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2F/当番ノート

お直しカフェ-お直しをする人の溜り場をつくる試み (3)靴下

当番ノート 第35期

こんばんは!一気に寒いね。我が家ではこの週末にコタツはじめました。東向島にある今の家は、古い木造住宅をリフォームした物件で、どうやら壁が薄くてリビングの窓が大きいため、歴代の住居の中でダントツに寒い。私は寒さに弱い。という訳で、向こう半年コタツにおんぶに抱っこというか下敷きというか潜り込んで出てこない生活がはじまる。うう

さて、今回はそんな気の抜け具合でのらりくらりと、靴下とお直しの話。一段と独りごち感があるのだけど、よければどうぞ!

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第1回の投稿でも書きましたが、私は自分の靴下の穴を繕いはじめたことがきっかけで、お直しにはまり、なぜかそこにアイデンティティを見出し(だってまわりにそんなことをしている友人が当時は皆無だったから)それで今はときどき、お直しカフェと称して、繕いのワークショップを開催している。

靴下は消耗品ではない
そもそも、私は靴下が好きだ。コテコテの柄や派手な色味のものを履いても、装い全体の中で冒険感がんばってる感が出ることなく、純粋にお気に入りのものを身につけられる感じがある(私はよく、柄物好きはつい大阪人なもので、という言い訳をするが、大阪の大半の人ただの濡れ衣すんまへん)あと、見えへん小さいとここだわんのっておしゃれやん、という垢抜けない考えもちらつく。学生の頃やもっと若い頃は、がんばってヒールを履いたりパンプスを履いたりしていたけど、何年かけても私の扁平足と腹筋背筋の少ない体はそれらの靴に順応せず(ヒールの方が楽という女子が一定数いるのは知ってる。けどパリでもニューヨーク、台北、あと特にロンドン、日常もっとみんなペタンコ靴やで日本人のヒールと化粧の死守率結構異常ちゃうか、と海外に行く度に思う)ま、そうこうしているうちに、ローファーやスニーカーのブームが来て(ブームなので巡るだろうが、私のようにこの波で完全に脱ヒールをする人もかなりの数いると思う)つまりまあ、もうすっかり靴下頼り生活である。足首は冷やしちゃいけないと、女性のカラダ系の本にはもれなく書いてあるし、つまり、私、たちの健やかな生活のために靴下は必要だと意思を持って選び取ってきたし、それは、男性のそれのように、生まれてこの方なんの疑いもなく履き続けてきた消耗品ではない。

派手な柄の靴下と言えば、学生の頃マルイで買ったヴィヴィアン・ウエストウッドのこの靴下。つま先こそ擦り切れるけど、他の部分は本当に丈夫で毛玉も出ないし、もう10年ぐらい履いてる。

派手な柄の靴下と言えば、学生の頃マルイで買ったヴィヴィアン・ウエストウッドのこの靴下。つま先こそ擦り切れるけど、他の部分は本当に丈夫で毛玉も出ないし、もう10年ぐらい履いてる。

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繰り返しになるが、私は靴下が好きだ。春夏の靴下、秋冬の靴下、綿麻ウール、素材も違うし、明るい爽やかな色、暗いあたたかな色、意外にオールシーズンOKな派手な柄。好きで少しずつ集めた、はたまた気づいたら増えていた靴下たちは、それやっぱり小さな穴ひとつでなんかではなかなか捨てられず、お直しを施すようになってその小さな悩みがなくなった。

一番最近縫ったウールの靴下。今ではダーニングの技法でうまく馴染ませられる。

一番最近縫ったウールの靴下。いわゆるダーニングという方法で、新しく縦横に編んで糸を加えている。

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ただ、初めて直したつま先に星と月の形を刺した靴下は、愛おしさは倍増したが明らかに履き心地に違和感があった。つま先に刺繍の裏のぼこぼこが当たるのである。それでこれは要改良やなと次のやつはどうしよかなと、ネットで「靴下 穴 直す」と検索したが、その頃はダイソーで売られてる靴下修繕テープなるものや、強制的に縫い合わせたようなものしかヒットせず途方に暮れた。確かそんな中にある主婦の方のブログで、縫い目に糸を編み込んでいく方法のようなものが書いてあって、え・・何そのテマヒマ・・とまた途方に暮れたけど、幸か不幸かそのころ時間だけは無限にあったので、試してみようと数時間靴下に糸を上下上下と通しつづけて、結果この手法にはまりこんだ。

