当番ノート 第51期
今日こそ自炊しようと決めたのに。 家には頭の葉が成長してきたにんじん、芽が出てきそうなじゃがいもが残っている。しかし時刻は23時30分。とりあえず溜め込んだ洗濯だけでも回すかと、洗剤を求め25時まで開いているスーパーへ駆け込んだ。 この時間からの自炊はしんどい。今日は納豆と安くなっているマグロの刺身を買って帰ろう。レジに並ぶと、「次の方どうぞ、こんばんは〜」としわしわの笑顔で接客してくれる人がいた…
お直しカフェ
前回に引き続き、エプロンお直しの話。カフェのユニフォームとして2年以上使い続けてきたエプロン。コーヒーをハンドドリップで淹れる、ちょうど胸やお腹のあたりにシミがいくつもついて、クリーニング屋さんにも「これ以上シミ抜きすると生地が痛んじゃうな」と言われ諦めていたもの。2着目は一転、プロにお願いしてみようと思い立ち、長く気になっていた染め屋さんを訪ねた。 伺ったのは、京都市の中心部にある馬場染工業。場…
当番ノート 第51期
はじめまして。梅雨入りから夏にかけて季節が移ろう、このみずみずしい2ヶ月間に、週に1回の連載を持つことになりました。あたたかなご縁に感謝します。初回は自己紹介も兼ねて、大学を卒業してから、これまでについて、少しだけお話することにしましょう。 私は現在24歳、社会人3年目です。文系の四年制大学を卒業し、半年ほど前までは、坂下にある小さなドラッグストアで働いていました。 大きな公園が目の前にあるのどか…
長期滞在者
Fruit. 「フリュイ」と読む.果物を意味する男性名詞. 初夏は果物の本領発揮.情熱的にフルーツを愛する者としては、とにかく嬉しい.最良の食べごろを逃すまいという気概を持って、私はすっかりフルーツハンターと化す. 5月のレモンは爽やかで甘みがあって、手に取らずにはいられない.今年は勢いあまって50個ほど瀬戸内の無農薬レモンを仕入れた. ウィークエンドシトロンを作ったり、蜂蜜や塩に漬けたり、レモン…
当番ノート 第51期
北鎌倉の自然につつまれている。 意識をしなくても、そんな風に感じられる。 一人でいても、都会のコンクリートに囲まれた密閉空間にいた時より、寂しく感じていない。 朝、小鳥のさえずりで目覚める。その日によって聞こえてくる鳴き声は違くて、カラフルな音色が朝から楽しませてくれる。 遠くからは、早くから働き者の電車がゆっくりと走りだす音も聞こえる。 さぁ私も動き出そうかな、と小さなアパートの部屋にしては大き…
当番ノート 第51期
夢だった一人暮らしを始めて、ちょうど一ヶ月が経った。 意外にも、新しい生活は身体と心にすんなりと馴染んだ。 朝ごはんと昼のお弁当を作り、仕事へ行き、帰ってきてお風呂に入り、寝る前のちょっとした自由時間を過ごして、眠たくなったら寝る。それを繰り返している。 快速が止まらない小さな駅から歩いて10分ほどのところにある、築15年、家賃5万7000円の1Kのアパートに住んでいる。南向きで、日中は日当たりが…
当番ノート 第51期
東京砂漠は過酷だ。 自分で選んだ道で生きていくため「仕事」という大波で溺れそうになりながら、息継ぎする間も無く1日が過ぎていく。いつものように終電後にタクシーに乗って、家の近くのコンビニで降りる。明日からも武装していくための『チョコラBB』を買うために。 いつしか深夜のコンビニがルーティンになっていたとき、必ず山田さんはレジに立っていた。「いらっしゃいませー」という抑揚のない声、一度も合うことがな…
当番ノート 第50期
一周忌を終えると、一般に「喪が明ける」と言われている。 ずっとどこかで父のことをじゅくじゅくと考えていた1年だったので、いざ喪を終えるとなると、なぜか少し焦った。もう喪に服さなくていい、ということは、父にかまけず晴れ晴れと生きていかなくてはいけない合図のように思えた。どのように振舞っていたんだっけ、父が亡くなる前は自分はどんなことに興味がある人だったんだっけ、と思い出そうとする。 でもそれは、難し…
当番ノート 第50期
「将来は新しいカフェをつくりたいと思うんです」 青色が白く透けている空からまっすぐに太陽の光が落ちる、カラリと暑い昼下がり。土曜日だけの珈琲店に来てくれた20代前半だという男の子が、目を輝かせながら話してくれる。とても面白いアイディアがあるという。 考えていることは確かに新しくて、聞いているだけで楽しい気持ちになれた。でも何をするにも結局、人に応援してもらえるか、好きになってもらえるかが全てだと思…
当番ノート 第50期
昨日の夕方頃に、雷を伴う雨が降っていた。いつもは気圧の変動で頭痛がひどくなっていたり、過呼吸になりやすくなったり気象病が誘発される。 しかし、特別、心が揺れる感覚を味わえた雨だった。 1週間ぶりに打ち合わせをした。うちの近くである池袋・豊島区をエリアブランディングの観点から、盛り上げていくU30のリーダーとだ。 ぼくの今の現状を赤裸々に吐露した。ことばにノイズが入ってしまい、伝達不足であったと思う…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
しょぼい喫茶店に立っていたころ、ときどき「どんな場を作りたいと思っていますか」とか「どういう場づくりを心がけていますか」とかたずねられることがあった。いざそう聞かれると困ってしまう。「作りたい場」のすがたというものが、わたしにはとにかくなかった。 お客さんとして訪れてくださった方の中には、そう言うと意外に思われる方もいるかもしれない。「くじらさんの作る場が好きです」と伝えてくれたお客さんもいること…
かさねのせかい はざまのものたち