7, アンジェラ

第46期

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7回目の投稿です。「トルコで出会った女性たち」シリーズ第7弾です。トルコで出会った印象的な女性たちとそれにまつわる私の記憶を書いています。1回目の投稿「ハティジェ」の冒頭にてこのシリーズの説明を詳しく書いておりますので、一体何について書かれているのか混乱された方はどうぞそちらをご確認ください。
 
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 前回までの概要:私は大学卒業後、バックパッカー、ホテルボランティア、旅行会社を経て、夏はトルコのクシャダスという街で、冬はサーカスにてショーダンサーとして活動するに至った。
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 アンジェラは泣きながら私に訴える。「彼がどうしてまともに話してくれないのかわからない。」と。「私は彼のために来たのに。」と。

 ここで言う彼とは、サーカスのアーティストマネージャーのことで、何故彼がまともに話してくれないのかというと、彼には新しい彼女がいて、今、まさにそのパーティーにその彼女も同席しているからである。アンジェラは普段はモスクワにいて、呼ばれてもいないのに勝手に彼の元へとトルコへやってくる。共通の友達が多いのと彼女は今やセレブなので高級ホテルに泊まれるから勝手に来てもなんら支障はない。アンジェラはウクライナ出身で、現在モスクワのガス会社でマネージャーとして双子の妹(姉かもしれない)と一緒に働いている。会社の社長が買ってくれた一軒家に姉妹は住み、一応会社のマネージャーとして働き、たくさんのバラの花束と共に写真を撮り、しょっちゅうどこかへ旅行している。何故、そのような境遇に行き着いたのかといえば、双子で娼婦でもあったからなのである。彼女たちは、ポルノモデルでもあり、複数のポルノ映像作品にも出演している。今はガス会社の社長のお抱え娼婦とでも言えるのであろうか。
 
 もともとは彼女たち双子は、ウクライナのオリンピック代表等ナショナルチームにも選ばれるようなかなりプロフェッショナルな新体操競技者であり、競技引退後もサーカスアーティストとして2人で一緒に世界各地を回っていた。トルコサーカスでも働いた際に、そのマネージャーと出会って交際が始まった。彼らの交際は3年くらいは順調であった。トルコサーカスでの契約が終わってからも、アンジェラは彼の元へ他の国での仕事の合間に訪れ、ビザなしの滞在期間3ヶ月を過ぎれば一旦国に帰り、双子の片割れのパスポートと交換して再びトルコに入ってくるという荒技も使っていた。その頃にはもうアンジェラは双子で娼婦活動もしていて、彼氏もその事実は承知しており、アンジェラも自分がそのような職業柄なので彼にも他の女性と身体だけの関係は容認していた。つまり、彼らの交際は身体の結びつきではなく心の結びつきを重視していた、という感じだろうか。

 そのアーティストマネージャーもウクライナ出身で、長身でスタイルは悪くないが、少し禿げ散らかってきているし(別に禿げるのは悪いことではないが、事実を受け止めせめてこまめに小綺麗にして欲しい。)自分もアーティストとして働くくせにお腹もたるんきているし、少しふっくらしたかと思えば痩せてしまったので30代もまだ前半なのになんだか顔はたるんでいる。アーティストマネージャーとここでは分かりやすくなるだろうと思いそう書いたが、実際はただの器用貧乏で、ジャグリングや一輪車、ラダーでのバランスから大道具の溶接までこなし、トルコ語もできるのでアーティストと経営陣の橋渡し、サイコパスで常識にとらわれないため、ハプニング時に見事切り抜けるなど、トルコでのショービジネスにとって大変便利な人材なため、トルコサーカスはこの男を良い給料で飼いならし、この男もまた寄生虫のように社長に取り入り、アーティストがトルコ語を話せないことをいいことに社長に好き勝手刷り込み自分の気に入らないアーティストを飛ばすように仕向けたりするなど下衆い男なのだ。アンジェラが他の国での仕事のためにいないときは余裕で他の女性に手を出し、挙げ句の果てにはまだ身体だけの関係が存在することを知らない若い子にまで手を出すので、私は彼のために泣く女の子たちをたくさん見てきた。

