好きだった人に、
まえに好きだった人に
付き合ってよって言われた
わたしがあの人のことを好きだったのはもう2年も前のことだ
あのとき、
食事が喉を通らないということを知った
ふられて泣いた
一人で散歩したりなんかして
都営荒川線にひとりでふらっと乗り込んだりなんかして
そいつに昨日、
付き合ってよって言われた
そのとき私ね、
それ言われてもなにも思わなかった
そんな自分にびっくりした
2年前にはピンと立っていたはずのわたしの触覚はどこにいったのだろうか
腐ってしまって、私の体から剥がれて取れてしまったのだろうか
これってとても悲しいことだと思う
好きだった人が、いなくなった
いるのにいなくなった
とても悲しいことだけど、
いま悲しいわけじゃないから、よくわからなかった
もうやめちゃおうかという気分になる
触覚のない虫になって、
わたしは、なんにでもなくなったんだし
いまは、イヤホンをなくしてしまったことのほうが、悲しいくらいだ
どこに落としてしまっただろうか
たいして気にいっていたわけでもないけど。
だから駅から家までを,
ひさしぶりに夜の音を聞きながら歩いて帰った
なんでか知らないけど,コンビニがいつもよりまぶしく見えた
目は関係ないだろと,自分で自分につっこんだ
あした、タワーレコードで好きなバンドの新譜を買おうと思う
うさんくさい宣伝ポップや,
バンドマンが来店したときに書かされる気のぬけたサインが目障りなあの店に
しかたなく100円ショップで代えのイヤホンを買って耳に刺そう
ラジオから聞こえてくるみたいな音がすんだろうな
ほんとうはどんな曲なのかなって思うけど,
まあこれはこれでいいものだ と,格好つけたりして遊ぼう
こんなところまで物わかりがよくなった自分が嫌いだ
洗濯機をまわす
もう私もこのなかに入って洗ってしまおうと思ったけど、
私の足のつけね辺りにあるであろうポケットに何かが入っているような気がして、洗濯機にほうり込めない
ポケットに入っている,その何かは,
もうポケットからは出てこないんだと思う
手をつっこんでさぐってみようか
意味ないか
意味ないよな
私がどこかに落として来てしまったイヤホンのことを思う
たとえば新宿で
サザンテラスのきれいなクリスマスの装飾のなかで
ひときわ汚い へなへなのイヤホンを思う
カップルに踏まれて、よけいにみじめなそれは、
わたしの体からはなれた触覚ではないだろうか
なにも察知できないダメになった触覚が、
それでも私のポケットに入っていたらいいな