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2F/当番ノート

北鎌倉の自然につつまれて

当番ノート 第51期

北鎌倉の自然につつまれている。


意識をしなくても、そんな風に感じられる。

一人でいても、都会のコンクリートに囲まれた密閉空間にいた時より、寂しく感じていない。

朝、小鳥のさえずりで目覚める。その日によって聞こえてくる鳴き声は違くて、カラフルな音色が朝から楽しませてくれる。

遠くからは、早くから働き者の電車がゆっくりと走りだす音も聞こえる。

さぁ私も動き出そうかな、と小さなアパートの部屋にしては大きな窓を開けると、朝のひんやりした緑の密度の濃い空気と出会う。

その空気はすぐに体のあちこちへと吸い込まれていく。

あぁ、安心する。

自然に包まれているって、こんなに安心をするんだ。

都会で暮らしていた時、早起きをしようと思ってもなかなか起きられなかったのに、ここでは、その1時間前にもう目が覚めている。

まるで、さぁせっかくのこの朝を楽しもうよ、と体が言っているように。


お湯を沸かして、少しずつ飲んで体を温めながら、ゆっくりと一日が始まる。

体の凝りや疲れが翌朝になっても取れずに残っていた日々、体を整え直したいと始めた朝のヨガも習慣づいていきた。

その日の体の調子と心の状態で、どんなヨガをするか決める。

よし、今日は頭がぼんやりとしていて、まだ眠気が残っているから、目覚めのポーズでゆっくりと目覚めよう。

そう思って、引っ越し後まだ荷ほどきされてないダンボールの横で、ちょっとした空間を整えて横たわる。


そして、体にゆっくりと呼吸を通しはじめる。

胃腸の不調で悩んでいた時、呼吸を体の隅々まで通すと体がぽかぽか温まるし、お腹だって空くんだと知った。

無理してポーズをとるのではなく、今この動きでは体のどこを伸ばして、呼吸を送ってあげることが大切なのか思いを巡らせるようになってから、前よりも体をいたわることができているような気がする。

そして、北鎌倉で暮らしはじめてからは、ここの緑がぎゅっと凝縮されたような空気をもっともっと取り込みたいと体が本能的に求めている感じがする。

空気のきれいな朝を楽しんだ後、パソコンを開いてポチポチと仕事を始める。


太陽が真上に昇った頃、お腹が鳴りはじめた。

そうだ、今日はこんなに天気が良いんだから、まだ散策してないあの辺りをお散歩して、できればピクニックでもしたいな。

すごくいい思いつきのような気がしてきて、

冷蔵庫に作り置きしてあったサラダと十六穀米のご飯を急いでタッパーに詰め、まるで遠足に行く小学生のようにわくわくとした気分で外に飛び出した。

初めて歩く緑に囲まれた道を、気の向くままに歩いていく。

すると、優しい色の石畳が見えてきて、その先は神社につながっていた。

石畳沿いに咲く白いツツジと緑色の木々の向こうには、北鎌倉の山と家々が広がっていた。

神社の入り口から下に続く階段の一番上に腰掛けて、持って来た即席弁当を取り出す。

はぁ。空気がおいしい。ここに来てから食べるご飯もずっとおいしく感じられる。

すぅっと深呼吸をして、眩しい太陽の昇った空を仰ぐ。


仕事で使っていた頭の電源が一旦オフになって、

心のスイッチの方が入ったようだ。

日頃、頭で考えていた難しいことや、もやもやとしたことなんて一切浮かばない。


ふっと思ったのは


あぁ 生きててよかったぁ

シンプルにそう思えることって、生きていてどれほどあるんだろう。

目の前の自然と、おいしい空気とご飯に囲まれているだけで、こんなにも心も体も満たされていく。

理屈ではなく、体全体でありのままを感じているような気がした。

ほんの少し前まで、絶望や孤独感で苦しかったり、トンネルのような暗闇にいたと思っていたけれど、自然はこんなにも温かく受け入れて、自分という一人の人間をつつんでくれている。


生きている

心が喜んでいる

ってこういうことなんだと、噛みしめるように味わいながら、また青空を見上げたら、思いがけず涙が伝った。


今こうして感じたことを、ずっと忘れないでいよう。

いくつもの巡り合わせで、こうして今この環境にいられる。

そんな風に喜びを噛みしめながら、緑につつまれたアパートの部屋へとまた戻っていった。

yuka

yuka

3年前、鎌倉への憧れから、当番ノートで鎌倉旅について綴りました。
そして今、山と緑の多い北鎌倉で暮らしはじめました。
今回は鎌倉に移り住むまでのこと、北鎌倉での暮らしなどについて書いていきたいと思います。

2017年当番ノート『群青色の街』
https://apartment-home.net/author/anny/

Reviewed by
中西須瑞化(藤宮ニア)

> 一人でいても、都会のコンクリートに囲まれた密閉空間にいた時より、寂しく感じていない。

ヨガの呼吸。自分の体に、こんこんとノックをするような感じ。

「自分の身体性を取り戻す」ということについて、ここ数年よく考えている。
自分という存在の不確かさが心細くて、わたしたちは色々な方法で自分を確認しようとしている、と思う。
そこにはやわらかな方法も、鋭利な方法も、きっと色々な方法があるんだろう。

yukaさんの「今日」は、とてもとても穏やかでやわらかな、自分の心身性を取り戻す時間。
だけどそれだってきっと、小さな小さな、「自分への信頼の積み重ね」でできている。

北鎌倉で過ごす何気ない日常。綴られた言葉を追いながら、やわらかな風を吸い込む深呼吸をしたときのような気持ちになっていた。

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