 そんな性に奔放な彼らの交際3年目か4年目くらいのある日、彼氏であるそのマネージャーはポルノサイトでアンジェラたち双子を見つけてしまう。(ちなみに彼はドン引きするくらいポルノを見ている。)彼は、アンジェラが娼婦であることは知っていたが、ポルノ女優デビューしたことは知らされていなかったらしいのだ。彼の愛もぶっ壊れているので私には理解しがたいのであるが、散々他の女と遊んでいる彼もこれには気が滅入ってしまったらしい。彼の説明によれば、吐くほど精神を病んで精神科にまでお世話になったという。(大げさに話す癖があるので本当かどうかは定かではない。)そして自分一人では背負いきれなかったようで、サーカスの社長とトルコ人スタッフに(彼らは友達のように仲が良い)それを見せてしまったのである。当然のごとく、娯楽の少ないサーカス生活でこのゴシップはサーカス中を駆け巡り、そして現地アーティストを介しクシャダス中を駆け巡った。アンジェラが来るたび、新しいアーティスト、スタッフへその事実は告げられ、見せびらかせる始末だ。その頃から彼はアンジェラにははっきりさよならとは言わないものの、他の女性を1番におくようになり、アンジェラも彼の元へ行くたびに彼の心が遠のいてくのを感じてしまうようになったのだ。

 それでも彼女は他の女性陣に彼には私という存在があることを知らしめたいかのように事あるごとに彼を訪ねていた。

 アンジェラは私の知る限り、真面目でとても優しい。ショーではどんなポジションでも真面目に自分の役割をこなすし、元気にエネルギッシュに働く。体重管理はおそらく幼い頃からの厳しい競技生活からの強迫観念もあり、食べてはトイレで吐いているらしい。美味しいものを食べては、太ってはいけないのでトイレに行って自分でベロを押して吐き出すのだそうだ。(これはあくまでも私の当時のボス、アーニャからの情報。)私は実際彼女が食後どうしているのか見たことがないのでなんとも言えないが、飲酒も喫煙もしないのに肌は荒れ、髪の毛も肩以上に伸びずツヤがないことからやはり栄養面で何か欠乏しているようにも思える。体型は細く、小さく子供のようで、あまり大人の女性としての魅力は感じない。私にはもう一人娼婦の知人がいるが、その知人と比べるとアンジェラは振る舞いから話し方からあまりにも純粋すぎる。なんというか本当に子供のように純粋無垢で、少年のように夢中になって話し、キラキラしている。それでいて家庭的で彼のために料理もするし、掃除もするし、彼の代わりに仕事のメールの返信もするようなとにかく彼に尽くす子なのだ。また、彼に好意を抱いてるような他の女の子にも寛大に接したりするから驚きだ。経験のうちに敵は近くに置いておけと知ってるのかもしれないが、実際には嫉妬心のようなものはそう簡単に処理することはできない。(ちなみに私は牽制するタイプ。)自分に自信があるのかもしれないが、もし何か無理しているのだとしたら、一人の友人として心苦しい。

 私と話すときも、覚えた片言のトルコ語や英語で一生懸命伝えようとするし、私が膝を痛めて捻ったのか水が溜まっているのか知りたくて(トルコで病院行く前に少し確認したかったため。)フェイスブックにちらっと写真を載せたら、すぐにメッセージで対処法やどんな薬が効くのかをすぐ送ってくれ、しかもトルコでその薬があるかわからないから自分がロシアで買って送るから住所を教えてくれとまで言い出すのだ。そこまでさすがにしなくて良かったので、大丈夫ありがとうと断ったが、なんというか、他人のために何か奉仕ができる子なのだ。知り合いのアーティストを中国のショーエージェンシーに紹介して仕事を彼らにあげたりと面倒見が良い。やはり、世界トップレベルとして頑張った経験のある人物なだけありいろいろ器のでかさが違う。

