当番ノート 第50期
私はこの文章を5月11日の午前1時に書いているのだが、この1時間前に50日間以上フランスで続いていた外出禁止令が一部解除になった。とりあえず単純に嬉しい。もともと引きこもり系の人間で、こもりつつ作品を作ることが好きなので家にいることは苦ではないと思っていたが、いやはや、予定がない日々が50日も続くと時間の感覚がおかしくなってくることがよくわかった。 宇宙飛行士が訓練で日常の繰り返しを繰り返し練習す…
スケッチブック
4月1日(水) 友達からメッセージ。「こんな状況になって、あなたの感性にも変化がありそう。最近何を感じてる?」個人的には、ここのところずっと止まりたかった。「世界が不安で繋がっている」と彼女は言った。「fearよりもcareで繋がりたいね」と、返事を書いた。書くのは簡単。でも誰かをちゃんとcareするのは難しい。 今日は雨。庭の花の写真を撮った。もう8年もこの日は命日。思い出させて辛くなるだけなら…
当番ノート 第50期
誰もいないよりは誰かがいたときのほうがおもしろい、たまにでいいけど。適度に安らげる孤独のほうがあったほうがいい。適度にね。 そういえば最近とてもいい演劇を見た。つめたい人、あたたかい虫の話。演劇が善いと思うのは「弱い」とされることも、肯定されるからだ。胸が苦しくなるくらい、愛おしい、弱さ。そのあとが破滅だったとしても、一瞬にとんでもないエネルギーを注ぐっていうのが、演劇。暴力も、狂気もある。 結局…
当番ノート 第50期
ヨルダンの街を歩いていると直ぐに分かることだが、道路沿いのいたるところにゴミ箱が置いてある。 銀色で、蓋が無く、口が空いたゴミ箱。おおよそ縦50 ㎝、横120 cm、高さ100 cm。脚が2つ。一カ所に3~6個がまとまって置かれている。 近隣の家庭やスーパーから出たゴミがこのゴミ箱に捨てられてくる。ヨルダンではゴミの分別回収はまだ普及していない。生ごみ、プラごみ、金属ごみ、すべてまとめて捨…
長期滞在者
仕事もせず、通信制の大学の課題以外には「やらなければならないこと」がない日々。一見穏やかな日々に見えるし、私も別にそこまでストレスがあるとは思わない。けれど初めてのことを私(というより私達)は体験しているわけで、正直なところ感染症にかかる以外にも何か異変が生じるんじゃないかと思っている。 少しずつ体には現れていると思う。筋力の低下、睡眠の質の低下。情報収集の仕方や、体の動かし方も変わってきているよ…
当番ノート 第50期
妹がいる。 1人でものごとを決めてしまい、自分勝手でわがままで、でも実は人情深い。 2つしか離れていないためか、ライバルのように意地を張り合った幼少時代だったので、お互いにあまり優しくなかったし、疎ましく思っていたこともあった。 妹とは似ていないと思っていたし、似ていると言われるのは、たぶんお互いに嫌だった。でもユニクロのカーディガンやプチプラのアイシャドウ、読んでいる詩集など、生活の端々のものが…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
この回で『それをエンジェルと呼んだ、彼女たち』は最終回を迎える。この連載では人と出会った記憶を起点に、彼女・彼らを思い出すようにして書いてきた。それは思いを重ねることだった。自分はその人の何を書いているんだろう、という問いは重ねるほどに膨らんでいった。 胸を痛めたり、熱くしたり、透き通らせるような出会いを思い出すとき、特別に思えたその瞬間を一言一句記録する代わりに色として書き写した。ちょうど旅先で…
長期滞在者
“jardin“ 男性名詞.「ジャルダン」と読む. 時代とともにiardinになったりjardinに戻ったりするが、iもjも同じようなものと考えて良いし、13世紀以降、ほぼその姿は変わっていない. 学生の頃から枯山水や生花(せいか)は好きだったけれども、草花生い茂る「庭」に興味を持ったのは、つい最近だ.新型肺炎の影響で外出自粛が続き、マンションの庭を散歩するのが日課になった. 去年の暮れ、引っ越し…
当番ノート 第50期
「突然すみません、台中の珈琲フェスティバルに出ませんか?」 アンドサタデーを始めて半年ほどのある日、一通のメッセージが海の向こうから届いた。 これは新手の詐欺だ。そうに違いない。 なぜって、当時メディアにも出た事はなかったし、錚々たる日本の珈琲店を差し置いて、海の街の小さな珈琲店に声が掛かることなんてないはずだから。 逗子の街でもまだまだ知られてないのに、どうして台湾の人が知ってくれているのか。 …
お直しカフェ
私の働くカフェも休業している。これは最後に店番をしたとき、知らない間にカウンターの傍から撮ってもらっていた写真。この日は春からの新しいスタッフの面接もたくさんあって、忙しかったけど楽しかったなあ。全部、ひと昔前のできごとみたいだ。 気を取り直して。 お店のエプロンをお直しするために持ち帰ってきた。使い続けているうちにコーヒー滲みなどが目立つようになったからだ。「新しく黒いエプロンを買おうか」と言う…
当番ノート 第50期
写真の話をしよう。 モノクロは撮った瞬間から死んでいる。というのは荒木経惟の言葉だったろうか。それは違う言い方をすれば時を持たないもの。また別の言い方をすれば永遠を持つということだ。物理的には多少違うところもあるが、認識のレベルではモノクロは色あせることなく「ずっと同じで、変わらずここにいる」ことが担保されている。一方でカラーは絶対的に生であり時間を持つ。それは物理的にプリントされた写真は時間と太…
当番ノート 第50期
名付けについて考える。 かつていくつかの名前を持っていた。 名前は、コートネームと言って、部活のコミュニティ内だけで通用するものだった。部活が始まった初期の頃からのもので、代々引き継がれてもう何十年と続いている制度らしい。2つ上の先輩が名付け親になる。 名前をもらい、帰宅後「〇〇という名前になったよ」と家族に報告する時は変な心地だった。 体育館の舞台上に新入生が30人集まって、名前の候補のレジュメ…