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当番ノート 第35期
こんばんは。はじめましての人が大半だろうに、でも久しぶりの人や、しょっちゅう顔を合わせてる友人にも読んでほしいなと思って、それでどちらかというと近況報告のような心持ちではじめたこの連載も今日で最終回です。長くて短かった、週1回×2ヶ月の全9回。ふと思い出して、いつか全部読んでね。 すみだで暮らしています。それから。 毎朝、通勤ラッシュとはおよそ無縁でのどかな東武線に揺られて、すみだから浅草そして赤…
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当番ノート 第35期
幸福な気持ちで眠りにつく時、僕はいつもひとりだった。 数年前に自分が書き残した、その言葉は けっして嘘ではなかった、と思う。 ひとり目を閉じて、ぼんやりとしながら 瞼の裏をかけめぐる光に自らを委ね、 心から満たされていた夜を、その幸福な記憶を、 僕は幾つもたぐりよせることができるのだから。 だけど本当はその時、ひとりでありながら 「ひとつ」だったのではない…
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当番ノート 第35期
こんにちは。辺川銀です。ぺんかわぎんと読みます。ペンギンが好きです。あと猫も好きです。10月から11月までの2ヶ月間、このアパートメントで「天国を探して」という短いお話を連載させていただきました。 週にいちど、二ヶ月間の連載ということで、物語のほうも全8回ということでプロットを作り書き始めたのだけど月曜日の担当ということで、月曜日の担当には暦の都合で第9回まであるんだよということが判明しましたので…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 27 この日はヤソートーン県の市街地にあるワット・パーシースントーンへ向かう。朝8時過ぎに宿を出発し、15分ほどで到着した。しかし、早すぎたのか人がまったくいない。とりあえず、お目当ての地獄絵を見に行くことにした。 境内には芝生が広がっていて、いくつものお堂があった。そのうちのひとつに地獄絵が描かれて…
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当番ノート 第35期
こんにちは!今日は新宿ルミネのカフェバイザシーから。ここもは、某カフェカンパニーさんによって運営されている、ある意味東京のお手本的カフェをチェーン化したお店。まだ、夕方だというのに、ターゲットそのままだろう20~30代女子(OLではなさそう)が集まってきている。すごい。カフェカンパニーの系列店はどこもいわゆるカフェ飯も充実していて、(いわゆる男性に比べ)経済感覚のすぐれた女子が、(経費でなく)自腹…
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当番ノート 第35期
はてしなくどこまでも続く一本道。 真夏の美しい夕暮れのひろがり。 水田に描かれた軌跡と、そこに映し出された空。 一日のはじめの陽射しが注がれる窓辺。 白い息の向こうにともる、誰かの温もり。 風景の記憶を辿る時、その多くは新潟に帰っていく。 たとえば、雪原の静けさに身体を預けた記憶。 実家の犬と一緒に、近くの広い空き地にあるちいさな雪山にのぼって、 てっぺん…
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当番ノート 第35期
コンビニの夜勤は午前六時に終わる。家に帰り着くとシャワーを浴びて煙草を一本吸う。あとは何もせずに昼過ぎまで眠る。アサクラは日々をそうやって過ごした。たまに女が尋ねて来ることはあった。その時にはセックスをして食事を共にした。だけどそれだけだった。 「この猫を見かけませんでしたか」 ある日の夕方。タバコを買いに出掛けた帰り道だった。アサクラは野球帽を被った男の子に声を掛けられた。八歳か九歳ぐらいと…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 22 この日は丸一日移動日であった。ここにきて、これまで一日も休まずに続けてきた地獄めぐりをはじめて休んだのである。 最終目的地はペチャブーン県であったが、一日中バスに乗ってもいっこうに辿り着かなかったため、急遽途中のピサヌローク県に宿泊した。いつもは心配なので前日までにネットで宿を予約するのだが、予定…
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当番ノート 第35期
こんにちは!今日は、会社の下のディーンアンドデルーカからお届けしはじめます。うちのビルの1階には、スタバとディーンアンドデルーカが向かい合わせで入っていて、いつも10:1ぐらいでだいたいスタバにコーヒー買いに行くのだけど、でもディーンアンドデルーカはシーズナルのドリンクがかっちょいいので(「ラムレーズンクリームラテ」とか「ソルティレモンフラッペ」とか)時々、マーケティングリサーチ気取りで来店する。…
