「あれがホタル?」
「違うよ。あれは電灯の光に照らされた塵だ」。
久我山のホタル祭りに行った。目を輝かせてホタルを探したが、神田川の川面で光るそれはホタルではなかった。(2019.6.16)
6月最後の日記。月に5日〜10日分くらい、自由気ままに日記をつけていますが、去年の7月、8月だけは空白です。
7月。家ではひたすらに眠り続ける生活を送っていましたが、職場では至って明るく働いていました。医薬品売り場の担当を任され、入社したての後輩のサポートをしていました。14時〜23時、または、8時〜23時のシフトの繰り返し。終電間際の電車に乗り、家に着く頃には0時。朝早く起きてまた働く。この頃、仕事以外で人と会うのがしんどくなっていたので、考える時間のないシフトは好都合でした。
残業時間の関係で、17時に仕事を終えた日がありました。小田急線の鈍行でゆっくりと帰ります。まだ明るい景色に違和感がありました。夜遅くに帰る生活がすっかり馴染んでしまっていた。私の生活には、夕日は無くなってしまったのだと気付きました。そして気付いた瞬間、考えないようにしていた、さまざまな思いが止めどなく押し寄せてきました。
ホタルを探しながら、ぽつんと仕事の相談をした日、恋人にはそっけなく「そんなに不満があるのならば、転職すれば」と言われ、もう会うのがつらいと感じたこと。楽しそうに仕事の話をする友人たちに気後れして、なんとなく距離を置いていること。大好きな人たちを遠ざけてしまう日々がこれからも続いていくのだとしたら。
この日はじめて、仕事を辞めなければいけないと、心を決めました。
それからは、悩んでいた時間が嘘のように身も心も軽くなりました。行きたい方向に進めば良いだけだった。7月中旬から転職活動に必要な書類の作成や受けたい企業を探し、下旬から面接を受け始めました。条件はひとつだけ。書いて思いを届けられる仕事。時間の合間をぬって、小さな編集プロダクションを数社受けましたが、8月下旬に内定をもらったのは、唯一、ライター以外の職種を受けた教育系の広告代理店からでした。
面接官は、学生時代に毎日新聞で書いていたコラムのスクラップを読みながら「素敵ですね。この会社にはいろんな部署があります。言葉で伝える力を使って、あなたのやりたいを実現して下さい」と笑ってくれました。
今は営業事務として働いています。業務の幅は広いですが、書く仕事もあります。そしてどこで働いてもそうですが、忙しく悩みも多い。ただ以前のような後悔は、もうありません。
あの夏、闇夜の中で、現実を閉ざし眠り続ける方が苦しくなってしまったから、動くしかなかった。日記にはない空白の7月、8月は、きっと変化の期間でした。
ほたるいか