初期の頃のお直し。最初はよくわからずボタンつけ糸を使っていた(黒い部分も全部縫ってる)ラチがあかなくなって再び刺繍糸に移行した写真これ。

初期の頃のお直し。最初はよくわからずボタンつけ糸を使っていた(黒っぽい部分も全部縫ってる)ラチがあかなくなって再び刺繍糸に移行した写真これ。

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穴を起点に手を加えていくこと
お直しのよさは前にも書いたけど、行為としてどう楽しいかというと、ひとつ大きいのは穴が空いているところである。予め決められたスペースの中に、カタツムリのようなスピードで糸を編み込んでいく。元の靴下の色や柄があって、ある程度限定された中から、色合わせや刺し方を決めて繕っていく。前回岡さんも似たようなことを語っていたが、私は真っ白のキャンバスに無尽蔵に絵を描いたり、更地に何かをいきなり打ち立てる、そういうゼロから何かを生み出すような創造者では到底ない。でも1を2や3にしたり、色やら形やらをもって自分の好みに着地させることはできる。最初の糸の色合わせで悩んだり、縫い進めながらやっぱりここにもう少し補修を加えようとか、ここは縫い方を変えよう、差し色で水色を持ってこようとか。撮りためたドラマをつけて何時間も連続で靴下を繕いながら、ただただ選ぶ選ばれる消費する、まわりの友人に引け目を感じないような駒を進めて、で結局あなたは何がしたいの?そういう、20代半ばのある種通過儀礼的な閉塞感の只中にいた自分の手からも、何かを紡ぎ出す、生み出すことができることに(このときまだ言語化はできていないが)おぼろげな満足感や達成感を得ていたように思う。

縫っても縫っても擦り切れるので、特にいろんな縫い方を試した一足。履き心地はいいんだけどなあ、5年前ぐらいに買ったユニクロのヒートテック靴下。

縫っても縫っても擦り切れるので、特にいろんな縫い方を試した一足。履き心地はいいんだけどなあ、5年前ぐらいに買ったユニクロのヒートテック靴下。

台湾で買って気に入ってる、かぼちゃのような色合いの靴下。穴の修繕と、擦り切れ予防のためのステッチも合わせて。

台湾で買って気に入ってる、かぼちゃのような色合いの靴下。穴の修繕と、擦り切れ予防のためのステッチも合わせて。

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お金を介さないお直しのやりとり
先週末、初回の投稿を見て、ちょうど最近お気に入りの靴下のかかとが破れて困っていたので直してほしい・・と連絡をくれた友人の靴下を繕った。彼女はすみだのご近所友達だけど、だしフォトという屋号で暮らしの機微みたいなものを丁寧に写撮る素敵なカメラマンでもある。三連休最終日の朝、彼女が懇意にしている東向島珈琲に集合してモーニングを食べながら近況報告、そのあとコーヒーをすすりながら私はチクチクとお直しをはじめ、彼女はその様子をパシャパシャと撮影してくれた。お直しと撮影のスキル交換、いわば物々交換である。これは楽しかった。誰かのお直しを引き受けることはやはり、相手との距離をぐっと近づけないといけない行為で、えっとそれは物理的に他人の靴下に私は左手を突っ込むし、心理的にも一定時間、相手のことを考えたり心を寄せたりしないと作業がぜんぜん進まないという理由。なので、私自ら直すものに関しては、お金でない何かをやりとりできる間柄で引き受けていきたいなと、改めて考えたりもした。

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人と集まってチクチクやるコミュニティ
そして本当は、多くの人に自らお直しを習得してほしいし、なんとなく思いつきでやってみてほしい。でもこの適当に思いつきで取り掛かるというのは案外それ自体がかなり難しいので、それで私は細々と繕いワークショップを開催している。お直しをやってみる機会にしてほしいし、なんでその靴下を時間をかけて直してまで、まだ身につけていたいのか、そういう話をポツポツと聞かせてほしい。誰かと集まって、コーヒーやケーキを愉しみながらチクチクやるというのは、本当に心にいい時間よ正直。寒い日のそれはなおさらでで、ありがたいことにこの冬も、うちでやってもいいよとお声がけいただいて10月29日の日中@埼玉、三郷で行われる服窓市というイベントで、カフェ店員としても憧れの東向島珈琲@東京、墨田で11月25日の16時から、それぞれお直しカフェと称して繕いのワークショップをやります。何年も寒い冬を共にしてきた手袋や、祖父母や両親から譲り受けたセーターなど、そういうものにもまた息を吹き込むことができる、そういう術を色んな人に届けたい、そういう営みのコミュニティができたらなと思っています。

〈今後のお直しカフェ/繕いワークショップの予定〉
– 10/29(日) 10:00〜15:00 ※予約不要、ふらりとお越しください
@埼玉県三郷市にて開催の服窓市にて
詳細などはイベントHPから http://www.fukumado.net/

– 12/2(土) 16:00〜17:30
@東京都墨田の名店、東向島珈琲にて
詳細、申込みはこちら

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はしもと さゆり

はしもと さゆり

お直しデザイナー。企画と広報、ときどきカフェ店員。落ちているものとお直し、マッサージとマイケルジャクソンが好き。

Reviewed by
キタムラ レオナ

最近、靴下に穴が開く機会が減った。部活をしていた頃みたく、ボールを蹴っていなからか。大学時代の頃に比べて、歩き回っていないからか。しかし、デスクワークが多い中でも、ふとした時に、靴下に穴が開いていることに気が付くことがある。その穴は、これまで私には「ゴミ箱行き」を示すものでしかなかったが、「直す」人は穴をまったく違う視点で捉えている。「穴を起点に、どこに着地させるか」という、直すプロセスの中である種もっとも興味深い段階についての文章。

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