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当番ノート 第35期
十一歳の頃、「永遠」に襲われた。 最初のきっかけは音楽の授業で習った、リコーダーのためのある練習曲だったと思う。 遠いどこかの牧歌的な夕暮れの風景を連想させる、どこか物悲しい曲だった。 曲名は忘れてしまったけど、その旋律だけがずっと頭を離れずに残っている。 当時考えていたことと、その曲から思い浮かべたイメージとが分かち難く結びついたとき、 その隙間を通りぬけて「永遠」は入り込んできた…
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当番ノート 第35期
卒業式の翌日の昼下がりに兄のもとを訪ねた。兄に会うのは五年ぶりだった。携帯電話のメッセージで送られてきた兄の現在の住所は意外なことにぼくの通っていた高校から近い場所だった。ぼくがクラスメートや天文部の仲間たちと何度も買い食いをしたコンビニ。そのすぐ横にある小さなアパートの二◯二号室が兄の住まいだった。予め伝えられていた通り玄関の扉の鍵は開いていた。室内にはぼくの記憶にあるよりも更に痩せて髪も伸び…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 16 地獄めぐりもいよいよタイ最北部へ。この日の目的地はワット・ナンターラームという寺院だ。前回綴った自然の脅威と隣り合わせの宿からバスで2時間、峠道を越えファーンという街に辿り着く。しかしバスターミナルなどはなく、市場のようなところに降ろされた。 そこから歩くこと30分、道路沿いにあるワット・ナンターラ…
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当番ノート 第35期
こんばんは!ハロウィンが終わり、すっかりクリスマスですね(今日は新宿ルミネのスターバックスからお届けします)私は割合、クリスマスが好きだ。特に意識した訳ではないが、ちょうど10年前にクリスマスの前後半月をニューヨークで過ごしたことがあり、それからというもの毎年、街で洋楽のクリスマスソングが聞こえ始めると、あの寒くて大きな街のこと、イブの日にケンタッキーを食べる風習がないどころかお店もぜんぜん開いて…
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当番ノート 第35期
人間の本質について 「人は矛盾を愛する存在である」が本質だと仰っていましたね。 「誰かを恨み、憎むことで幸せになれる人が存在し(身近にも)、 平和のために憎しみが、戦争のために愛が語られるのがこの世界なのだと痛感しました」 この熊谷さんの文章、書くだけで哀しみに押しつぶされてしまいそうになります。 この人たちは、本当にそうなのでしょうか。心の底から本当にそれで幸福なのでし…
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当番ノート 第35期
Aの本名を私は知らなかった。年齢や職業も聞いたことがなかった。私とAは毎週日曜日の十一時に彼が住むマンションの部屋だけで会った。その時間に部屋を訪ねると玄関の鍵が開け放されていた。毎週決まった時間と場所で会うのでそれ以外の時に連絡を取り合う必要はない関係だった。私たちは会うたびに一度ずつセックスをした。Aの身体は酷く痩せており二十四本ある肋骨のすべてが浮かび上がっていた。細く長い腕や脚はまるで執…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 13 前日、興奮の新地獄を発見したランパーン県からチェンマイへ移動した。ご存知の通り、チェンマイはタイきっての観光都市であり、世界中から多くの人が集まっている。これまで自分以外にひとりも外国人を見かけないような生活が続いていたため、チェンマイに着くとどこかホッとした。 そしてこの日は、チェンマイの隣県、…
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当番ノート 第35期
こんばんは、おはよう。夜19時に自動投稿される連載の仕組みに合わせて、これまで「こんばんは」としていたが、実際は夜眠くて断念して朝に書いていることも多い。朝の曳舟駅。行くのは今のところ毎回、今年の夏にできた東武の駅ビル(というか小さな通路)の中に入っているタリーズで、駅直結の大病院に隣接したこの新しい一帯は、ほのぼのと薄暗い下町すみだの中では際立って照明がまぶしいし、いかにも白々しい。できたとき、…
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当番ノート 第35期
今回はひと息つくつもりで、コーヒーでも啜りながら 肩の力を抜いて書いてみようと思います。 これから先、書こうと思っている幾つかのことは 自分にとって向き合うのがとても難しい問題であり、 内容的にもたぶん重たくなってくるからです。 なのでその前に今回は、少しゆったりとした気持ちで書かせてもらえませんか、という提案です。 コーヒーを啜っていると、大学時代にお世話になったある先生のことを思…
