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2F/当番ノート

ゆきのうたごえ 後篇

当番ノート 第7期

ゆきのうたごえ 前篇はこちら

8・
ゆきのこたちのうたごえにとりつかれたみっつむすびさんは
ゆきのなかにすっかりうまってしまっていました。
「しっかり!」「だいじょうぶ!?」きづいたひとつむむすびさんとふたつむすびさんが
みっつむすびさんをゆきからひっこぬきます。

ゆきのうたごえはうつくしいけれどとらわれてしまうとたいへん。
ゆきのこたちにつつまれてべつのせかいにつれていかれることもあるのです。

さんにんはそろそろかえることにしました。

9・
かえるまえに、さんにんはゆきのこをつかまえて
そしてだいじにりょうてでつつみこみます。
ゆきのこのうごきにあわせて、
みっつむすびさんはみぎへ、ひだりへ、ゆらりゆらり。
いっしょにダンスをおどっているみたいね。

10・
つぶしてしまわないように、おとさないようにきをつけながら
まっしろになったみちをさんにんはくだっていきます。
「ぴょんぴょんはねたらあぶないよ、
わたしのようにこきざみにしっかりとあしをじめんにつけて」
ははぺんぎんのちゅうこくも、
みっつむすびさんだけはどこふくかぜ。

11・
いえについたさんにんがそおっとりょうてをひらいてみると…

12・
「わあ! きれい!」
「かたちがみんなちがうね!」
てのひらからつたわった、それぞれのこびとたちのこころとまじりあうことで、
ゆきのこはとてもうつくしいけっしょうにかわっていました。

13・
さぁ、おちゃのじゅんびをいたしましょう。

さんにんは、うつわのなかにゆきのけっしょうをそおっとうかべます。
するとけっしょうは、いろをつぎつぎとかえながら
くるくるとまわり、はじけて、
とけていきます。
それはまるで、にじのなかでながれぼしをみているようです。

こびとたちはそのようすをひとしきりたのしみました。

14・
そしてひとくちごくり。
ふたくちごくりごくり。
すると、きいたことのないうたが
からだのなかをかけめぐりはじめます。

なんてここちのよいしらべ。

それはゆきのこと、ひとりひとりのこころがとけあってできた、
ひみつのうたでした。

15・
そのよふけ、みっつむすびさんは
こんばんのできごとをおつきさまにはなしてきかせてあげました。
(おほしさまはずうっとみていたのだから、ほんとうはぜんぶしっているのにね。)

おほしさまがいいました。
「ゆきのうたごえはね、
はるになって、ゆきがきえてしまったら、みんなわすれてしまうんだよ。
きおくのかたすみにものこらないのさ。」

「わたしはわすれない。ぜったいに!」
「あんなにうつくしてしあわせなうたがきえてしまうわけがないもの!」
ゆきのことまじりあってできたひみつのうたを、
みっつむすびさんはなんどもなんどもおほしさまにうたってきかせました。

そして、おほしさまは
そのうたごえにあわせてしずかにまたたきつづけるのでした。

おしまい

—-

来週は「あかずきん」のおはなしです。
あかずきんといってもみんながしっているあかずきんとはちょっぴり違う、
海のなかのあかずきんのおはなし。

古林
希望

古林 希望

古林 希望

絵描き

私が作品を制作するあたって 
もっとも意識しているのは「重なり」の作業です。

鉛筆で点を打ったモノクロの世界、意識と無意識の間で滲み 撥ね 広がっていく色彩の世界、破いて捲った和紙の穴が膨らみ交差する世界、上辺を金色の連なりが交差し 漂う それぞれテクスチャの違う世界が表からも裏からも幾重にも重なり、層となり、ひとつの作品を形作っています。

私たちはみんな同じひとつの人間という「もの」であるにすぎず、表面から見えるものはさほどの違いはありません。
「個」の存在に導くのは 私たちひとりひとりが経験してきた数え切れない「こと」を「あいだ」がつなぎ 内包し 重なりあうことで「個」の存在が導かれるのだと思います。

私の作品は一本の木のようなものです。
ただし木の幹の太さや 生い茂る緑 そこに集う鳥たちを見てほしいのではありません。その木の年輪を、木の内側の重なりを感じて欲しいのです。

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