その時、僕は18年前の夏にいた。
見渡す限りの水田には、青々とした稲穂がびっしりと実り、
整然と並び交わる畦道が、世界を均等に区別していた。
真夏のじりじりと照りつける太陽の光と、うだるような暑さのなかで、
ほんの一瞬だけ、無邪気に口笛を吹くようなそよ風が、僕の頬をなでた。
ずっと向こうまで続く緑色の稲穂が、まるで大きな絨毯のようで、
どこからかやってきた風に吹かれて、軽やかに波打つのが見えた。
とても静かに、けれど、ほんの微かに揺れた空気の振動は、
胸のざわめきと重なって、一瞬、それ以外の音がなくなった。
そのざわめきは、僕の中から聴こえたようだったけれど、
そこではないどこか遠くからやってきたようにも思えた。
それから、風は胸のざわめきを連れて空の向こうへと消えていった。
気づけば、耳のずっと奥で数万匹の蝉の声が鳴り響き、
見上げれば、空の陽がまぶしく降り注いでいた。
高校1年生だった僕は、短い夏の間に簡単な、
けれど、忘れがたい恋をした。