長期滞在者
水炊きの豆腐を取り皿の中で冷ますために四つ割りにしながら思い出したのは、たぶん小学校低学年か中学年の頃のこと。 同じように熱い豆腐を箸で切りわけ、冷ましていた。 豆腐は丸ままにしておくよりもいくつかに割っておいた方が早く冷める、という小学生なりの経験により、なんとなくそうしていたのだろうが、それを見ていた父が 「どうして豆腐は割ったら早く冷めると思う?」 と聞いてきた。 「知らない」 「割ったら豆…
当番ノート 第31期
僕は、色んなところがヘタクソだ。 感情を表に出すのも、本当に聞きたい事を人に聞く事も、自分が言いたいことを口に出すことも。 嬉しいとか悲しいとか怒りとか甘えたりとか、そういったものを人に表現するのが。 周りの目を気にして、余裕があるように見せて、本当は辛かったり大変だったりすることもなるべく外には見せない。 妙なプライドや自己意識が邪魔をする。 それでいて、内弁慶だから尚のことだ。 色んな場所へ出…
当番ノート 第31期
少年は物書きになりたかった。 漠然とした夢に少し輪郭を加えると、物語を描きたかった。 小説をものにしたい。自分のつくる物語を世に出したい。 少年が人知れずに抱いていた展望だった。 夢を掲げるに至ったきっかけは分からない。分かるのは物心がついたころにはそう強く思っていたということ。 誰かに知られたら叶わないかもしれない。だから誰にも言わなかった。 一種の願い事のような、夜に目を閉じてみる類いの夢に近…
長期滞在者
今年の冬の東京は、よく晴れた日が続いています。新しい仕事場の窓から毎日明るい陽射しが入り込んできてとても気持ちがよく、朝早く出勤して午前中の営業時間前に色々仕事を片付けることが多くなりました。窓の外は、最近出来たばかりと思われる高層マンションが数多く立ち並び、日曜日の朝などは、一斉に洗濯物や布団を干す様子が見られます。 3年くらい前から、日本橋界隈は急激に居住人口が増えているのだそうで、ここに来る…
当番ノート 第31期
考えるへんな人は、ふつうの人とはちょっと違った選択肢をしている/持っている人とも言えるかもしれない。 やはり、東京は、人口1300万超、「人種のるつぼ」のような街が点在していて、多様性に溢れているから、そんな風変わりな人も多いわけだ。けど、その多様性を認めにくいような社会はあるのかもなあ、と思うようになったしまったのはいつからだろう。 ぼくが考えるへんな人に出会うようになったのは、大学を機に沖縄か…
当番ノート 第31期
朝はいつだってわたしを裏切らない。 中学生だった頃に朝型に覚醒したわたしは、それ以降の人生をずっと、言うなれば、朝と手をたずさえるようにして生きてきた。早朝のまだ静かな時間に、クリアな頭で、のっしのしと勉強やお仕事を進めていく。きっちりと着実に何かが積み上がっていく快い感覚。メールを送ってくる人も電話をかけてくる人もおらず、同僚の気配に気を散らされることもない、すてきな独りの時間。 最近「朝活」と…
Mais ou Menos
———– まちゃんへ 往復書簡がなかなか書けず、ごめんなさい。実は最近( と言っても前からやったのかもしれんけど)精神的にしんどくなっていましい、色々自分の考え方を見つめ直していました。 去年から今年1月下旬にかけて仕事でずっと神経を使うことが多く、1月からは少し落ち着くかと思いきや、1月からさらに大変になり、自分の職場での環境も変わり慣れないまま、…
当番ノート 第31期
今回は古本屋の話を。 まず、古本屋にはいろいろな形態が存在する。店舗を持っている店もあれば、ネットだけでやっている店もある。あるいは、デパートや催事場で開催される古書市や古本祭りのような即売会にのみ出店している古本屋もある。さらに、ごくごく少数の顧客のみを相手にしている古本屋、古書目録を独自に発行し、その目録から注文をとっている古本屋。 販売形態を考えただけでも、古本屋という言葉が指し示すものはと…
当番ノート 第31期
カメラを立ち上げた時のモニターに一瞬残像の様に映る、ぼんやりとした画像を残す方法を知りたい。普段、写真については、なるべく端正な画面構成で撮ろうとする一方、無為の存在感にはかなわない、と実は思っている。 目の前の対象よりその反射や投影、透過に、実体よりその影や背景、空白に、どうにも目耳が向いてしまう。 何が、そんな視点や価値観に影響しているのかと過去を振り返ると、通っていた画塾…
当番ノート 第31期
絵本を描いています、というと、「まずおはなしを考えて、それに合った絵を描いていくんですよね?」と尋ねられることがありますが、私はそういう順序では描いていません。 落書きからちょっとしたストーリーやおはなしのワンシーンが浮かんだら、そこからすこしずつ膨らませて絵本にしていきます。ストーリーより絵のほうが先なのです。 絵本をつくり始めたころはあまり深く考えず、いきあたりばったりで描き始めて、最後に辻褄…
当番ノート 第31期
僕は、ひょんなことから2014年の夏に鹿児島に引っ越した。 僕個人としては、”移住”ではなく”引越”、そんな感覚だった。 はっきり言ってしまえば、今も昔も場所にそこまでの執着は無い。 こうやって書くと、冷たいとか強がりだとか言われたりもするけど、 自分が住む土地以外で、面白そうだと思った”最初”の場所が鹿児島だったから。 本当…
風景のある図鑑
「 フラーレン : fullerene 」 球体は、最も小さい表面積で最も大きい空間を覆うことのできる形です。 その必要を見たすため、自然界でも人工物でも、しばしば球体が現れます。 しかし、表面を構成するのが曲面ではなく、硬い平面の組み合わせでなければならない場合もあります。硬い平面の組み合わせで作られた多面体を、より球体に近づけることを考えましょう。 球体はすべての面が均一です。多面体でも全体が…