カラン、カラン、
いらっしゃいませー
わーーーーーー!
・・・どれにしようかなあ・・・
フレッシュなイチジクに瑞々しい白桃、黄色と橙色が交互に並んだオレンジとグレープフルーツ
こっちは胡桃とアーモンドのキャラメリゼ・・・
あっ!こっちにはたっぷりのカスタードクリームとソテーしたバナナが!
あっこっちには
お客様、お客様
は、はい!
ケーキは逃げ出したりしませんので、どうぞごゆっくりお選びくださいね。
ハッ
本日のお夜菓子 ★ タルト
ひとくちにタルトといえど種類は豊富。
タルト屋さんに入るとよりどりみどりな彼女たちに思わずごくりと喉を鳴らしてしまうのではないでしょうか
でもこの子たち、元々はお菓子として生まれたわけではなかったのです。
昔は御箸やスプーン等のカトラリーなんてものは有る筈もなく、みんな素手でご飯をもぐもぐしていました。
固形物は食べやすかったのですが、液状のものは器に直接口をつけてすする以外の方法がありませんでした。
「なんか・・・今更ながらに思うねんけど・・・」
「なんやねん」
「ごはんめっちゃ食べにくない・・・?熱いし」
「ほんまやなあ・・・器ごと食べれたらええねんけどなあ・・・」
「あ、それちゃう?」
「え?どれ?」
「だからそれちゃう?」
「だからどれやねん」
という具合で、器ごと食べられる器、タルトが出来たのです。
考えた方は、私そっくりな面倒くさがりの食いしん坊さんだったのかしら。
タルトが生まれた時代、実は古代ギリシャから存在しているのですって!
この勇ましい男性もタルトのような食べ物を美味しそうに食べていたのかなと思うと
なんだか微笑ましいですよね。
「なんかおれの器ぶあつない?」
「固そうやなあ、焼きすぎちゃうん」
「伸ばしが足りてへんのちゃうか」
「どれひとくち味見・・・」
「そうはさせへんで!!」
とか言いながら作っていたのかな。
タルトと一口に言えど種類はたーーーくさん
代表的なタルトといえばタルトタタン。
今夜はこのケーキが誕生したお話を、タルトを食べながらお話しますね。
お菓子って、ちょっとした失敗やひらめきがとびっきり美味しかったりするのですが
このタルトタタンもとある姉妹の失敗から生まれたお菓子なのです。
*
ホテルタタン
二人のタタン姉妹が営むこのホテルは今日も慌ただしく営業しております。
姉「カロリーヌ~!あんたはよ来てこっち手伝ってや~!!」
妹「姉さん!それくらい一人でやりいや!こっちやって忙しいねんで!」
バタバタバタバタバタバタ・・・
姉「カロリーヌ~!シャンブルトロワの朝食持ってった!?」
妹「持って行ったいうてるやろ!それ5分前と同じこと言って・・・ちょ!姉さん!!姉さん!!おいステファニー!!」
姉「姉に向かってなんや呼び捨てとは、ええどきょ
妹「ええからオーブン見いや!どないすんねんこれ!!」
・・・
姉「アッ!やっちゃった★」
妹「全然かわいくないからな」
忙しさのあまり型にタルト生地を敷きこむのを忘れて型の中でリンゴを煮ていた姉のステファニータタン
呆れたしっかり者の妹カロリーヌタタンは急いでオーブンから煮え立つリンゴを取り出し
敷きこみ忘れた生地をそのまま上にかぶせて再度オーブンへ
姉「・・・これどないすんねん・・・」
妹「分らへんわ・・・とりあえず上の生地が焼けるまでオーブン見といてや」
数分後
妹「とりあえず出して・・・ひっくり返してお皿に盛る・・・?」
姉「ええんちゃう?」
妹「お前は本当にテキトーやな」
ビクビクしながら朝食後の各部屋にデザートを持って行ったあとの鳴りやまぬ電話
姉「あんたほんまに持ってったん!?これ絶対苦情やで、あんた出えや!」
妹「わかっとるわ!・・・(ガチャ)はいこちらフロント・・・・・・っえ!・・・あ、はい!姉の手作りでして」
姉「うわこいつ人のせいにした」
妹「・・・はい!わー!ありがとうございます!すぐにお持ちいたします!」
姉「えっ」
ガチャ
妹「姉さん、これめっちゃうまいねんて。おかわりほしいって人多い」
姉「あたし天才ちゃう・・・?」
妹「調子に乗らんといて」
ということで(一部脚色しております)その日宿泊していたお客さんみんな大絶賛だった姉の失敗作。
お客さん「このケーキはなんという名だい?」
姉妹「「タルトタタンです!」」
***
このタルトが誕生した嘘のようで本当のお話です。
ちなみにこのタルトタタンが出来たのが1890年。
125年も昔のお菓子、そして古代から受け継がれた食べ物が時代、時を経て今私たちのお口に届く。
なんだか歴史のロマンを感じませんか?
お菓子が出来た時代を遡ると、その時代の生活や環境まで見えてくる気がします。
お菓子だけじゃなく「食」ってとても素晴らしいですよね、なんだかしみじみ感じます・・・。
お客様、あの、お客様!
はい!
ケーキはお決まりでしょうか・・・?
ハッ