我が家の同居人、妖怪カワウソの話の続きです。カワウソちゃん二回目の登場は、「怖いな」と思う体験でした。
とある夜。まだ22時前に、夫がリビングでうとうと寝始めました。平日ど真ん中だし、23時ごろになったら起こして寝室に移動させよう、そう思ってそのままスヤスヤ寝ている夫を眺めながら家事をしていました。
22時半、夫が自分から目を覚ましました。「ん〜…ごめん俺、話してる途中で寝てもうたな、ごめんな〜」とムニャムニャ言いつつ覚醒したのを確認すると、律儀な夫に愛おしさが湧きます。夫の側に行き、顔を覗き込みながら笑顔で声を掛けました。
「おふとん行きますか〜?」
自分でも甘ったるいなと思う猫撫で声で夫に話しかけます。と、夫は身体をビクンと大きく揺らし、震えながらわたしの顔を凝視しています。
え、と思う間もなく、夫は慌てて立ち上がり、トイレに駆け込んでしまいました。
夫を追いかけてトイレに行くと、電気はついているけれど使用している様子はない。これはおかしい、とドアの外からなるべく優しい声で声を掛けます。「大丈夫?どうしたの?」「何かこわかったかな?ごめんね、大丈夫?」ドアが、ゆっくり少しだけ開かれます。ホッとしました。夫は、絞り出すように話し出します。
「……なあ、本当にオオタケ……?」
言葉の意味がわからず、ただ安心させたくて「オオタケだよ!夫のことがだいすきなオオタケだよ!」と返事をします。夫はこちらを怯えた目で見つめながら続けました。
「……さっき、オオタケの顔で俺の顔覗き込んで、低い男の声で『飛行機が、二機』って言うたの、アレ、誰……?」
これも、「カワウソが声真似失敗したんだね!ほら、日本語がめちゃくちゃだから!」と笑い飛ばしてなんとか夫をトイレから出したものの、薄ら寒いものを感じていました。
こんばんは、オオタケです。
唯一の怖いカワウソチャンの体験談から始まってしまいましたが、今回はカワウソチャン祭りをしようと思います。数が多すぎるので、自分の中で印象的だったものをお話し出来ればいいな。
それではちょっと変わり種をひとつ。これはちょっとすけべなので、苦手な方はバックしてくださいね。
ある年のゴールデンウィーク初日。連休に浮き足立った我々夫婦は、日中から寝室に飛び込みました。
気温の高くなってきた5月、布団を被りながらのぶつかり稽古に勤しみ、終わった頃には二人とも汗だく。「いや〜、汗かいたね!」「シャワーでも浴びようか!」「そうしよう!」二人で風呂場に向かいます。
浴室に入って、優しい夫がシャワーを浴槽に向けてお湯の温度を調整してくれている時。わたしは壁にもたれてぼんやり過ごしていました。すると、こちらに背を向けた夫が唐突に、
「良かった?」
めちゃキメキメのええ声でそう話し掛けてきます。え、感想、今のタイミング!?ちょっとびっくりしながらもすぐ、
「めちゃくちゃ良かったよ!サイコーだったよ!!!」
明るい声で夫に伝えます。すると、夫はこちらをバッと振り向き、困惑した表情を見せます。
「え、何?何が良かったって?」
「え?いや、今夫が『良かった?』って、さっきの感想聞いてきたからその答え……」
夫は、そのまま風呂場の床に崩れ落ちました。
「俺、そんなこと、言ってないよお〜〜〜」
そのまま夫は泣き始めてしまいました。
感想戦、というお話です。
「怪異」と「性」って真逆なところにありそうで、もろに両方を撃ち抜いてきたので、わたしは大変面白いなと思う体験でした。
印象的だったのは、夫はこの体験を「とても怖い」と言っていたことです。「だって、学習してるやん」と。「状況や言いそうなことを学習して、こちらにどんどん合わせてきてるやん」
最後に一番最近のカワウソチャンの様子をひとつ。とある週末、朝ごはんが終わった後でした。
トーストを食べた後、パンが少しだけ残ってしまいました。夫とどうしようねえとキッチンカウンターの中で話している最中、わたしが「まあ、チーズ乗せて焼いて、おやつに食べよっか〜」とチーズの残りを確認すべく、夫に背を向けて冷蔵庫に向かおうとすると、背中から夫の声で
「え……チーズ乗せて……焼くん……?」
と、か細い不安げな声が返ってきます。我が家ではチーズトーストは定番のおやつです。
あれ、なんかおかしいな。これはもしかして…
「チーズ焼くの嫌なん?」
「なにそれ、チーズ乗せて焼くの美味いやん」
夫に声のことを話すと、「言うてへん言うてへん、またか〜カワウソ〜」と、ほっこりした休日が始まったのでした。カワウソ的には、チーズ乗せて焼くのってそんなに異文化だったのかな、と思うと、かわいらしくて思わず笑ってしまうのでした。