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2F/当番ノート

お直しカフェ-お直しをする人の溜り場をつくる試み (5)柿渋を仕込む

当番ノート 第35期

こんばんは、おはよう。夜19時に自動投稿される連載の仕組みに合わせて、これまで「こんばんは」としていたが、実際は夜眠くて断念して朝に書いていることも多い。朝の曳舟駅。行くのは今のところ毎回、今年の夏にできた東武の駅ビル(というか小さな通路)の中に入っているタリーズで、駅直結の大病院に隣接したこの新しい一帯は、ほのぼのと薄暗い下町すみだの中では際立って照明がまぶしいし、いかにも白々しい。できたとき、下町ご用達であろう某鉄道会社わかってないじゃんと本当に失望したが、半年と経たずしてこう毎週のように通う格好である。改札も近いし朝7時半から開いてる、1階でガラス張りだからお店を認知しやすいし中の様子もわかる。時短社会にぴったりの、まあここでいいかなというお店、店員さんもコンビニのそれと代わらない、いてもいなくてもいい人たちとのやりとり(ごめん)通勤通学中らしき若く早足な人たちを眺めながら、自分もこう、要領の悪さ隠し切れず、隙間時間の中で何かを書き留める。

何でも主題に繋げて書くのは、こういう連載での悪いあれですが、でも言うなればお直しは、そういった白々しさや、まあここでいいかな感、いてもいなくてもいい人、それっぽさ、無難な高見えコーデ、その他もろもろへのアンチテーゼとして存在しているのかなと感じています。これじゃないとだめだ、あなた達と一緒にいたい、そういう人やものとの関係を、よく観察して手入れする。まぶしいほどの白々しさに、茶色の柿渋を塗りたくる気持ちで、それではそろそろ本題に入ります。

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10月の、ある一週間をかけて柿渋を仕込んだ。柿渋とは(あまり大きな顔で説明できるあれじゃないんだけど)渋柿を発酵させてできる液体のことで、日本では昔から、防腐や防虫、保護のために、木材に塗ったり布を染める材料として使われている。5年ぐらい前に、今も毎週のように録画して見ているEテレ「猫のしっぽカエルの手」の(京都に住むイギリス貴族出身のオーガニックおばあさん)ベニシアさんが、椅子のお手入れに塗っているところと柿を砕いて仕込んでいるところ、あと柿渋を使った染物屋さんの紹介を見て、ずっと手を出してみたいなと思っていた。平安時代から使われるとかいう日本独自の、そして田舎に行けばそこかしこに生えてる柿の木と手間隙さえあれば誰でも作れそうな、生活者に親しまれるお直し材料、柿渋。これは、木に布に、建物や衣服、装飾に幅広く使っていきたいなの気持ちで、夏頃から大工とそれからデザイナーの友人達と話していた。

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柿渋づくりは渋柿の調達からはじまる。9月の終わり、月一回のペースで通っている福島県大玉村で「この週末は柿渋を仕込もうと思う」と私がようやく声に出したとき、剛平さんは「柿渋は7月の柿を仕込まないといけないから今年はもう無理じゃないか」と言った。・・絶望。実は去年も秋の活動が終わったあとに思い出して、ああ来年まで無理だ・・となった経緯がある。(余談だが、村での滞在はひと月ずれると季節がぐんと進んでいるので、毎回毎回の滞在で旬を捕まえるのに結構必死な思いを内心している)そんなこんなで諦めきれないでいると、「私の見つけた柿マップがあるのよ」だか「あそこの渋柿はもいでいいと許可をとっている」だか、大玉村在住農家の浩子さんが、自信満々の様子で柿もぎにつれて行ってくれた。やったー! どうやら少し寒い東北、福島の渋柿は9月末がギリギリセーフのようだ。

浩子さんの家を少し登って、柿ポイントに到着する。柿の木が3本。ここのは採ってもいいという。村の中では、誰かが育てた農作物、柿やざくろなどの果樹、たけのこ、山菜、材木など、採れるときは一度で大量に採れるそれらのものが、都市の市場ルートではない別の道筋で巡っている。おすそ分けしたり、はたまた漬物やスイーツなど保存できる形状に加工したものをおすそ分けしたり、振舞ったり、都会の娘や孫に送ったり、形のいいものは農協に卸したり、少しだけ産直所に卸したり。だからここの柿も、採る年は採るのか、あとで干し柿にするのか、でも今年浩子さんがほしいなら好きなだけ採っていいけどついでに枝も適当に折って剪定しておいてよとか、そういうやりとりがあるのか等と推測してみる。

