当番ノート 第53期
2年程前から、現在気仙沼に2軒残る銭湯の一つ「友の湯」に複数のメンバーで関わるようになりました。オーナーの小野寺学さんが気仙沼に帰郷後、震災後にお母さんから経営を引き継いで営業されている銭湯です。建物や配管設備などは老朽化しているものの、それが逆に良い味となっていて、地元の方や観光客の方に愛されている町の銭湯。 2年前の2018年11月26日は、「いい風呂(1126)の日」として、お客さんが入浴し…
当番ノート 第53期
前回は、私の恨み節に相当な文字数を割いてしまい、Uの人間性についての説明がかなりざっくりとしたものになってしまった。とはいえ、彼女が優しさと芯の強さを併せ持つ人であることは、何となく感じていただけただろうか。 もちろん、それだけでも魅力的である。しかし、それだけの人であったとしたら、彼女と私が仲良くなれたかと考えると、どうだろうかと私は首をかしげてしまう。少なくとも私は「素敵な子だなあ」ぐらいにし…
当番ノート 第53期
2010年、留学のために訪れてから何度もロンドンに行っているのだけれど、もうここ数年は行くことができていない。このことが残念でならない。最後に行ったのは3年ほど前になるだろうか、まとまった休みが取れたのでしばらく過ごしてみることにした。 少しの間行ってきます、という話を知り合いの編集者としていたら、ああ、じゃあついでにイギリスのネタで雑誌のコラムを書いてくださいよ、ということになってしまって、遊び…
当番ノート 第53期
雨の音が好き。ぱちぱちと花火みたいな音もあれば、ぽつぽつとボールペンの走るような音もある。 わたしが小さかった時、ブラウン管の砂嵐のざあざあという音を「雨の音みたい」と言ったら、わたしのお母さん、つまりきみのおばあちゃんに褒められたんだけど……そうか、そもそもきみはブラウン管の砂嵐を知らないか。 「耳がいい」と言われその気になった流れで、同じマンションの大学生のおうちでピアノを習い始めた。でも10…
当番ノート 第53期
『ペルシャ猫を誰も知らない』は現代のイランのインディロックシーンを描いた稀な映画だった。ロック、メタル、ヒップホップといった西欧の音楽の演奏の許可が下りないイランで、地下室や、農場や、工事現場で密かに鳴らされていた音楽を世界に開いた。 バンドマン役で映画を主演したアシュカンとネガルは実際にイランで音楽活動をしていたが、映画の撮影直後にイギリスへ亡命している。映画の撮影は当然ながら政府の許可を得てい…
当番ノート 第53期
八日町商店街にある亀屋商店さんは陶器などを扱ううつわ屋さんです。元々船乗りだった店主さんが結婚後、奥様の家業であったうつわ屋さんを継いでいます。食器などを販売する店舗部分の入り口は上の写真の奥の部分にあるのですが、手前側が打ち合わせスペースの入り口となっていて、その独特さにみなさん驚かれるだろうと思います。 ちなみにこのテーブルの脇に店舗部分への通用口も設置されていて、かめこやさんは店舗にお客さん…
当番ノート 第53期
小学校の入学式で初めて目にした同級生・Uの姿は、幼い私には別世界の住人のように感じられた。日に透けると赤みを帯びる柔らかそうな長い髪、白い肌、整った目鼻立ちにすらりと伸びた腕と足――平たく言えば美少女である。比喩としては陳腐だが、「こんな人形みたいな女の子、本当にいるんだな」という印象だった。 一学期が始まると、休み時間には彼女の周りに人垣ができた。そりゃ、美しいものは間近で眺めたいだろうし、あわ…
当番ノート 第53期
昨年の話。つい、新規開拓がしたくなったため、近所の居酒屋をふらふら歩きながらお店を探していた。時間も遅かったので、たまたま開いていた居酒屋に入った。3階建ての2階にあって、その上には怪しげなスナックがある。細い螺旋階段をのぼると、お店に着いた。 「こんばんは〜まだやっていますか?」 暖簾をくぐりながらそう言うと、あれ? 返事がない。閉店の片付けをしているのだな、諦めて外に出ようとしたとき、奥の部屋…
当番ノート 第53期
オーディション番組を見ていると、「チャームポイントは笑顔です!」と元気よく言う女の子が本当に多いのだけど、そんな相手に対して心の中でいつも「本当にそれでいいのか?」と問いかけてしまう。 彼女らは歌とダンスでわたしたちを魅了してくれる。と同時に「恋愛禁止」を公約のように掲げて、そのせっかくの武器である笑顔を恋や愛には使用しないらしい。 夢と恋愛を天秤にかける残酷さも知らずに、6歳のきみは「アイドルに…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
わたしがいわゆるひらかれた場を志向したのは、仲間はずれにされることへの原初的な恐怖からくるものだった。 思春期にさしかかったころから同級生のコミュニティになじめなくなった。自分のアイデンティティをふりかえると、わたしはもともと多層にマイノリティである。第一に両性愛者であること、つぎに発達障害をもっていること。物心ついたころから家族でカトリックを信仰しているので宗教的にも日本では少数派であり、おまけ…
当番ノート 第53期
2018年、再び飛行機に乗り遅れた。 飛行機に乗り遅れるのはこれで三度目だった。 最初は高校3年生のとき、大学受験を終えて東京から帰る便だった。宿があった飯田橋から、羽田空港に向かう経路の選択を間違えた。多分、各停とか快速とか急行とかいった電車用語への理解がなかったので、どこかで遅い電車に乗ったのだろう。空港に着いた時には定刻25分前で、保安検査場が締切られていた。 振替の便の席を翌朝に用意しても…
長期滞在者
目の前に憂鬱が漂っていた。そうみてしまう自分の視点と目線があるのか、現実の世界にそんな事象が広がっているのか。感覚に濁りが生じているのだと思う。 淡々とすぎていた毎日。だが、1日の重みはある。十二分にある。 毎月の綴日である13日付近では、今よりも体調が優れていなかったが、今月は特にオト、イミ、ヒト、カチに触れながらつくりだすことのできるアートワークに巡りあえていた。 他者や外界にあるあらゆる事物…