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Mais ou Menos #18 —裏でも表でもないわたしたちの往復書簡ー

Mais ou Menos

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Pちゃん

東京での生活も、もう10日を過ぎましたね。毎日一緒にいるけれど、実際のところどう?わたしは新生活に大分慣れてきたし、二人での生活がまた始まって、日々楽しんでいます。仕事に向かうPちゃんを見送りながら、はやく帰ってきてねといつも祈っているよ。まだ仕事が決まっていないのが今は不安だけれど、まぁすぐに決まるだろうと、気楽に考えることにします。

半年近く離れていたから、正直なところ以前と同じように生活できるんだろうかって少し心配していました。だけど、意外と大丈夫そうで一安心しています。もちろん、変わった点もある。前よりも家事に積極的に参加してくれているところとか、以前よりものを持たないようにってなっているから、買い物に対してもかなり慎重になっているよね。頑張って倹約してくれているのも感じます。家事に関しては、洗い物をすぐにやってくれているので、台所が常に綺麗で助かっています。

あと、やっぱりひとりのときよりもご飯が美味しいよね。ひとりでいたときは、面倒だったりすると適当にしてしまうことが多かったけれど、一緒に暮らすひとがいると美味しいご飯を作ろうっていう気持ちになるから、日々頑張れます。美味しそうに食べてくれる姿をみるのは、二人暮らしの楽しみの一つです。

眠るとき、隣にいてくれるのも安心する。離れていたときは、もしいま地震が起きたらどうやって会いに行こうとか、四国に津波がきたらどうしようとか、もしいま自分が突然死んでしまったらとか、怖い想像をしてしまったりしていたけれど、いまは近くにいるのでなにかがあっても大丈夫っていう気持ちです。なにもないのが一番だけどね。

もう大分暖かくなってきたし、もう少し生活が落ち着いたら、もっと東京散策しようね。行きたいところも、会いたいひともたくさんいるから、二人でまた少しずつやりたいこと、貪欲にやっていこう。仕事でも、もっとたくさん成長できるといいね。そのためにも、今後とも力を合わせて頑張っていきましょう。

どうぞよろしく。

追伸 
来月は、怪談聞きにいきたいです。Bunkamuraの浮世絵展もみにいこうね。

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2016.04.12

まちゃんへ

やっと帰ってきた。
そして、すぐに始まった新生活。バタバタしている間にようやく、家も少し片付き、落ち着いて、テーブルでお酒が飲めるようになったね。
東京へ引っ越す際に、家を二人で探しに行ったやん?あの時のこと、自分は一生忘れないと思う。自分はマイノリティの当事者ということはわかっていて、もう重々承知しているつもりやったのに、やはり、差別されるというか排除されるとつらいな、と改めて感じた瞬間でした。血縁関係にないから一緒に住むことを断られたこと、すごく理不尽に感じた。結婚して法的に血縁関係のある人の繋がりがどれほど強いもんなのか、実際に見せて欲しい。

なんやかんやあったが、まあ無事に家も借りられて、仕事も始まり、何とかこちらでの生活が動き始めたことはすごく嬉しいです。
何よりもまたまちゃんと共に生活を歩めることが一番嬉しいです。二人でご飯を食べて、買いもん行って、お酒飲んで、ささやかだけど、それだけで、幸せです。前よりも積極的に生活のことを考えるようになり、やっと、自分だけの足で歩いている気がします。もちろんたくさんの人に支えてもらっているんやけど、まちゃんと自分がやっと二人で自分たちの生活を手に入れた、そんな気でいます。

仕事は大変になってくると思うけど、一緒にいたら何とかなるやろ。こちらでもたくさん飲んで、たくさん遊んで、勉強して、好きなことして生きたいです。
いろいろな人にも会いたいし、いろいろ見たいし、やりたいこと盛りだくさん!楽しもうね。

P

Maysa Tomikawa

Maysa Tomikawa

1986年ブラジル サンパウロ出身、東京在住。ブラジルと日本を行き来しながら生きる根無し草です。定住をこころから望む反面、実際には点々と拠点をかえています。一カ所に留まっていられないのかもしれません。

水を大量に飲んでしまう病気を患ってから、日々のwell-beingについて、考え続けています。

PQ

PQ

ゲームと映画が好きです。
国籍も性別もない。

Reviewed by
西尾 佳織

先日読んだ本で上野千鶴子さんが、夫婦別姓に賛成か? という話の流れで、
「別姓だろうがなんだろうが、要するに異性愛のカップルに法的な特権と経済的な保護を与える、という制度そのものがナンセンスやからやめなはれ、と。で、異性のカップルで、二人で末永く仲良く、お互いにルール破りをしないで、一穴一本主義でやりたい人は趣味でやったらよろし。そんなものに法的な届け出や保護を求めなさんな、ということですね」
「自分の性関係をいちいち、なんでお国に届けなあかんのや。これから一生この人とだけやります、とか、キャンセルしました、とか、なんで言わなあかんのよ、あほらしい」
とおっしゃっていて、大変明快だと思った。

結婚というのは制度であって、人の心や繋がりとは別の都合で運営されているものだ。
国家にしてみたら、戸籍や財産を管理したいわけで、今のところは血縁を基準に民のことを統べるのが合理的ということなのだろう。

だけど血って一体、なんだろう?

先日「オマールの壁」というパレスチナの映画を見て、混乱した。
パレスチナ人は(つまりアラブ人は)褐色の肌をしていると思い込んでいたのだけれど、思っていたより白かった。
というか、白めの人もいれば、茶色めの人もいた。
人の肌の色の話をすることのナンセンスさがわかった。
「だって、白は白だし、黒は黒じゃない。どうしてそのことを口にすると差別的ってことになるの? ある事柄に触れないことの方が、何かがおかしいような気がする」というようなことを思っていたのだけれど、そうではなくて、そのことを話しても何も話せない。単純にナンセンスなのだ。

あともう一つ。
ちょっとネタバレになるけれど、その映画の中でパレスチナ人の主人公が、パレスチナ人のフリをしているイスラエル人に騙されて同胞だと思ってしまう、という場面があった。
「お互い面と向かって話してもわからないんかーい!」と思って、自分の中の〈民族〉という概念がグラグラになった。


……Pちゃんとまちゃんの生活から、だいぶ遠くに来てしまった。

思想は、今この瞬間の苦しみからは少し離れた場所にある。
何かが起こって、そこから、どうしてそんなことが起こるのか、今後どうなっていったらいいのか、考える。
だけどどんなに思考をつむいでも、二人がそのとき目の前の人に退けられた感触を、なくせない。
既に起こっ(てしまっ)たことの上に、言葉が積み上げられていく。

Pちゃんとまちゃんが二人でよかった。
美味しいご飯を食べて、お酒を飲んで、新しい生活が豊かな日々になりますように。

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