 そんな純粋でアツい彼女は娼婦なんてできる性格ではないのではないか、と私は心配している。娼婦という職業を悪く言うつもりは全くない。というか、むしろ男性中心の社会が形成されてからの歴史で初めて男性と同等なくらい稼いだ女性の職業は娼婦であったように思っているし、敬意を抱いているほどである。そもそもショービジネスに身を置く身としてはその職業を営む女性がいてくれなかったら今の自分の職業はなかったであろうとさえ感ぜられるので、感謝もしている。しかしながら、この職業ができるできないには本当に才能というか、特殊な感覚が必要であるというか、さもなければ精神崩壊を招いてしまうようなかなり際どい職業であるようにも感ぜられるのである。時には薬物などを打ち込まれてマフィアに利用されている女性もいるのかもしれないが、自らこの職業を選択できる人はそう多くはないと思う。アンジェラはアーティストなので、与えられた役割になりきり、自分は女豹なのだと思い込みそのような仕事をしているだけで本人も気づいていないところで彼女は無理をしているのではなかろうか。アンジェラは私は1人じゃ何もできない、と、双子揃って初めて完全なる演技ができると考えており、双子の片割れのことがものすごく好きなため、その片割れがバリバリ稼ぎたかったがためにアンジェラも従ってしまったのかもしれない。そもそも、柔軟な身体を持つ双子にセックスシンボルを押し付けて売り物に仕立て上げてしまった世界が悲しい。

 アンジェラはしばしば癇癪を起こす。ヒステリックに叫び、彼氏であるマネージャーと激しく言い争うのだ。情緒が不安定で、何か日頃から押し殺した気持ちがあるのではないか、と、そう思ってしまう。他人の気持ちがわかる分、空気が読める分、そして自分の気持ちを押さえつけてまで他人の要求を叶えられてしまう分、彼女はふとした瞬間にコントロール不能になるくらいヒステリーが爆発してしまうのではないだろうか。はたまた割りの良い仕事で、仕事は仕事、と自分の気持ちは無視して働いてしまっていて、一体自分が何を望むのか迷子になり見栄だけ張ってしまっているのではなかろうか。彼女はそこまで自分の気持ちと対話できていないかもしれないが、彼女が本当に欲しいものは、お金でもなく、豪華な生活でもなく、ただただ愛する人にご飯を作り、愛する人の服を洗濯し、干し、たたみ、愛する人の安らぎの場を掃除し、一緒にご飯を食べ、旅行に行き、、、などと行ったごくごく平凡な生活なのかもしれない。

 私は、泣きながら訴える彼女に、もし心が痛いなら、それは正解じゃない、というようなことを片言のロシア語で言った気がする。今のアンジェラは色眼鏡で彼を見ている、と。よく見てみろ奴は禿げ散らかっていて、腹もたるんでいて、いつも新しい女に乗り換えて、最低じゃないか、と。なんでもできるように見えるがハッタリが多くて、あいつの作った大道具はすぐ壊れるゴミじゃないか、と。散々ディスってそのときはアンジェラもそうだね、そうだね、私には夫がいるわ。と言った。(夫いるのかよ!!と心の中で突っ込んだが、多分それはガス会社の社長のことで、正式な夫ではないと思う。)まあ、彼氏の精神をアンジェラが壊してしまったことも事実ではあるのだが、もうこの2人はくっついていてもお互いによくなさそうなので、とりあえずアンジェラに彼のことを諦めるように促すしかなかったのである。

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 その後その2人がくっついているような様子は見受けられませんが、フェイスブックではアンジェラの双子の片割れができちゃった結婚し、アンジェラは双子の片割れとのツーショットはあるものの、その他はソロショットばかりで、正式に世間に公表できるようなパートナーとは巡り会えていないように思います。何がその人にとっての幸せなのかはそれぞれですが、アンジェラにとってそのサーカスのマネージャーはアーティストとしてお互いにリスペクトし合える存在で、心の支えであったのかもしれません。いわゆる悪い男はどんな女性のことも否定せず受け止めくれますから、、、。まあ、そんな悪い男が必要な時期も女性にはあったりするものです。(私は何を知っているのだろう。)今回も長くなってしまいました。思ったよりまとめるのが難しい女性でした。最後まで目を通していただきありがとうございます。次回はいよいよ最後、私の恩人ジャーナについて書いてみたいと思います。