから溢れすぎないように、東京らしくして電車に乗っている。

この部屋に引っ越してきたのは、二か月前の八月中旬だった。

数年間旅人ライフをしていた私が、久々に手に入れた、“自分の部屋”。スーツケースひとつをもって“自分の部屋”にやってきた日のよそよそしさといったらない。どこに座っていいいかすらわからなかった。引っ越しの数日後にはツアーに出かけなければならず、出発のために荷物をスーツケースに詰めなおした。私の生活必需品たちは、部屋に散らばっているときよりも、スーツケースの中のいつもの場所に収まっているときの方が安心しているように見えた。

そして私はいま、二か月の時を超えて、自分の部屋に帰ってきたのだ。正直、びびっている。蜘蛛の巣がめちゃくちゃ張っていたらやだな。ゴキブリの死骸だらけになっていたら?変な生き物が住んでいたらどうしよう~!おそる、おそる、ドアを開ける。。ただいまー。。ありゃ?気が抜けるほど普通。いや、むしろ、なんかいい感じ。家主さんに、気が向いたら部屋の換気をしてください、と頼んでいたのがよかったのだろうか?よかった。蜘蛛の巣も、ゴキブリも、変な生き物もいない。スーツケースを開き、服はクローゼットへ、本は本棚へ、ツアーライフの戦友たちをそれぞれの場所へ設置する。オランダで買ったマグカップも無事だった。この部屋にやってきたはじめての食器だ。家主さんに電話をすると「女性の部屋に一人で入るのも気がひけたから、孫についてきてもらって二回だけ換気しといたよー。」とのこと。やさしい。溜まっていた洗濯物を干すとき、その洗濯物を正座してたたむとき、近所のスーパーで調理しなければ食べられない食材を購入するとき、ビールを片手に料理をしているとき、部屋の隅にたまったほこりをとるとき、自分の部屋最高―――――――!!!生活最高―――――――!!と叫ぶ。ツアー生活中はその全てを誰かがやってくれちゃうもんだから、自分でできることが楽しくてしかたない。

 翌朝、朝焼けでもみにいこうと近所の川へ向かった。家から歩いて3分。ぼんやりとピンク色に染まった空の下を、早朝ランナーが走っている。空の色がこんなにも一瞬ごとに変わっていくことが、その光が川に反射してキラキラと輝くことが、真っ暗な街が東の方から少しずつ光に包まれていくことが、そのすべてが心地よい。道の向こうから、おばあちゃん二人おじいちゃん一人のお散歩チームがやってくる。「おはようございます」と声をかけると「おはようございます。もうすぐ太陽が出ますよ」と言ってくれたので、三人と一緒に太陽が上がるのをまつことにした。小さい太陽の粒がピンクの空からあらわれたその瞬間、不覚にもちょっとうるうるきてしまった。うるうるきている私の隣で「今日の朝焼けは地味ね~」と言い放つおばあちゃん。クールだ。「最近引っ越してきたんですけど、こんなにきれいな朝焼けがある場所だとはしりませんでした・・・」という私に、「人生の楽しみがふえたわね。もうすこししたら白鷲もやってくるのよ。」と言ってくれた。あがりかけの太陽に向かって、また歩き出す三人。日課の朝焼け散歩、毎年秋にやってくる白鷲。たしかに、待っていれば美しいものが必ずくると知っていることは、人生を豊かにするよなあ。

世界中を旅して新しい景色や人に出会うことは驚きの連続で、自分がその瞬間に生きていることや瞬間が奇跡の連続であることを意識させてくれるけど、昇る太陽のように、時間が過ぎていくのをただその場所でみつめて待つ喜びもある。

この町で、私も、日常を手にいれることができるだろうか。いまはキラキラと輝いて見えすぎる美しい瞬間たちが、あたりまえの日常になるのだろうか。

いまふとおもったのだけど、私はお花を部屋に飾るのが大好きで、それは花が咲くまでの待つ時間を私に与えてくれるからかもしれないな。

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