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2F/当番ノート

18歳の恋へ

当番ノート 第51期


姉と二人暮らしをしている家に、妹が遊びに来ました。「彼氏とは2週間前に別れたよ。今日は新しく出会ったサークルの先輩とデートをしてきた」と言うのです。

小学生の頃から部活一筋だった妹は、この1年半、一途な恋愛を楽しんでいました。多感な思春期、部活に打ち込んだ反動か、とにかく勢いが凄まじくすべての行動の意味が彼につながっていました。「意外とあっさり別れたな」と横目に見ながら、自分の18歳の頃を思い出していました。

大学1年生の後期。私には好きな男の子がいました。自分のことをあまり話さない人で、英語の授業ではゲームをしているか寝ていました。通年の少人数制授業で存在は知っていたのに、話すようになったのは後期に入ってから。きっかけは覚えていませんが、いつも机に顔を突っ伏していた彼が、こちらを向いて笑いかけてくれるのが嬉しくて、それだけで好きになるには十分でした。

だんだんと仲良くなっていき、空きコマの時間が合えば、一緒に過ごすようになりました。お昼を食べたり、生協のアイスを食べたり。私は授業と授業の間が空いている凸凹な時間割だったので、よく彼の受ける授業を一緒に受講し、隣で寝ていました。

無口だと思っていたが、結構ギャグを言う。AB型。幼少期からサッカーを習っていた。笑うと目が無くなる。ひとりが好き。絵が上手(誕生日にイラストをくれた)。LINEで多用するスタンプがシュール。授業を受けたらすぐ帰る。アルバイトが楽しいらしい。

彼が所属する地元のサッカーチームの試合を観に行ったこともありました。これは本当にかっこ悪い話なのですが、向かう途中に1時間くらい迷子になり、着く頃には試合が終わっていました。帰り道は、自転車に二人乗りで近くの駅まで送ってくれました。一つ一つの仕草に、ずっと、どきどきしていました。

「付き合っているの?」と友人らに聞かれては「ちがうよ」と照れ笑いしていた頃。好きという気持ちを、勝手に押し付けるだけ押し付けて、少しずつ心をひらく彼を受け入れるのがこわくなってしまったのは、私でした。距離が近づくほどに、以前のように素直に好きという感情を出せなくなりました。

恋に恋をしていたのかもしれません。不安定で大きな感情を持て余し、手に負えなくなり逃げたのでした。専攻が違うため、学年が上がると彼とは疎遠になり、卒業まで話すことはありませんでした。18歳、夏みたいな恋でした。甘酸っぱくて刹那的で。

あれから、いくつかの恋をして、もうすぐ25歳になります。今は、これが幸せなのかなと感じる瞬間が、今までとは全くちがいます。

だらっとした感じ。水風呂にずっと入ってると感覚がなくなり、自分が水になってしまった気持ちになるあの感じ。力が抜けて行く感じ。昼間のカーテンの揺れるあの感じ。図書館の本の匂いのあの感じ。とにもかくにも、おだやかでぬるい感じ。長く境目がなくて、線でつながる感じ。

歳を重ねる毎に、感覚が鈍くなっているような気もします。18歳から25歳。そして7年後の32歳。大人の恋はどんなかたちをしているのでしょうね。

ほたるいか

ほたるいか

ほたるいか

あくせく働く24歳。水色が好き。秋が好き。ムーミンが好き。ハイボールと日本酒が好き。雨が大の苦手(頭が割れてしまいそうに痛むから)。とっておきの一冊は今日マチ子の「センネン画報」。三姉妹の真ん中。写真はラムネの中に入っていた、よい匂いのするビー玉。

Reviewed by
田中 晶乃

ほたるいかさんのコラムを読み終えて、ほぅっと言葉が出た。
あの頃あの時期の、言葉で表せないような微妙な関係。
言葉にしたらこのままの私達でいられないような気がして。
関係性も想いも、形作られないままに進む。

正解もわからなくて、かといってこれを止めたいわけではない。
自然と水が流れるかのように、そのままの様子を見守り続けていきたい。

きっと誰しもあるのではないだろうか。
自分の中で、相手の存在が大きくなっていくこの気持ちの実感を。

関係性、距離、深さ、繋がり。
答えはなくて、その時々によっても変動する。
自分以外の人とのつながりは、何歳になってもどこまでも続く。
他人が自分自身に溶け込みつつある居心地の良さ。
自身と相手の境界がなくなるような深まり。


最後の一文にドキッとする。
33歳の私自身に問いかけられているような気がしたからだ。
大人の恋は、「その人が元気に生きているだけで、自分も満たされる」そんな想いのような気がする。
他の人にも想えるものではなく、その人に対してのみ、そう想えるのだ。

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