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大工青島、木に登る「柿の木は落ちたら死ぬよ」と浩子さん。確かに登りやすそうだが折れやすそうでもある、言い伝えは侮るなかれ。一方の私は軍手が見つからず、素手で手の届く範囲の柿もぎ係りに徹する。急に、電気が走ったような強い痺れ。イラガ(とかいう毛虫)に刺される私、となぜか松木くんも続けざまに。咄嗟にゆうきさんがその辺に生えているドクダミを擦り付けてくれるもパニックで半べそ。「ははは、痛みは1時間ぐらいかな」との彦太郎さんの一言に一安心するもテンションはガタ落ち(結局10日ぐらい腫れが残った)すると今度は、一瞬いなくなったキャプテン彦が自作の柿もぎ棒(竹竿の先に釘を打ったもの)を持って再登場。採れる。これは採れる! 適度に枝をかき切りながら、一気に作業がスピードアップしてテンションも回復。用意した袋もみるみる満パンとなり、これが「道具の発見か・・・」(と私)。村での出来事はいちいち新鮮で毎度そうだが、この日もまたわずか1時間弱の間に色んなことがあった・・・ふう。

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東京に帰ったあと、平日の間、大工の道具箱兼の車に放置していた大量の柿を、見かねた施主中村さんが粉砕してくれて漸く仕込みがスタート。中村さんの家、新御徒町から私の自宅、東向島まで自転車でポリバケツごと柿を運び、おすすめされた金子美登「週末田舎暮らしの便利帳」のやり方を踏襲して、発酵の仕込みを行った。ちなみに半分は、そのまま中村さんの家で仕込まれることとなり、なんとなくそのままおすそ分けしたつもりでいる。
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<発酵のようす(グロちょっと注意)>

1日目。ひたひたになるまで水を入れた。

1日目。ひたひたになるまで水を入れた。はっきり言って半信半疑である。

2日目。さっそく発酵したのか炭酸のような泡がブクブク出てきはじめる。

2日目。さっそく発酵したのか炭酸のような泡がブクブク出てきはじめる。変化が早い。

3日目。発酵が進んだ感じ。

3日目。発酵が進んだ感じ。浮き上がっていて、下に水とブクブク(泡)がいる。

4日目。見た目はあれですが、香りはバナナのようで結構いい。

4日目。見た目がだんだんあれですが、香りはバナナのようで結構いい。

5日目。なんちゅうか、カニ玉みたいになってきた。

5日目。なんちゅうか、カニ玉やたまごスープみたいになってきた。

6日目。もはやあまり変わらない。

6日目。もはやあまり変わらない。においは酒。

7日目。水と固形が分離している感ある。そういえば。

7日目。水と固形が分離している感ある。そういえば。

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柿渋はくさいくさいと聞いていたが、ここまで結局あまりくさくならず、そのにおいは完熟したバナナのようでまた、上等なお酒の発酵臭のようでもありました。このバケツを玄関で管理させてくれだ同居人のみなさまに陳謝と、うちに寄ったり連絡などくれたり、朝晩2回のかき混ぜを私が続けられるか心配してくれた友人達もありがとうございました。そして最後の日、ザルで漉して、液体だけを取り出した。りんごジュースのように澄み切った薄い黄色。思いの外綺麗でみんなして驚いた。ボトル2本半分、思いの外少量に濃縮されてしまったので、前述の金子先生の言うとおり、二番渋も仕込んで採取することにした(説明割愛)

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そして、ここから約2、3年寝かすと、赤褐色というか茶色というかになって完成という。ここから2、3年。自分や今回手伝ってくれた友人達がその時、どこに住んで何をしているか、正直およそ検討がつかない訳でもあるが、でもこのたくさんのやりとりを経てできた柿渋が使われるその時に、何かぴったりの素材や現場、お直しされるべきものが待ち受けている気がしてならない。

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おまけ
同じ時期に同じ友人らが施工に取り組んでいた、柿渋を随所に使用した場所があるので紹介します。BUoY 北千住アートセンター 元銭湯とボーリングの2フロアの廃墟を利用したオルタナティブスペースで、地下に劇場と、2階にカフェ、ギャラリー、アトリエ、稽古場などが併設。特に2階部分の木でできたところ、カフェの壁、カウンター、トイレの扉と内装、アトリエに続く大扉、地下から続く壁、いたるところの塗装に柿渋が使われています。「柿渋は木材に浸透しながら表面も覆うところがいい」「色見がいい」「昔から使われているというのはそういうこと」等、大工と建築家の談です。ぜひ実物見に来てください!私もときどきBUoYカフェのスタッフとして店番してます(例えば今週末11/4、5とか!)
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はしもと さゆり

はしもと さゆり

お直しデザイナー。企画と広報、ときどきカフェ店員。落ちているものとお直し、マッサージとマイケルジャクソンが好き。

Reviewed by
キタムラ レオナ

渋柿を発酵させて作られる「柿渋」。
週末に福島県の大玉村で収穫して、1週間かけて仕込んだ柿渋を"材料"になるまで寝かせる期間とは。
ゆっくり寝かせる材料の話を、通勤・通学の人達が急ぎ足で行き交う駅前で書き溜める。
ファストとスローが交差する、はしもとさゆりさんの5話目の記事。

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