ストリートに立つと不安でしかなかった。
依頼を受けても自信がないからだ。本音では皆んな素通りをしてほしいと願ってその場に座って絵の練習をしていた。
それでも依頼は来た。今でも、覚えている。初めの依頼は3人家族だった。まだ幼い赤ちゃんとその両親。依頼を受けたからには自信のあるように立ち振る舞わなくてはいけないと思い笑顔で、そして余裕のある雰囲気で描き始めた。
急に手が震え始めた。
人が見ててもわかるぐらいの震え方だったため、隠すのと上手く描かなくてはという気持ちで、もう余裕など少しも無かった。
ただ絵を描くだけで、こんなにも緊張をし、こんなにも重いものなのかと痛感した。
描き終えた後のお客様の反応が、その絵の価値を生み出す。実際の反応は、少し笑顔だった。まだまだ練習が足りないと思った。絵で感動させたいと思った。絵は人の役に立つ事が出来ると思ったのは、この後からだ。