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010 往復書簡

ギャラリー・カラバコ

今日ですべての額縁が埋まる。
うめる、という言葉はなにか空洞のようなものを、そうでないもので満たすことだ。

この鍵を持っているのが私だけだとしたら、「ギャラリー・カラバコ」の観客はわたしだけであり、
ふたつの作品がここにあるのも、この絵とこの文のあいだでどういうことだろうなあと考える私がいるからなのだろうか。

わたしは空っぽのこの部屋に入って、今まで考えたこともないようなことを考えてる。
それって空っぽだった今までなかった何かに、私が考えたことがうめられて、新しい世界ができたってことかな。

埋めるって何かを隠したり、見えなくしたりするような感じがするけど、それで世界ができるって面白い。
ここの鍵だって冷たいし、この部屋も静かだし、わたしはいつも黙ってこの絵と文を見てた。
鍵を受け取って、ここに来る。
絵と文の間を行ったり来たりしてこの空間であやとりをする。

わたしと「ギャラリー・カラバコ」の往復書簡は、これでおしまい。

〈前回までの展示〉
『縫い目』
『つむじ』
『鏡』
『耳鳴り』
『植物園』
『刺繍』
『ノコギリ』
『発酵』
『ラフカディオ・ハーン』


「往復書簡」

OS1

OS2

絵: 古林希望

文: カマウチヒデキ

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共通のタイトルだけを手がかりに2人の作家が絵と小説を別々に制作し、掛け合わせていく企画「ギャラリー・カラバコ」。
第二回目の展示もこれで終了しました。
ギャラリーの鍵が、またどなたかのポストに入れられることがあるのか…それはいつかのお楽しみに。

Exposition Past              :Exposition Upcoming
01 桟橋                  :Getting Ready….
02 物差し
03 帯
04 時化
05 吃り
06 影絵
07 隠者
08 ウミネコ
09 うぶすな
10 蟹
「ギャラリー・カラバコ」あとがき対談 2017

古林 希望

古林 希望

絵描き

私が作品を制作するあたって 
もっとも意識しているのは「重なり」の作業です。

鉛筆で点を打ったモノクロの世界、意識と無意識の間で滲み 撥ね 広がっていく色彩の世界、破いて捲った和紙の穴が膨らみ交差する世界、上辺を金色の連なりが交差し 漂う それぞれテクスチャの違う世界が表からも裏からも幾重にも重なり、層となり、ひとつの作品を形作っています。

私たちはみんな同じひとつの人間という「もの」であるにすぎず、表面から見えるものはさほどの違いはありません。
「個」の存在に導くのは 私たちひとりひとりが経験してきた数え切れない「こと」を「あいだ」がつなぎ 内包し 重なりあうことで「個」の存在が導かれるのだと思います。

私の作品は一本の木のようなものです。
ただし木の幹の太さや 生い茂る緑 そこに集う鳥たちを見てほしいのではありません。その木の年輪を、木の内側の重なりを感じて欲しいのです。

カマウチヒデキ

カマウチヒデキ

写真を撮る人。200字小説を書く人。自転車が好きな人。

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