当番ノート 第54期
西暦1999年の大晦日の夜、渋谷のスクランブル交差点にいた。 21世紀が2000年ではなく、2001年から始まるということはもちろん承知だった。それでも、2000年を迎えるときは特別な感慨深さがあった。「19」が「20」になる。区切りがよい。でも、 21世紀はまだ来ない。世紀と世紀のはざまに生じた、空白地帯のような年だった。 1999年末にはそれまで誰も口にしなかったような「ミレニアム」とか「千年…
当番ノート 第54期
なんで切符だけひらがななんだよ…。 平成最後の夏を前に、私はみどりの窓口でそんなことを思いながらひとつづりの「青春18きっぷ」を購入していた。恋人と一緒に名古屋へ行くためである。 名古屋には私と恋人の共通の友人k夫妻が住んでいて、妻のyちゃんが娘さんを出産したので会いに行くことになっていた。 一泊二日、ひとり往復で2回分。ふたりで合計4回分。青春18きっぷは5回分でひとつづりとなっていて、片道5時…
当番ノート 第54期
今回は、私が一番好きなカレー屋について語ろうと思う。 私が通っていた大学は神保町付近にあった。神保町は、日本有数の古書店街であり、あらゆるカレーの名店が軒を連ねる街だ。どこか目的地のために歩いていれば、きっとそこに向かう途中で2軒くらいはカレー屋を発見するだろう。 当時、私は文学部で、軽音サークルに所属していた。カレー好きが多くなりがちなコミュニティに、それに十二分に応える立地。私の大学生活は瞬く…
長期滞在者
このアパートメントでは、自分が声の仕事をしているときの写真を多く使ってきているが、この写真を見たときに2020年のことを思い出すのだろう。口の前にシールドをして司会をするようなことになるとは、1年前には全く考えもしなかった。 2020年12月2日。「日本を代表する、外国籍人材活躍の現場」にスポットライトを当てる、Global one team Award 2020。記念すべき第1回で司会を務めた。…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅にて、ボイスレコーダーに録音したトーク内容を書き起こして投稿しています。全8回の4回目です。 – 少し伝えるのが難しいのだけれど、昔から、物と物の距離と、そこに発生する意味に興味がある。 例えば絵を描く時。手を伸ばしている人がいて、その手の先にはリンゴがある。こういう時、この人…
当番ノート 第54期
雪を知らない。国立近代美術館で山元春挙の「雪松図」を見ながら、唐突に思った。 山元春挙(1871〜1933)は京都画壇の重鎮で、円山応挙の流れをくむ画家だ。「雪松図」は金色の屏風に背景もなく、重たい雪を背負った松のみ描かれている。雪は画面向かって右から降っているのか、幹の右側にのみ付着し、水平に広がる枝と松葉には、のしかかるようにぼってり積もっている。山元が描いたのは、軽やかなパウダースノーではな…
長期滞在者
今年も残すところ1週間、今回がもちろん今年最後の投稿。 今年最後は、これまで出会った同僚たちについて書いていきたい。 偶然同じ会社に入社した人や、アルバイト現場で出くわした同僚たちの中には、直ぐに意気投合できるような人から心の中が解せない人まで様々な人達が混ざり合っている。 が、趣味や感覚も異なるからこそ、共に過ごす中でとても愛すべき瞬間もやってきた。 こうした偶然出くわした同僚たちについて振り返…
当番ノート 第54期
サンタクロースの存在を何歳まで信じていたのか、よく覚えていない。でも、サンタクロースを信じていた理由なら覚えている。 小さい頃のこと。クリスマス当日の朝、起きてすぐにベッド周辺でプレゼントを見つける。昨夜はわがやに忍び込んでくるサンタクロースの姿が見たくて、眠らず見張っていたつもりだったのに、いつのまにか寝てしまった。プレゼントは、たいてい私が希望していたとおりのおもちゃ。どうしてサンタクロースに…
当番ノート 第54期
数年前のこと。 久々に群馬に帰省することになったので、私は「この機会にどこかしら散歩しませんか?」と友人のKさんに連絡をした。 Kさんはやわらかな雰囲気をまとった所作の美しい女性だ。一緒にいるととても安心できて、互いに喋らない沈黙の時間さえも心地がいい。言うまでもなく私の大好きな友人のひとりである。 件の連絡に返ってきた返事は「ぜひ!」というものだった。場所はお任せとのことだったので、彼女の最寄り…
当番ノート 第54期
12月も後半である。街路樹は煌びやかなイルミネーションで彩られ、あらゆる場所で赤と緑の装飾品が目に入る。無宗教である私も、このお祭り騒ぎみたいな雰囲気に浮き足立ち、購買意欲を煽られ、にんまりしながらショーウィンドウを覗き込んでしまう。年末のご褒美として自分に何かを買ってもいいが、どちらかと言えば、親しい人たちに何かを贈りたい気持ちにさせられる。ふと、それが増幅し、サンタさんになりたい、という大仰な…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅にて、ボイスレコーダーに録音したトーク内容を書き起こして投稿しています。全8回の3回目です。 先週の記事を書いている途中、そういえば生活の中で、習慣にしている事柄がいくつかあるということに気がついたので。今日はそのいくつかの中から白湯の話。 – 毎朝、白湯を飲むだけの時間を作る…
スケッチブック
1) 紅葉、イチョウ、楓。そして名前をしらない、木々の落とし物。かしゃかしゃとブーツをくぐらせて、ふわりと巻き上げる。 秋の出口に、お約束のように思い出すことがある。 10代の昼下がり、盛大な紅葉の中にゴロンと寝転がったら友達が私に落ち葉をかけていった。葉っぱ布団はふんわりと軽くて、いい匂いがした。おそらくその何日か前に雨が降ったのだ。「さあ、願いを全部いうんだ!」と友はおどけた。私はぽつぽつと話…