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当番ノート 第35期
今年の四月に入社したアサクラは嫌なやつだった。口数が少なく表情にも乏しく可愛げがなかった。挨拶が出来ず飲み会には出席せず先輩に対する礼儀というものがなっちゃあいなかった。けれど呆れるほど仕事が出来る男だった。ひとたびパソコンの前に座らせれば新人離れした豊富な知識量と並外れた機転で以て、この道十年の上司たちでも手を焼くような無理難題でさえあっという間にいう間に解決してみせた。その働きぶりは社内の誰…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 11 前日、ランパーン県で学生に日本語を教えているという友人の家に宿泊させてもらった。そしてこの日、なんとその教え子のお母さんが目的地の地獄寺まで車で送ってくれるというので、お言葉に甘え連れていってもらうことにした。タイで地獄めぐりをしているとこういうことがたまにある。見知らぬ私を100%の善意で送ってく…
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当番ノート 第35期
こんばんは!この週末は、藍の栽培と染めなどを行う歓藍社での活動で、福島県の大いなる田舎、大玉村に行っていました(大いなる田舎は村が掲げるキャッチコピー。渋い)いずれの回でも書ければとは思っていますが、村での暮らしは本当に創意工夫に溢れていて楽しい。農家やクリエイターを中心とした村での一連の活動に参加している人たちの、長年の英知に支えられた、機動力の高さ、人付き合いの絶妙な距離感や思いやり、スパスパ…
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当番ノート 第35期
誰もいない作業場の跡地のような場所で、鉄骨に小屋が吊るされていた。 それは時々ゆっくりと回りながら、風に揺れていた。 二十二歳の冬の日、はじめてそれを見つける。 新潟に帰省して、犬の散歩に出かけた夕方のことだった。 いつものように通ってきた道の近くには、水田に囲われた作業場の跡地のような場所があった。 昔から知っていたのに一度も立ち入ったことのないその場所が、その日だけはなぜか気にな…
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当番ノート 第35期
はじめて入った古めかしい喫茶店で注文したホットココアはほんのひとくち飲んだだけで舌の根元が痛くなるほど甘ったるかった。机を挟み向かい合って座っている女のひとについてあたしが知っていることはそれほど多くはない。あたしよりも二歳年上で大学生だということ。この店のホットココアに大きな角砂糖を三つも加えて飲むような味覚の持ち主であるということ。そしてあたしがアサクラ先輩と知り合う少し前まで彼と交際してい…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 7 地獄めぐりをはじめて1週間が経った。この日はシンブリー県にある地獄寺、ワット・ピクントーンへ。この寺院には比較的珍しい「浮彫」タイプの地獄絵があるという。シンブリー市街地からバイクタクシーで30分、巨大仏の見える寺院に到着した。 この大仏の台座部分は回廊になっていて、そのまわりをぐるっと地獄極楽の絵が…
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当番ノート 第35期
こんばんは!一気に寒いね。我が家ではこの週末にコタツはじめました。東向島にある今の家は、古い木造住宅をリフォームした物件で、どうやら壁が薄くてリビングの窓が大きいため、歴代の住居の中でダントツに寒い。私は寒さに弱い。という訳で、向こう半年コタツにおんぶに抱っこというか下敷きというか潜り込んで出てこない生活がはじまる。うう さて、今回はそんな気の抜け具合でのらりくらりと、靴下とお直しの話。一段と独り…
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当番ノート 第35期
はじめて海外旅行に行ったのは、二十歳のときだった。 三月の厳しい寒さのなか、フィンランドをひとりで一週間ほど旅した。 旅の途中、フィスカルスという美しい村で一枚の絵葉書と出会った。 今までに引っ越しを三回経験したけれど、部屋のどこかに 必ずその絵葉書は飾るようにしている。 じっと眺めていると、当時の様々な記憶がやわらかな痛みを伴ってよみがえってくる。 まるであの頃の自分の肖像を見つめるようにして、…
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当番ノート 第35期
