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2F/当番ノート

当番ノート 第26期

旅にどっぷりハマっていた時期があった。

大学にいる間もバイトしている間も、次に旅立つ時のことしか考えられないような。

ただ、いくら旅のことを想像していても、いざ旅に出れば想像とはまったく異なるものになったりする。

そして、何か大きな経験をした日よりも何もしなかった日の方が覚えていたりする。

観光名所を見て回った日よりもただ宿の周りを歩いていた日の方が。

予定を詰めて歩き回った大都市よりも特に何もせずゆったりとしていた小さな街の方が。

世界遺産の遺跡よりもその道中で昼寝させてもらった露店の方が。

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旅をする地域にもよるだろうが、東南アジアや南アジアを旅していたら毎日の朝日と夕陽が旅の大きな楽しみだ。

朝日のために、日本にいる時には考えられないくらい早い時間に起きて、寝ぼけまなこで川沿いや原っぱに歩いていく。そして、前の晩に買っておいたパンを齧りながら待機。

浮かび上がった太陽を見て帰り際にチャイでも飲んだら、もうそれだけで1日分の有難さを味わった気になる。

 

特にバラナシで見たガンジス川に浮かび上がる朝日は今でも鮮明に覚えている。

日本にいる間も、書物やテレビや誰かのブログで何度もガンジス川の朝日は目にしていたので、追体験をするようなもんだと思っていた。

だが、実際にその光景を目の前にするとそれは至極強烈だった。

バラナシでは、太陽も川もガートも人も絶妙な距離感で、構造を緻密に計算された絵画の世界に入り込んだようだった。

そして一方で、その絵画の世界にどっぷり浸るのを拒絶するかのような喧騒があった。

商売根性溢れる商人たちは日の出頃からとにかく元気だった。朝だけで何度”ジキジキ”を耳にしただろう。

その絵画的な美しさと喧騒とのギャップが、あまりにもインドらしく虜になった。

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日の出よりも日の入りの方が、住人たちにとって重要な出来事のようであった。

住人たちはそれぞれ自分だけの夕陽の眺望スポットを持っていたりした。私たちが日本でそれぞれお気に入りの居酒屋や喫茶店を持っているのと同じように。

その眺望場所は1時間かけて登らないといけない小高い丘であったり、誰もいない河辺であったり、家の屋上であったり。

あれだけ喧しかった現地の案内人たちも、夕陽が沈む瞬間には体育座りをして真剣な眼差しで見つめていたりする。

子どもからおじいちゃんまで静かになって同じ体勢で見つめてる姿。

そこに混じってただただ時を待っている時間はかけがえのない時間だ。

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日も暮れた後の夜の楽しみといえば、泊まった宿で地元の人たちや旅人たちと語り合うことか。

何気なく話していると意外な共通点があったりする。その偶然がまたおもしろい。

ただそれにも増して、眠ることが夜の大きな楽しみだった。

もう完全にドロのように眠る。

異国の地にいる緊張感を少し感じながら眠る心地よさは格別だ。

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そんな旅も、職場で手にするわずかな休みを利用して行かざるを得なくなると、好奇心や冒険魂よりも逃避や救いを求めて出かけるようになったりする。

そうなると、旅に出る時に抱いていた不安や緊張というものが無くなって、気を張らずにリラックスできる一方、押し寄せてくるような異国感は少なくなる。

また、多少の無茶なことも避けるようになってしまい、あまり記憶に残らない旅になるかもしれない。

もはやそれは旅と呼べないかもしれんけど。やっぱりフラっと行けたら、それが一番。

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東京や京都や地元で、バカでかい荷物を背負って歩いている外国人たちを見ると微笑ましい気持ちになると同時に羨ましくも思う。

そして彼らが、自分の気に入っている場所やあまり注目されることもない小さな川や路地なんかを写真に収めているのを目にするととても嬉しい気持ちになる。同じ景色に感動できることって一つの奇跡のような。

それでもって、自分もまた旅に出たくなってしまう。

簡単にやめられる代物でもない。

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今回、写真を載せるため数年ぶりにデジカメの写真を整理していたが、旅の間に撮った写真のあまりに少ないこと。

カメラなど持たず、目にすべて焼き付けてやると鼻息荒く意気込んでいた当時の自分が恥ずかしい。

あの時感動を覚えた景色を、なんやかんやまた見たくなることを気付かされた。

キタムラ レオナ

キタムラ レオナ

1988年兵庫生まれ

Reviewed by
加藤 志異

キタムラくんの連載も、あと三回。
今回は旅について語ってくれる。
人生の中で、贅沢にたっぷり、旅に時間を使うことができた人の文章だと思う。
語りの間に挿入される写真もいい。
その場所が持つ雰囲気や温度が、写真に記録されている。

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