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2F/当番ノート

真夏の休日

当番ノート 第4期

まだ真夏の休日に母と偶然に、本当に偶然にばったりと新宿のドトールで会ってしまい
その流れで一日デートした

 何回も同じ話を繰り返すし、わたしの知りもしない、母が今親しくしている友人や
ずっと過去の同級生の名前をあたかも私まで知っている人のように固有名詞をだして話してくるし
亡き父の話になれば、写真を取り出してあたかもそこにまだ父がいるような感じで
涙ぐむので わたしはというと父に関しては やはり涙が出そうになったけど
女系家族、女親子というものは へんな意地みたいなのがあって共には泣けなかった。

母も、年をとったなーと切なくなったけれど
ドトールから出た途端、瞬間冷却バッグを取り出して頭にのせて、スカーフを真知子巻きにした。
それどころか、その上からサンバイザーをかぶった。
わたしの母ったら、わたしと違ってお酒も飲まなければタバコも吸わない、
その反動からかおシャレには人一倍気を使う人であったはずなのに
「あんたも使う?」ってもう一個瞬間冷却バックを叩き冷やして私に渡そうとするので止めた
「暑さもあるけど更年期ね〜あんたも、これで頭を冷やしなさいよ」って
とんちのつもりなのか定かではないが、さすが母の言うだけのことはあるなと思った。

それから暑いさなか、母とデパートへ行った、
母がご当地物産展をあまりに長い時間巡っているので私は久しぶりにブティック
(このいい方ももう古いのか知らん)に入って人を観察していた
 若い子ちゃんが高価な高価なブランドのバックを買って行く、バッグでなくとも、
そういうブランドのお財布をローンを組んで買って行く。
(お財布をキャッシュで買うくらいの余裕が今のお財布にないなら
ローンでお財布なんて買うかな!って突っ込みをいれたくなった)
 人の価値観なんてそれぞれだけど、なにか満たされないものがあって人は買い物するんだな
と 遠くに思った こんなに暑くて、それでいて心が穏やかな休日だったなら 
家での静かな時間を楽しめるのに

 と、思っていたら母があるブランドの店の大きな買い物袋を下げて戻ってきた
洋服、買っちゃった〜。って
わーおかあちゃん、今若い子ちゃんたちの買い物してる姿を寂しそうだなぁって見ていたばかりなのに!
ってしゅんとなった

 母はものすごく山奥の小さな村の農家の生まれだった
けれど村の人たちはみんな素朴でいい人たちだったし、家に鍵をかける習慣なんてなかった
自給自足で事足りるような生活をみなが送っていて、例外なく祖父母の家も
ネギ、大葉、とうもろこし、なす、キュウリ、トマト、しいたけなどの野菜や米、お茶
それから毎朝豆腐もつくっていたし、私が小さい頃には鶏や乳牛もいた。
春になれば当たり前のようにレンゲ畑が家の周りを覆い尽くすし
時折雲海が見られるほどの高地に村はあって
あの美しい山々がいつも見ていてくれるそんな母の実家が私は大好きだった

 しかし、母が小さい頃に農業で失敗した祖父母の家は一気に貧乏になってしまった
母が小学校の頃 祖母がやっとの思いで買ってくれたカーティガンの左肘の部分を
教室のストーブで燃やしてしまって それを祖母に言えず、焼け落ちて穴となった部分を隠して登校し、
卒業写真にもそれを着て写ったという話を思い出した

 その事を思うと母はある程度の年齢までお金に苦労したから 
お洒落や都会的なものやインテリアに憧れがあって
そこにお金を使ってしまうのかなと思えてきてしまい ちょっと寂しい。
たいてい人は自分のコンプレックスの部分に、執着をしてしまうものだから。

母と私は”お金”の使い方の価値観がまるで違うし、それで大げんかしたこともあったけれど 
私自身はたいしてお金の苦労をせずに大人にさせてもらって
そして今も私にはたいしたお金もないけど、「お金がない」ってことに対して
あまり神経質にならずにいられる気質でいられるのは
母がお金というものに重きを置いていてくれたからなんだなあ 
母の「おしゃれ金」、はたばこやお酒の楽しみを知らない反動ではなかった、前言撤回。
 それから 一緒に実家に行って母の手料理を食べた

帰り際に母が昼間にデパートで買った洋服の紙袋を手渡された
あんたみずぼらしい格好してたから、30過ぎてるんだから もっとお洒落しなさい!って。
 母の愛をここで見てしまった。洋服を買ってくれた事より
娘っていつまでたっても娘なんだなあとしんみりした

なんてことない母とのデートで終わった休日だったが
こういうなんてことのない休日だから貴重だった
 遠出したことや大きなイベントごとよりも案外とこんな時間こそが
後から強く記憶にのこったりするものだ

 

野坂 実生

野坂 実生

photographer  レタッチ作品をメインに写真を撮っています
撮影ならびにレタッチ、補正承ります

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