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2F/当番ノート

ごめんねケーキ、いっしょに眠ろう

当番ノート 第11期

 
 
ローソクを引っこ抜くと、
 
穴がのこる
 
穴ばかりが目立ってしまってつまらない
 
 
ケーキ食べるときいつも思うんだよ。
 
ローソク立ててさ、火をつけて電気を消して
 
お金持ちみたいな色に照らされて ゆらゆらしてるケーキが一番おいしそう
 
 
いま私の目の前にあるケーキは穴だらけでさ
 
食べる前から気が滅入ってしまうよ
 
 
もしこのケーキの上を歩けと言われても
 
ずいぶん注意しなくちゃならないし
 
 
いくつかある穴の、ひとつ
 
その穴のまわりに
 
緑色のロウがついている
 
このへたったケーキの中で ゆいいつ

この緑色だけが綺麗だなと思った。
 
 
これ食べたらすぐに歯を磨こう
 
歯を磨いたらもう寝るんだ
 
あれば紅茶味の歯磨き粉を使いたいくらいだ、
 
ゆっくりティータイムを過ごすみたいな気分じゃ全然なくて
 
もうなにもかも一度にすませてしまいたい
 
洗いざらいにして ひっくりかえして
 
自分がカスカスしてて嫌になる
 
ごめんねケーキ、ごめんね
 
 
そうだ、
もう歯を磨くのもやめてしまおう
 
ケーキと一緒に眠ればいい
 
 
ばい菌だらけの口で、すやすや眠る。虫歯になる
 
 
それで耳もほっぺたのあたりも腫れちゃってさ
 
このまま私の顔 気球みたいに膨らんで
 
ぷんぷん膨らんでいって
 
空に浮かんで、
 
 
ふと周りを見渡すと私とおんなじような人たちが、
 
いや人たちってゆーか、気球たちがたっくさんいてカッパドキアみたいだよ!
 
 
私とケーキはどこへでも飛んで行けそうだった
 
晴れていて、風も私の思いのままになるようだった
 
台風も、今年はもうこないだろう
 
もう台風がこないって思っただけで、なんだか強気になれた
 
虫歯もちっとも痛くはなかった
 
こんなに腫れているのに なんでだろうと思っていたら、
 
ケーキが言った。
 
緑色のロウは鎮痛剤なんだよって言った。
 
 
わたしは嬉しくなって
 
青空の中をずんずん進んでいった
 
穴のことなんかとっくに忘れていた
 
だっていま、
 
 
わたし空を飛んでいます
 
 
 
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