当番ノート 第53期
まだ「美」について確かな感覚のないきみは、まつげの量や眉の形や唇の厚さなどどいうものを全てすっ飛ばして、わたしに似たがる。美人になりたいとか大人になりたいとかそんな動機は抜きにして「ママがいい」と言う。 年に何度かしかないお父さんのお迎えで、保育園の先生に悪気もなく「あら、お父さん似だったんだね」と言われたきみが、金切り声をあげて拒んだと聞いた時は涙が出るほど笑ってしまった。 同時にふと思った。ど…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
前回に書いたように、場を持つにあたって、そこに固定されたコミュニティができてしまうのがもっとも怖かった。お互いに親密な決まった顔ぶれが場を占めるようになると、はじめて来た人を仲間外れにしてしまう。 「しょぼい喫茶店」、特にわたしの営業に来てくれる人は、だいたいがインターネットで情報を得てやってくる。馴染みのない土地のはじめて入る店までひとりでやってくるのは怖いし、そのうえしょぼい喫茶店の入り口はド…
Do farmers in the dark
今月も娘と出かけた事をやっとの事で書いています。いつも来月こそはちゃんとやると言って今月も何もやらずみすみません。ではよろしくお願いします! 〈1〉散々な日々 散々な日々、散々な日々だよ。相変わらずラッキーな事ばかりだけども、ただ何となく悲しい。寒くなってきたからだ。寒いと悲しい。最近でいちばん楽しかった事は夢の中で赤黒いひまわりみたいな顔をした悪魔が途方もなく面白い事を言った事だ。 日本語ではな…
当番ノート 第53期
ヘルシンキ・ヴァンター空港は乗り継ぎで通過するだけだったし、早朝に営業している店もあまりないだろうからと思って、ターミナルに何があるのか調べていなかった。トランジットの手荷物検査を終えて、ターミナルへの扉が開くやいなや目に飛び込んできたのは「味千ラーメン」だった。店は閉まっている。みやげ店の列の中で、皆と平等に店名のサインだけが営業している。 ここはヘルシンキ・ヴァンター空港。 オーロラ、ムーミン…
長期滞在者
未来が明るいものだと信じて生きたわけでは決してないけれど、だからといってやさぐれた気持ちで生きてきたわけでもない。 ただ今月は、どんどん視野が狭くなっていくような気持ちがして怖くなるときが何度かあった。 どうにもならない、逃げ場のない感覚。 友人と会って、能を鑑賞して、食事をしながらなんとなしに喋る時間があると、その薄暗い感覚が和らいでいくようだった。 やっぱり、人と会わない、外の世界に触れない、…
当番ノート 第53期
2年程前から、現在気仙沼に2軒残る銭湯の一つ「友の湯」に複数のメンバーで関わるようになりました。オーナーの小野寺学さんが気仙沼に帰郷後、震災後にお母さんから経営を引き継いで営業されている銭湯です。建物や配管設備などは老朽化しているものの、それが逆に良い味となっていて、地元の方や観光客の方に愛されている町の銭湯。 2年前の2018年11月26日は、「いい風呂(1126)の日」として、お客さんが入浴し…
当番ノート 第53期
前回は、私の恨み節に相当な文字数を割いてしまい、Uの人間性についての説明がかなりざっくりとしたものになってしまった。とはいえ、彼女が優しさと芯の強さを併せ持つ人であることは、何となく感じていただけただろうか。 もちろん、それだけでも魅力的である。しかし、それだけの人であったとしたら、彼女と私が仲良くなれたかと考えると、どうだろうかと私は首をかしげてしまう。少なくとも私は「素敵な子だなあ」ぐらいにし…
当番ノート 第53期
2010年、留学のために訪れてから何度もロンドンに行っているのだけれど、もうここ数年は行くことができていない。このことが残念でならない。最後に行ったのは3年ほど前になるだろうか、まとまった休みが取れたのでしばらく過ごしてみることにした。 少しの間行ってきます、という話を知り合いの編集者としていたら、ああ、じゃあついでにイギリスのネタで雑誌のコラムを書いてくださいよ、ということになってしまって、遊び…
当番ノート 第53期
雨の音が好き。ぱちぱちと花火みたいな音もあれば、ぽつぽつとボールペンの走るような音もある。 わたしが小さかった時、ブラウン管の砂嵐のざあざあという音を「雨の音みたい」と言ったら、わたしのお母さん、つまりきみのおばあちゃんに褒められたんだけど……そうか、そもそもきみはブラウン管の砂嵐を知らないか。 「耳がいい」と言われその気になった流れで、同じマンションの大学生のおうちでピアノを習い始めた。でも10…
当番ノート 第53期
『ペルシャ猫を誰も知らない』は現代のイランのインディロックシーンを描いた稀な映画だった。ロック、メタル、ヒップホップといった西欧の音楽の演奏の許可が下りないイランで、地下室や、農場や、工事現場で密かに鳴らされていた音楽を世界に開いた。 バンドマン役で映画を主演したアシュカンとネガルは実際にイランで音楽活動をしていたが、映画の撮影直後にイギリスへ亡命している。映画の撮影は当然ながら政府の許可を得てい…
当番ノート 第53期
八日町商店街にある亀屋商店さんは陶器などを扱ううつわ屋さんです。元々船乗りだった店主さんが結婚後、奥様の家業であったうつわ屋さんを継いでいます。食器などを販売する店舗部分の入り口は上の写真の奥の部分にあるのですが、手前側が打ち合わせスペースの入り口となっていて、その独特さにみなさん驚かれるだろうと思います。 ちなみにこのテーブルの脇に店舗部分への通用口も設置されていて、かめこやさんは店舗にお客さん…
当番ノート 第53期
小学校の入学式で初めて目にした同級生・Uの姿は、幼い私には別世界の住人のように感じられた。日に透けると赤みを帯びる柔らかそうな長い髪、白い肌、整った目鼻立ちにすらりと伸びた腕と足――平たく言えば美少女である。比喩としては陳腐だが、「こんな人形みたいな女の子、本当にいるんだな」という印象だった。 一学期が始まると、休み時間には彼女の周りに人垣ができた。そりゃ、美しいものは間近で眺めたいだろうし、あわ…