当番ノート 第51期
自分は、どこで、どう生きていきたいのか。 その言葉は、その頃よく聴いていたラジオのパーソナリティーの女性が発した言葉だった。 自分はどう生きていきたいのか、は なんとなく考えるようにはなっていたけれど、 どこで というのは、そこまではっきりと考えられていなかった。 ただ、京都の里山に行って以来、近い将来自分は自然に近い場所や、自然と共にあるような生き方をしていくのではないかと感じていた。 そんな気…
当番ノート 第51期
昨年の夏、新卒で入った職場を半年で辞めた。 今では「そういえばそんなこともあったな」という感じで受け止めているが、これをあんまりよく思わない人も一定数いると思う。私自身は、退職したことを全く後悔していないどころか、むしろ成功体験として捉えている。この感覚はおかしいでしょうか。そんなことないと思いたい。 「何が理由なの?」と聞かれても、納得させられるような返事をすることが今もできない。何人かの親しい…
当番ノート 第51期
小学生の頃、兄の影響で昆虫を恐れていなかった私は、近くの公園にいたトカゲをこっそりと手の中に入れて家に帰った。 「ただいま、ママ見て! トカゲいたの!」 母は「かわいそうだから放してあげなさい」と言って、私にトカゲを飼うこと許してくれなかった。トカゲは可愛い顔をしながら、私の手の中でくるくると歩き回り、手のひらをくすぐる。 落ち込みながらマンションを降りて公園に戻ったが、地面に置いても逃げていかな…
当番ノート 第51期
みなさんお元気ですか?連載をはじめてから、1ヶ月が経ち、7月になってしまいました。あっという間です。 7月というと、夏のイメージがありますが、例年ようやく猛暑がくるのは下旬で、上旬の天気は荒れています。じめじめとしていて、重苦しい。さっき飲んだ頭痛薬は全然効き目を感じられないし、髪の毛は広がって、アホ毛だらけ。1年の中で苦手な時期です。 今まで過去を振り返ってきたので、今回は現在の状況について書き…
当番ノート 第51期
そのアトリエを見つけたのは、偶然だった。 いや、もしかしたら直感的に今の自分に合う環境を嗅ぎ分けて、選び抜いていたのかもしれない。 東京 絵画教室 で検索すると、都内に数校展開しているような中規模な教室から、個人の画家が自宅で開いているような小規模な教室まで、色々な教室が数多く存在していた。 その中で最初に見学に行った教室は、 ホームページの様子からちょっとおしゃれっぽくて、初心者でも…
当番ノート 第51期
夏が近づいている。晴れの日の朝は、カーテンの隙間から日差しが差し込み、起きると首回りがベタついている。 起きる時間の三十分ほど前からアラームを設定し、十分おきにアラームが鳴って、それを解除する動作を繰り返してようやく起き上がることができる。本当ならばもっと寝ていたい。餃子型のクッションに顔を埋めて「うぅ」と唸る。起きてから、家を出るまでの間は最高に仕事に行きたくない。 社会の歯車になってしまうこと…
当番ノート 第51期
家から数メートル先に、町のたばこ屋があった。重い引き戸をガラガラと開けて「すみませーん」と声を大きめに張ると、まばらの大きさの丸い木がぶら下がっている玉暖簾をかき分けて、「はいはい」と面倒臭そうにおばあちゃんが出てくる。 ある日、奥から出てくるのが中年の女性に変わった。一言も発さずに、お金を受け渡す。彼女を声を聞くことはできなかった。 玉暖簾の奥を見ると、奥に仏壇が見える。きっとおばあさんは亡くな…
当番ノート 第51期
「あれがホタル?」 「違うよ。あれは電灯の光に照らされた塵だ」。 久我山のホタル祭りに行った。目を輝かせてホタルを探したが、神田川の川面で光るそれはホタルではなかった。(2019.6.16) 6月最後の日記。月に5日〜10日分くらい、自由気ままに日記をつけていますが、去年の7月、8月だけは空白です。 7月。家ではひたすらに眠り続ける生活を送っていましたが、職場では至って明るく働いていました。医薬品…
当番ノート 第51期
絵を描くことに出会った頃、初めてかかった胃腸の病気の病み上がりだった。 医者からは軽度だからと入院せず自宅療養をしたが、数日間の絶食と数週間の流動食生活はなかなか堪えた。 何よりも、病気になってからは体質が根本から変わりはじめていて、 それまで食べていたものを受け付けなくなっていた。 おいしいと思って連日買っていた職場近くの弁当屋の定食が、おいしく感じられなくなっていた。 添加物の入ったお惣菜のお…
当番ノート 第51期
「好きな人がいると元気が出る」 仕事をしていると、時々素敵な言葉に出会う。たまに激しい言葉に出会すが、大体は丸くて柔らかい言葉たちだ。 私が働いているのは、精神障害がある方が暮らすグループホームだ。六名〜八名が一つの施設で共同生活を送っている。四施設を兼務し、関わるメンバー(精神保健分野では、利用者のことをメンバーと呼ぶことが多い)は二十四名にものぼる。下は二十代から上は八十代まで、建物もマンショ…
当番ノート 第51期
マンションの7階のエレベーターを押しても、7階には止まらず知らない階まで行ってしまう。降ろされたフロアには、私の知らない世界が広がっていて、お母さん、と小さな声で泣きそうになりながら、一生懸命7階まで階段を降りる。 702号室までやっとの思いでたどり着いて、チャイムを鳴らすと、出てくるのは知らない人で、怖くなって、お母さん!と泣き叫びながらマンション中を探す。 小さい時から、何度もお母さんを探す夢…
当番ノート 第51期
雨の日が続きます。去年、出口のない6月を過ごしてから、1年が経ちました。深い梅雨の中で溺れていた。ここから2週間は少し苦しい話にお付き合いください。 去年の6月、地方の大学に進学したはずの妹が、都内にある実家に帰ってきました。入りたての大学を退学すると言うのです。「本当は叶えたい夢があった。自分の気持ちを無視して、4年間、違う勉強をし続けることはできなかった」それが妹の言い分でした。家族は何も否定…