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3F/長期滞在者&more

野を焼く

長期滞在者

関西に生まれたのでアンチ・ジャイアンツなのはデフォルトだとしても、小学生の頃から関西標準の阪神タイガースにも目もくれず、ロッテオリオンズ(当時)のキャップをかぶり、長じては南海ホークス(当時)のファンになった。
ソニーのウォークマン(もちろんカセットテープの時代だ)ではなくAiwaやAkai製を愛用し、大人になっても電化製品はすべてナショナル(当時)を避けた。
とにかく「その世界で一番」というものが嫌い。小学生の頃から通底しているところが我ながら立派だと思う。
なので写真をはじめたとき、調査不足で(わけあって急に飛び込んだ世界だった)最初に買ったカメラがニコンだったことが今でも痛恨事である。もっと調べていたならば必ずやオリンパスやペンタックスを買っていたはずだ。
デジタル化によって機材の刷新を迫られたとき、シグマの一眼レフを選んだ。詳しくは説明しないが、他社のものとは全く違う形式のセンサーを搭載し、反射神経を捨てて解像力に特化したカメラである(販売台数はおそらく笑っちゃうくらい少ない)。
こういう「標準でない」感こそが目的なのであって、実は別に「解像力番長」的な写真を撮りたいわけではない。いろんな意味で非常に効率の悪いカメラなのを、意地で痩せ我慢的に耐えている。実際不便である。
しかし、もうこれはそういう性格なのでしかたがないのである。

こういう自分の性癖を、単に一番目のものに対する「アンチ」なのだと思っていたが、よくよく分析してみるに、どうやら僕はとにかく「きちんとする」ことが嫌いなのだ。
きちんとニコンを買う。きちんとナショナルの冷蔵庫を買う。きちんと大学を卒業する。そういう「きちんとする」が苦手。

その場その場の磁場のようなものが要求する標準的な立ち位置、というものに、とにかく立ちたくない。
理由はない。磁力を避ける性癖であるとしか。そして、磁力を避ける性癖を持つ人間は、同種の人間を敏感に察知する。そういう性癖は「見える」のである。
二十代前半、とある飲食店で働いていた頃、厨房で先輩Hさんが雑談で「その人が二十歳のとき成人式に出たか出てないか絶対に当てられる」と言った。その店は音楽系や美術系の人間が多く働いていたから、一般的な職場より(外見上)トンガッた人が多い。しかし外見上のそういうのではなく「成人式に出たか出てないか」は性分としての「社会とのスタンスのとりかた」の問題であって、それは往々にしてその人の外観を裏切ったりするものだ。どんなパンクな外見でも、案外みんなちゃんと成人式に出席していたり。
Hさんは僕を指して「カマウチは絶対出てない」と断言した。たしかにその通りである(笑
言われてみれば僕にもわかった。同じ磁場の避け方をする人間はすぐにわかる。もちろん先輩Hさんも、確実に僕と同種の人間なのである。

ただ、そのとき、Hさんにも見通せない人が一人いた。T君である。
「社会的スタンス」の問題ではなく、ほかの理由で成人式に参加しなかった人である。磁場がどうとか、そういう話ではない。どう考えても「きちんと」成人式に参加しそうなタイプのT君が「行ってない」というので、理由を聞いたら

「めんどくさかったので」

という。

「めんどくさい」。
思想信条でもなく、立ち位置の問題でもなく、「めんどくさい」。
磁場だの社会的スタンスだの、そういう小理屈を吹き飛ばす風圧を持っている。おそるべき理由である。
この理由の破壊力には勝てない。すべてを焼け野原にする。

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カマウチヒデキ

カマウチヒデキ

写真を撮る人。200字小説を書く人。自転車が好きな人。

Reviewed by
藤田莉江

良い意味で毒にも薬にもならない小話、というのが、わたし個人は好きである。
活字を読むことが相当に好きだった過去。
なかなか時間をとって向かえない今。
活字を読んだ方が良い、読むべきだ(というか、読めば面白いと知っているし)と思いながらも、そうするに至れていない毎日。

そんな中、興味を誘いつつライトに読み進めさせてくれるこの類のコラムは、例えるならコンビニのサラダ的な役割をしてくれる気がする。

カマウチさんのコラムは、読むことが好きだったけれど今はなかなか読めていないという人に、抜群に効くと思うのです。

不摂生な食生活、ならぬ活字の不摂生を自覚している者への活字的ビタミン補給に、是非。

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