当番ノート 第50期
アパートメントに入居しました、中野目崇真(なかのめそうま)といいます。 最も長く続けてきたことは、3歳から始めたタップダンス。表現にすることもあれば企画にすることもあります。2016年頃からはジャンルとフィールドを広げながら音を基軸に音楽へと昇華させたり、文脈を描いたり写真に納めたりもしています。 考えと思いを文章にして伝えることがとても苦手なので癖がでてくる場合もありますが、捉えにくいところがあ…
当番ノート 第50期
思いがけず、6年ぶりにここで書くことになった。前回も同じ4月頭に始まった。今回は前回より7日だけ早い4月1日から。東京の桜はもう盛りを過ぎてしまっただろうが、やはりこの日から春が始まる感じがする。4月はそんなワクワクドキドキ感があるのが良い。 いやー若いな、6年前の自分笑。ざっと6年前の記事を見返した。考えている事に大きな変化はないかな。ただ、変わった部分もあるのだろう。人は変わる、成長し、退化し…
当番ノート 第49期
あなたは静かにそこに立ち 入れ替わる季節を眺めている 失うべきではなかったものをあなたの口に詰め込んだら破裂する静けさの中、あなたはわたしに背を向けてただひとりで生きている。(ように見えた、とても。けれどそれは間違いでもあった。) / 透けた日差しから明日が始まり 日々が少しずつ積み重なって綴られていく / 花束をください。両手たくさんの 持ち合わせなかった温もりを あなたがわたしへわたしがあなた…
当番ノート 第49期
世界がすこしずつ混乱しはじめて、しばらく経つ。年明けにはアメリカとイランの間で戦争がはじまるかもしれないとざわめいていたのに、そんな雰囲気はどこか遠くへ。SNSでは真偽のわからない情報があふれ、何を信じればいいかもはやだれにもわからない。 ここで暮らしのノイズというエッセイを書き始めた先月から、世の中は大きく変わっていった。 この雰囲気をもって思い出すのは、東日本大震災のときのこと。毎年3月11日…
当番ノート 第49期
死んだことないくせに「死にたい」ってどういうことなの。 *** 気づいたら、生まれていた。生まれたいと思って生まれた覚えはない。だから、死ぬときも同じ。死にたいと思って死ぬわけではない。反対に、死にたくないと思っても、死ななくてはならない。生きているものはすべて「生まれて死ぬ」という同じ形式を踏んでいる。 人は、死ぬより生きている方がいいと思っている。だから「命を大切に」とか「生きていればなんだっ…
当番ノート 第49期
うつくしいものだけが子どもを産める世界であなたがわたしに口付けをする うつくしいものだけが生命維持を許される世界でわたしはあなたにメスを当てて二重のまぶたを作り上げる うつくしいものだけが溢れた街中でわたしは皆と同じに見えるようおんなじワンピースをきて回転する わたしはあなたを殺めました それは裕福で幸福であっただろう時間だとか年齢だとか若さだとか知識とか知性とか理性とか本能とか性欲とか前向きな心…
当番ノート 第49期
6時間28分。ある日の日曜日、スマートフォンに表示された「一日の使用平均時間」だという数字に、わたしはとてもおどろいた。じぶんのなかでもそこまで利用している感覚はまったくなかったからかもしれない。 この時季はいつもなんとなく調子がわるい。新社会人や新入生があふれ、みんながまっとうに見えて、じぶんはどこか、べつの星から来た人なのではないかとおもう。どこかに属することをできるだけ避けてきた人生が、とん…
当番ノート 第49期
「みんなと違って個性的」って、生まれた瞬間から、あなたは他の誰でもない。 *** 「個性的だね」とときどき言われると、どう反応していいかわからない。「どういうこと?」と訊き返すと、「他の人とは違う」とか「大勢の人々とは違う方向を行っている」とか「平凡じゃない」みたいな言葉が返ってくる。 わたしは他の誰とも違う存在である。その言葉をわたしに投げかけているその人だって、同じく他の誰とも違う。「大勢」の…
当番ノート 第49期
例えばふたり同じ共通言語を持つこと、同じ曲を口ずさむこと、同じ音域の鳴声でささやきあうこと、体温がひとつに溶け合うこと、ありきたりな単語ばかりが思い浮かんでは消えて淡い湯加減のままほんわり消え去ってしまうこと。 わたしの感情をそのまんま、そっくり普通の、なんでもないひとびとの、大勢大多数の、なだからかで豊かで、ゆっくり落ちてくる流れ星のような、つるりと剥けた茹で卵のような艶々しさを、そんなきっと、…
当番ノート 第49期
わたしは花の名前をあまり知らない。その理由にはなんとなく心当たりがある。小さいころから、道を歩いていたりして名前がわからない花を見かけたとき、いつもそれを教えてくれる母や祖母がいたからだろう。 教わった一つひとつをきちんと覚えようとしなかった。心のどこかでまた聞けばいいとおもっていたのかもしれない。聞き覚えのある花と実際の名前を一致させていただけ。 わたしは金木犀の匂いがどれなのかも、いまだによく…
当番ノート 第49期
「気づいてあげられなかった」「助けてあげられなくてごめんね」とか言われると、「いや、別に結構ですけど……」ってなる。 *** 「してあげる」という言葉が苦手だ。「駅までついでに車で送ってあげるよ」とか「時間がないなら買っといてあげるよ」とかはいい。素直にありがたいと思う。苦手なのは、「気づいてあげる」「助けてあげる」「考えてあげる」「わかってあげる」という類。 「苦しんでるのに気づいてあげられなか…
当番ノート 第49期
わたしはあなたが朽ちていく生き物だということを許せない 許せないというのは愛せないことに似ている わたしの中にある渦みたいな血の塊 毎月毎月排泄される / 「わたしを貶めないでください」 「わたしを壊さないでください」 / 愛せない匂いというものがあります 甘いハニーミルク 頭皮の香り 熱されたアスファルト 燃やされた髪 そんなものたちも逆さまから見たら愛されるべきものなのかもしれない / 「可愛…