当番ノート 第52期
昔から、多数決なるものが嫌いだった。いつも自分が負けていたからかもしれない。何を提案しても、私の提案は通らない。何も、おもしろくなかった。それに、最初から反対していたことが多数決で決まって実行され、失敗すると、集団として自分もその責任を取らされるのが嫌だったのかもしれない。最初から、私は失敗するとわかっていたから反対したのに、みたいな感じ。 多分、自分のしたことで一人失敗して詰むなら納得いくんだ。…
お直しカフェ
この2週間ぐらい、明け方背中の激痛と息のし辛さで目覚めて、1-2時間湯たんぽで温めたりストレッチで緩めたりして回復させたあと朝寝、というのをやってたら、案の定今日午前中の妊婦検診寝過ごしたんだけど、謝りの電話したら「それは辛いなーほな、このあとお昼食べた後においで」と慰めとゆるゆるのリスケしてくれたし、到着したら、診察前に話を聞きながら30分以上かけて背中マッサージしてくれたの、地元の小さな助産院…
当番ノート 第52期
今週は「お米もじルンタ」について書こうと思います。 お米文字については当番ノート3回目を是非ご覧ください。 「お米もじルンタ」は9月11日から開催される芸術祭「黄金町バザール-アーティストとコミュニティ 第一部」において川に展示する旗の作品で、ただ今制作中です。(根を詰めまくって腰を破壊しました。) スケッチ 「ルンタ」はチベット語で「風の馬」という意味の言葉です。ご覧になったことがある…
当番ノート 第52期
いこいの森、と呼ぶにはあまりに鬱蒼とした森(じっさいは林くらい)が小学校にあった。 松の木がどしんどしんと植わっていて、小さなため池に育ちすぎた亀と鯉がたくさんいた。手入れがあまりされていないぶん、自然の生き物が自由に暮らしていた。森は静かで、つめたく湿っていて、地面は濡れた枯葉でふかふかしていた。森の奥には二宮金次郎の銅像が建っていた。 6年生は「いこいの森」にタイムカプセルを埋める、という…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
まずは以下のテキストを見てもらいたい。 冷蔵庫の下の方に。デミグラスソースしかない。足元に。イナゴしかない。一文字違いですね、イチゴ。イチゴの方がいいな。大丈夫ですか、頼まなきゃよかったとか。ちょうどいいです。でもなんか、戦場から戻った感じですね。地雷一回踏んだんです。酒飲まない。車で来たんで。芝生をはぎ取るんです、そのあときれいに土を掘ってすぽっと埋めて、またきれいに戻す。その仕事は大企業でやっ…
当番ノート 第52期
友人が結婚したり出産したりする歳になった。月日は早く流れるものだなあと思う。自分自身が結婚などの人生のライフイベントを想定していないと、好きな作品の新刊の発売日ばかり見て時を重ねて、自分自身が結婚できる歳なのも忘れていく。友人が結婚するとか結婚したとか結婚したいとか聞くと、ああ、そういや結婚が可能な歳なんだっけなと気づかされる。時の流れって残酷だ。 マリッジブルーって言うと、結婚前に感じる不安感な…
当番ノート 第52期
田んぼを遠くから見ると、その整然とした風景に圧巻されることがある。緑の絨毯と例えられるその風景は、日本人の誇れるものの一つだろう。 田んぼを近くから見ると、一うね一うね、真っ直ぐに一糸乱れることなく植えられている。田植機のない時代から日本人はまっすぐに苗を植えた。 糸をピンと張ってそれに沿って植えたり、木で作った農具を定規のようにあてて植えたり、工夫して美しく植えた。雑草も一本たりとも許さなか…
当番ノート 第52期
小学校のころ通わされていた英会話スクールでは、みそっかすだった。 毎年サマーキャンプとクリスマスパーティーがあるから、という理由だけで入れられたそこはとても熱心なスクールで、教師とはもちろん、子ども同士でも日本語での会話は禁止、毎朝5時に起きてラジオを聴いて、暗唱のテストに受からなければ教室に入れない、そして日本の名前は使用しない、という場所だった。わたしは社交性がなく、寝坊で、忘れっぽかった。…
当番ノート 第52期
話がうまくないから、人と話すのが嫌だ。とても筋が通っているように思う。一見すれば、だけれど。でも、私の行動としては話しかけに行ってしまう。話がうまくないのに。自分では、馬鹿だなあと思う。できないことをやっても意味がないのに、どうして人と話そうとするんだろう。 人と話して、笑顔を浮かべていると、「私」が私を遠くから見ている気分になる。今、無理して笑っているなとわかる。無理して笑っているから、頬の筋肉…
長期滞在者
3年ほど前から、タイヤが小さいながらも、なかなかにスピードが出る自転車に乗っている。 同居人の親友から譲り受けたものだが、サイズ感も手入れのしやすさも、凝り過ぎることなく自転車ライフを手頃に楽しみたい私にはぴったりであった。 また、偶然にも、チェーンロックの4桁の番号が私の誕生日と同じ番号であった。元々の持ち主が、とあるテクノユニットの片方のメンバーの誕生日をチェーンの解除番号にしていたようだが、…
当番ノート 第52期
「手の記憶」 神様の持っている袋一杯の美しいもの それを人はきらめきと呼ぶんだけれど その煌めきをばらまいてしまうところから このお話を始めましょう そもそも神様は その煌めきにうんざりしていました 人は眩しい、綺麗と賞賛するそれも、当の神様にはただの暗がりでした そうしてある時思ったのです そんなに欲しいならくれてやろうか、 この暗がりを、暮れてやろうか そうして神様は袋の口を開き 開かれた袋の…
当番ノート 第52期
とかく祖母には甘ったれて育った。誰に何をねだるのも下手な子どもだったけれど、祖母にだけは驚くほど素直にねだったものだ。あの、とろけるように甘い飲み物。 祖母の喫茶店は「奈美樹(なみき)」といった。立派な一軒家の一階に店を構えていて、二階は住居になっていた。とんがり屋根の家、といえば祖母の家のことだ。昔からの住人ならすぐに分かる。 アール・デコ調のこってりとした白とグレーの壁に、ステンドグラスの…