温かい赤ん坊が僕の腕の中ですやすや眠っている。この子が生まれてから今日で十日目だか抱いている時は未だに緊張する。もしも自分が何かの拍子にほんの少しでも手を滑らせてしまえばこの子の身体はいとも簡単に壊れてしまうかもしれない。可愛さ以上にそういう恐怖心が身体を強張らせる。こんなふうに感じてしまうのは父親になった自覚が足りないせいかもしれない。現に妻や義父たちは慣れた手つきで赤ん坊を抱くことが出来てい…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 3 地獄めぐり3日目は、昨晩宿泊したチャチューンサオ県にある寺院へ。寺院の名前はワット・チョムポートヤーラームといい、市内からバイクタクシーで5分ほどの近場にある寺院だ。前情報によるとここには朽ちかけの地獄があるとのことだが、いくら歩き回っても一向に見つからない。仕方がないので近くにいた僧侶に「この寺院に…
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当番ノート 第35期
こんばんは。第二回目。先週、初回を投稿してから、見ず知らずの方の感想を見かけたり、友人からメールをもらったり、思いの外反響があって、これはお直しについて考えたり手を動かしたりが加速するかもしれない連載だなと、改めてありがたく感じている今。(感想ポストやワークショップ開催のお誘いはいつでも待ちしています、、!) さて、今回は一段ととっておきのやつお届けします。今年のはじめに東京と大阪でお直しの展示を…
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当番ノート 第35期
物心ついた頃から、絵を描くことだけはずっと続けてきた。 大学四年生の頃にゼミの先生から絵を酷評されたとき、はじめて大きな挫折感を味わったように思う。 就職してからは仕事が忙しくなり、描くことはあくまで趣味と捉えることにして 自分のためだけに描こう、と割りきって描き続けた。 そして夏に鹿のような一本の木と出会った頃を境に、少しずつ絵に変化があらわれはじめた。 最初は、木や葉っぱ、雲、壁のひび割れなど…
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当番ノート 第35期
「今から帰る」というメールが届いてから既に一時間以上が経過しているけど夫は未だに家に辿り着かない。夕飯の支度を終えてテレビの電源を点けると携帯電話のコマーシャルがブラウン管に映った。携帯電話をひとり一台持つ時代になったというだけでも未だに信じられないのに最新機種にはカメラ機能までついているのだという。わたしはテーブルの上に置いた自分の携帯電話を手に取り、今どこに居るの、と夫にメールを送った。あのひ…
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当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― タイは国民の9割以上が仏教徒という敬虔な仏教国である。そのため、まるでコンビニのように至るところに寺院が存在する。その数は約3万といわれており、日本のコンビニの数は2017年現在6万ほどであるので、街中のコンビニの半数が寺院であるような感覚である。そして数ある寺院の中には、コンクリート像で「地獄」を模した空間を併せもつ寺院が存…
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当番ノート 第35期
こんばんは。はじめましての人が大半だろうに、でも久しぶりの人や、しょっちゅう顔を合わせてる友人にも読んでほしいなと思って、それでどちらかというと近況報告のような心持ちでこの連載をはじめます。週1回×2ヶ月の全9回。ふと思い出して、いつか全部読んでね。 すみだで暮らしています 最近の私はスカイツリーふもと、墨田区向島に暮らしています。早いもので、上京してから12年とちょっと。もうだめだ大阪帰る、京都…
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当番ノート 第35期
旅に出よう テントとシュラフの入った ザックをしょい ポケットには 一箱の煙草と笛をもち 旅に出よう 出発の日は雨がよい 霧のようにやわらかい 春の雨の日がよい 萌え出でた若芽が しっかりとぬれながら そして富士の山にあるという 原始林の中にゆこう ゆっくりとあせることなく (高野悦子「二十歳の原点」より) 学生闘争の時代を駆け抜けた二十歳の女学生が、 自殺する直前に綴った一篇の詩。…
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当番ノート 第35期
午前三時のコンビニには客も居らず特にやるべき仕事があるわけでもなかったから俺とアサクラさんは制服を着たまま店の外に出て灰皿の前でそれぞれ煙草を吸った。深夜の空気を少し肌寒く感じた。東京の夏は随分暑さが長引くのだなとつい先日までうんざりしていたのだけど数日前から急に涼しくなった。俺が一本目の煙草を吸い終えて灰皿の中に捨てると駐車場に置かれている自動販売機の脇からサバトラ柄の大きな猫が姿をあらわした…