長期滞在者
阪急神戸線の線路北沿いの道を塚口から園田方面へ、夜遅く自転車で出発する。 山陽新幹線と阪急線が交差する複雑な高架下を掘るようにくぐったその先に、黒々と藻川(もがわ)の水面が見えてくる。 最近僕の中で流行っている「藻川西岸南下・神崎川・左門殿川から2号線コース」(塚口発着で約15km)である。 ここは藻川に散らばるもこもこした中洲群がなんだかシュールな影絵を形作っていて、昼間に通っても不思議な景色な…
当番ノート 第40期
きっとこの先ずっと超えられない絵がある。 今の実家に移る前の古いアパートの一室にある父の部屋。 わたしが幼い頃から、そこは研究室みたいでもあり、図書室みたいでもあった。 大量の分厚い本が本棚から溢れ、まだ箱みたいな奥行きの分厚いパソコンが鎮座する。 幼いわたしはいつもワクワクくして父の部屋をのぞいた。 父の本をかたっぱしから手にとっては、漢字も読めないのに読みたくて四苦八苦する。 難しい本ばかりな…
当番ノート 第40期
あまり胸を張って言えることではないけれど、生きているだけで褒められたいと思って生きている。 朝起きること、ご飯を食べること。花の水をかえて、枯れたら新しい花を買ってくる。またご飯を食べ、皿を洗い、片付ける。部屋を掃除する。お風呂に入り、そして眠る。 穏やかな毎日を過ごすのに、あまりにもたくさんの物事をやり遂げて、積み重ねていかなければいけない。それはやっぱり、褒められるべきなんじゃないかな、と思う…
長期滞在者
いくつかの作品を引き取るために、先日 レジェンドと呼んでも差し支えない作家さんのご自宅へ行ってきました。今はご遺族がプリントと原版の管理をされているが、アトリエを処分してしまったので、自宅のマンションに棚をたくさん入れて、50年分の写真のことを全部収納してるということで、実際行ってみたら、自宅の一角どころか、自宅の大半がその作家さんが残した作品などで、むしろ塊の中で暮らしているようにも見えました。…
長期滞在者
わたしにとっては、その年はじめて茄子を食べた日から、夏が始まる。旬の茄子を手にとって眺めてみてほしい。太陽の強い光がぎゅっと濃縮して、それでかえって漆黒になってしまったかのような、つやつやとした紫色をしている。光にちらちら当ててみると、深い水の底をのぞきこんだときのように、紫色に深みを感じることができる。キュッと曲がった形をしていて、切りづらかったりもするのだけれど、その型にはまらない感じすら愛ら…
当番ノート 第40期
奥八女は笠原地区に民俗芸能を立ち上げるーー。地元の方たちへのお披露目会を翌日に控え、いまはロシア、香港からの3人とその稽古に勤しんでいます。そんな面々で、なにをもって笠原の芸能とするのか/なるのか? 農業をはじめとするこの1ヶ月弱の滞在から得た所作やこの土地の言語性から構成しています。 多くは林業と炭焼き、また水田と茶畑を生業とする笠原地区。特に6年前の九州北部豪雨では甚大な山崩れが起こり、またそ…
日本のヤバい女の子
【9月のヤバい女の子/期待とヤバい女の子】 ● アマテラスオオミカミ ――皆が自分を見ている。自分の働きを待っている。でも少し、ほんのちょっとだけ、10秒くらいでいいからそっとしておいてほしい日もあるのだ。 ――――― 《天岩戸(古事記)》 アマテラスオオミカミは警戒していた。ものすごい足音を立てて弟・スサノオノミコトが高天原へ向かってくるからだ。スサノオは父・イザナギノミコトに命じられて海原を治…
Mais ou Menos
まちゃん、往復書簡を読んでくださるみなさんへ こんにちは、PQです。 前回は往復書簡を始めて、初めてまちゃんに対して手紙を書くことができなかった。 実は、書いてたんやけど、いざわたそうと思ったときに、これは今の本当の自分じゃない、自分はこういうことが書きたいんじゃない、と思い、手紙を捨ててしまった。 自分がどうしたらいいかわからなくて、苦しくて、気力がなくなっていた。 でも、今、ゆっくり過ごす時間…
当番ノート 第40期
ふだんの生活を営むにあたって必要な言葉って、実はそんなに多くはない。 足す・引く・かける・割るさえ使えれば暮らしのほとんどは事足りて、高校のときに必死で覚えたサインコサインタンジェントと出くわすことなんてめったにないのと同じ。 たまに判断に迷うようなものもないわけじゃないけれど、そういうときはさしあたりヤバ〜イとかステキ〜とかの多義的な単語でぼやかしておけば、さしあたり話が途切れることはない。 し…
当番ノート 第40期
しおり【栞】 (「枝折」から転じて) ①案内。手引き。入門書。 ②読みかけの書物の間に挟んで目印とする、 短冊形の紙片やひも。古くは木片・竹片などでも作った。 し・おり【枝折】 山道などで、木の枝を折りかけて帰りの道しるべとすること。 きおく【記憶】 ①物事を忘れずに覚えている、または覚えておくこと。 また、その内容。ものおぼえ。 ②生物体に過去の影響が残ること。 物事を記銘し、それを保持し、さら…
Do farmers in the dark
こんばんは!すみません。なんというか、今月はとにかく夏で忘れ物が多くてウロウロ歩いたりでエネルギーを消耗してしまい、日に焼けてよく眠れて体調は凄くいいんだけどなんだか疲れてしまい何も出来ませんでした。そのため今回はお休みのような回になっています。すでにSNSにも載せている最近描いた特にタイトルの長い絵と、あんまり意味のないとりとめのない文章を何とか脈絡なく日付をつけて日記風にしたら読めるんではない…
当番ノート 第40期
「今回はどうしますか?」 ネイリストさんの問いに「最近、緑系が気になっててー、でも紫もいいなとか」なんて答える。 こちらを見て頷いた後、ネイリストさんは真剣な眼差しでわたしの手元を見て、前回のわたしのネイルを落とし始めた。 ネイルサロンは「本当に移り気だね」なんて言われないところがいい。 美容院では、やってみたい髪型がコロコロ変わるわたしに、担当さんが毎回呆れて笑う。 そんなことを思っているうちに…